第50話 ファイヤーじゃなくてファイアー
「おあわあああああっ!?」
「なんか、ファイヤーなんとかさんが早速ジュニアにやられちゃってる!」
「ファイアー・バード!!」
あまりにも凄まじい炎だったので、他の場所で戦っている人達もそれに注目していた。D・L・Cのリーダーが炎に焼かれているのだ。前代未聞の事態なのは間違いなかった。
「リーダーが真っ先にやられてしまうとは何事だ!」
大柄なヴィーナスと呼ばれる魔術師はヴォルフと取っ組み合いをしながら、リーダーのふがいなさに怒りを露わにしている。
「ジュニアがあんな派手なだけの魔術師負ける訳ないじゃない!」
「うるさい黙れ、この小娘! このデカい小僧を倒したら必ずすり潰すからな!」
「きさん、よそ見なんかして、暇なんかなかと! クラすぞ!」
お嬢さんに気を取られたヴィーナスがヴォルフの強い押しによって戦いに引き戻されている。あちらはほぼ互角の戦いになっているようだ。それはともかくこちらも気を引き締めないといけない。相手が倒れたとは限らない。
(ヴォヴォヴォヴォヴォ!!!)
激しく炎が燃えさかり、相手の影は倒れピクリとも動かなくなっていた。おかしい。こんなにもあっけなく人は燃えるだろうか? 人が燃える様を見たことはないけど、同じ量の木々でさえこんなにすぐ炭になって崩れる訳じゃない。あれは偽物では……?
(キエェェェアアアッ!!!!)
背後で鳥の絶叫のような声が聞こえた! 振り向くと、炎の鳥がこちらに向かってきていた。これはあの魔術師のフェニックス・バーンアウトという魔術だ! やっぱりまだ生きていたんだ!
「勘のいい小僧め! いや、慎重な性格というべきか? 大抵の馬鹿はだませるんだけどなぁ!」
炎の鳥がしゃべっている。でも、本人の姿はまだ見えない。
「あなたほどの者が簡単に倒されるとは思っていません。だから備えていたんです。」
慎重な性格だから? 違うと思う。僕は明らかに格上の敵を恐れて警戒していただけ。アラムさんがMrs.グランデを励ましていたときに言っていた事は本当だった。自分の弱みが自分を守ってくれた。彼の言っていたことは僕も救ってくれた。
「これは見抜けたかもしれないが、コイツはどうかな? 俺を舐めるんじゃあないぞ!」
(キエェェェアアアッ!!!!)
今向き合っている炎の鳥とは別方向から鳴き声が聞こえた。さっき彼自身がいた場所からだ。あそこには業火が燃えさかっていたはずだが……見るとその炎が鳥へと姿を変えていた!
「ふはは、見たか! これが“バーニング・ヘイズ”だ! 炎でも幻術の真似事は出来るんだぜ!」
二手から現れた炎の鳥に挟まれてしまった。違和感のあった燃え方は幻術によるものだったらしい。学院の授業でも聞いたことがある。炎や風の属性を応用すれば幻術のような現象を引き起こせると。陽炎や蜃気楼を魔術で再現する魔術師がいるのだという。どちらも高度なコントロールを必要とするので滅多に使い手は現れないらしいけど。相手はフェルディナンドの弟子だ。ここまで出来てしまうのも納得がいった。
「ファイア・アントを凌ぎきったんなら、もう遠慮はしないぜ。本気の高火力ってのを味わいな!」
二羽の炎の鳥が獲物に狙いを定め、周囲をグルグルと回っている。回る度にじりじりと温度が上がってきている感じがする。徐々に距離を詰めてきているのがそれでわかる。もう逃げ場はないことを思い知らせるためにわざとやっているんだろう。
「今どうやって逃れようか考えているな? 隙間を抜けて脱出とか考えているんじゃあないか? 無理だぞ、無駄だぞ。俺の攻撃からは逃げられない!」
周りを囲まれている以上、炎の鳥の間を抜けるしかないが、余程早く走らない限り抜けることは出来ない。こうなれば上に跳躍して飛び越えるしかなさそうだ。
「はっ!!」
僕は真上に跳躍した。高度自体は十分に稼げた。後は……、
「上に逃げたか! だが、そこからどうするつもりだ? 飛んだだけじゃあ、フェニックスを越えることは出来ないぜ!」
それは十分にわかっているここから飛び越すための跳躍を更にする必要があるから。もちろんその手段は考えてある。追従剣を足場に使うんだ! 追従剣を近くに展開し、空中に静止させた。
「おっ!? そいつを足場に使うっていうのか?」
気付いたようだけど、もう遅い! 僕は追従剣を蹴って、すでに跳躍したばかりだった。これで抜けることが出来る!
「……飛び越えたら終わりだとでも思ったか? フェニックスは二つだけだと思ったら大間違いだ!」
跳躍した先にはファイアー・バードが待ち構えていた! すでに魔術の構成を完成させた後らしく、目の前に火の玉が出現しそれが次第に炎の鳥へと姿を変えていった!
「三つ目だ!」
「うわあああああっ!?」
避けられるはずがなかった。全力で逃れるために動いていたから。炎の鳥と激突し、自分の体が炎に包まれていくのがハッキリとわかった。……これで僕は死んだのか……。