第48話 見て盗んだ技術とだけ言っておきましょうか?
「ロッヒェン様、私はアンネ先生の相手をさせてもらっていいですか? あの方には因縁がございますので。」
「構いませんよ。あなたにお任せします。」
「お気遣い感謝致します。」
彼女は両腕から刃物を展開して戦闘の意志を示している。対するアンネ先生も不敵な笑いを浮かべ、両手の平を上に向けて首を振っている。一度、彼女の体を完全に破壊したことがあるから余裕を見せつけているんだろう。でも、彼女の体は今までと違う。先生はきっと痛い目を見ることになるだろう。
「おい、そこの赤い剣、赤い服を来た小僧!」
「僕の名前はグランツァ・ロッヒェンJrです。」
「名前などどうでもいい。小僧、貴様、炎系の魔術を使うようだな? この俺が炎魔術の神髄を見せてやる。剣士風情の付け焼き刃が本職には通じない事を思い知らせてやろう!」
「お手柔らかにお願いします!」
僕の相手も決まった。暫定リーダーの僕とD・L・C側のリーダーがやり合う形になった。でも、残りは……敵方はあと三人いる。さすがにアラムさんでも多人数相手では厳しいのではないだろうか?
「心配には及びませんよ。私が残りを相手して見せましょう。」
「え……? 僕の考えていることがわかったんですか。」
「読めたわけではありませんよ。状況的にこうなることを予測していたんです。任せて頂いて結構ですよ。」
「クッ、馬鹿にしやがって! 元秘書風情に何が出来る! 呪殺魔術で瞬殺してやる!」
「私の幻術と組み合わせれば勝ち目なんてないはずなんですけどねえ。じわじわいたぶってあなたの化けの皮を剥がしてご覧に入れましょう。」
残りのラスト・ステイクとロスト・ワードはアラムさんを二人がかりで倒すつもりなようだ。直接攻撃する魔術を使わない二人とはいえ厄介な魔術の使い手だ。それをどう凌ぐのだろう?とはいえ、自分の相手も相当手強い。人の心配をしているわけにもいかない。唯一、大人なアラムさんを信頼するしかない。
「まずは挨拶代わりだ! フェニックス・バーンアウト!!」
まだ双方共に仲間と固まったままだ。そんな状態で広範囲をなぎ払う火炎系魔術を敵リーダーが放ってきた。彼の名を彷彿とさせる魔術で作られた大きな火の鳥がこちらに向かってきた。
「ラピッド・ゲイル!!」
アラムさんが前に進み出て、衝撃波のような物を飛ばした。それが火の鳥の勢いを押さえ込んだ。
「ハハッ! 風魔術くらいで押さえ込めるとでも思ったか! このまま押し切って貴様ら全員消し炭だ!」
「オイ、コラ! ファイアー・バード! 話が違うじゃねえか!」
「うるせいよ! 戦うまでもない雑魚はこのまま死ぬだけだ!」
火の鳥は徐々にアラムさんの衝撃波の勢いを殺し始めていた。このままこちらに到達するのも時間の問題だ!
「おやおや。この時点で勝ったとお思いですか? 私が痛いしっぺ返しという物をお見舞いしてあげますよ。」
この状況に対しても余裕の表情を浮かべていた。それどころか、続けて同じ衝撃波を放った。それでも火の鳥は消えない。構わずアラムさんは続けざまに衝撃波を放ち続けた。
「無駄無駄! 同じ魔術を連射したところで俺の獄炎が消せるはずがない! しっぺ返しを食らうのはお前の方だ!」
「塵も積もれば山となる。そして、とある流派には砕寒松柏の言葉を元とする技がありましてね。苦しくとも自我を失わない。これはその精神に基づいた技…魔術です。」
立て続けに放つ衝撃波はうなりを上げてまとまり、巨大な渦へと変化していった! アラムさんは最初からこれを狙っていたんだ!
「ヴォイド・サイクロン・ストーム!!!」
(ヴゥオァァッァァァッ!!!!!!)
「馬鹿な! 俺のフェニックスを風で引き裂いただと!」
火の鳥は衝撃波の渦に耐えきれなくなり、火の粉となって霧散した。それだけでは済まず、敵方のメンバーは衝撃波の嵐で全員吹き飛ばされた。
「さあ、皆さん、今がチャンスです。これで各個撃破の体勢に持ち込めるはず。」
体勢を立て直す前にそれぞれが定めた相手へと向かっていく。でも気になることがあったのでアラムさんに一言聞いてみた。
「今のアレは魔術なのですか? 聞いたことのない魔術ですが……?」
「おかしな事を聞きますね。割と秘術に近い代物でして、フェルディナンド殿から見て盗んだ技術とだけ言っておきましょう。」
見た目の上では風の魔術だった。でも違和感があった。衝撃波その物には魔力を感じなかったのだ。放つ際には魔術の技術を使っているのは間違いないけど、どこか違和感を感じる攻撃だった。なんだったんだろう?
「そこのロッヒェンとかいう小僧! 俺の相手はお前だ! すぐさま倒して、あのスカした男を跡形も残らず燃やし尽くしてやるんだからな!」
「そう簡単には倒させません! あなたにはここで倒れてもらいます!」
すでに相手のヘイトはアラムさんに向かっているようだが、この男を彼の元へと向かわせる訳にはいかない。高位の魔術師に僕の剣術が劣っていないことを証明してみせる!