第47話 義父の敵
「霧中光燐!!」
私が先頭に立ち、トウテツに斬り込む。相手がアクセレイションすら使いこなす魔人なら、私だけでなるべく攻撃するしかないと思ったから。
「見事な物よ。我らの正当技術を知ることなく、剛体術の基礎を身に付けておる。ますます気に入った!」
賞賛するトウテツの言葉とは裏腹に私の連撃はあっけなく躱されていた。命中直前で躱されているから、瞬発的にアクセレイションを使用しているのが良くわかる。私は大武会での失敗で全身を痛めるほどの大怪我をした事を切っ掛けに習得した技術だった。それを平然と私よりも効率的に使用している。並外れた達人としか言いようがなかった。
「驚門打破!!」
(ボッ!!!)
「うっ!?」
(ガギィッ!!!!)
両手の平を利用した強力な一撃が相手から繰り出され、反射的に大鎌で受け止めた。それでも大きく後方に吹き飛ばされて間合いを離されてしまった。その衝撃のためか大鎌…リュクルゴスが軽く歪んでしまう結果になった。
「ごめんなさい、リュクルゴス。」
《気になされるな、マスター。あなたをお守りするのが我が使命なのですから、この程度、再生するのは可能です。》
武器である彼にここまでの損傷を与えた敵はトウテツが初めてだった。守ってもらわなければ、私が大怪我をしていたと思う。それに今の技は……、
「何故、あなたがあの技を……?」
「悪いか? 我らもあの技は基本技術として身に付けておる。」
「あなたも流派梁山泊の師範なのですか?」
「片腹痛い。師範などではないわ。寧ろ、我ら蚩尤一族こそが奴等の源流よ!」
「なんですって!?」
レンファ先生以外は驚嘆の声を上げている。源流があっただなんて聞いたことなかった。レンファ先生もその事実は話していなかった。でも彼女だけ特に反応は見せていないから、元々知っていたのかもしれない。何らかの理由で伏せていたんだと思う。
「うぬら流派梁山泊は我ら一族の裏切り者によって形成された亜流の分派なり。不完全な技術に過ぎぬ。」
「不完全だなんて!? そんなことはありません。全てが素晴らしい技術だと思います。それは先生や宗家さん、ロアから学んだことです!」
「未熟で無知であるが故に間違った事実を盲信しておるな。我が真実を知らしめてやろう。そうすれば、うぬは更なる力を手にする事が出来よう。」
「私の弟子におかしな事を吹き込まないで! エレオノーラ、この男の言うことは鵜呑みにしては駄目!」
源流だなんて信じたくない。たまたま似た武術を使うだけ。私には直感でわかる。闇の力を破壊に使うだけの人がまともなわけない。この人からは魔王によく似た力を感じる。魔王と違うところは、全てが“殺意”に染まっているということ。この人は戦って殺し合う事以外何も考えていない!
「それに……この男は私の父の命を奪ったのよ! 私とロアにとって大切な家族を奪った張本人なの!」
「この人が先生のお義父様の仇!? ロアのお師匠様の敵!?」
「如何にも、あの男に引導を渡したのは我なり。家族等という甘えた幻想に、現を抜かした愚か者に鉄槌を下してやったのだ。」
先生がここまで来た理由がわかった。私を守るためだけでなく、お義父様の仇を討つため。ロアが梁山泊を追放される切っ掛けになったのはお師匠様が亡くなったからだと聞いていた。その元凶が目の前にいる鬼。理由を知ったのなら、この場でこの人を行かしておくわけにはいかない!
「奴は元を辿れば我ら一族の一員。しかも、我と同じく“四凶”の一角よ。奴は“キュウキ”の称号を持ち、内外から恐れられていた。全盛期は我をも凌ぐ、真の“修羅”であった。世の者どもは“修羅狐”と呼ばれ恐れられておったようだな? その白い狐面が朱に染まるほどの戦いぶりは見事であった。」
狐のお面? かつて先生が変装のために付けていたお面。あれはお義父様が付けていた物に由来していたなんて……。
「奴はある時、我と道を違えた。面を捨て、亜流の分派の軍門に下り、槍覇と弟子一人を鍛え上げる事を始めたのだ。我にとってその行為は裏切りに等しかった。……自ら手を下してやったのはそのためよ。あまりにもあっけなかった。それが戦いから身を引いた事の代償であった。」
「父はあなたを殺すに値しないと思っていたのよ。あなたにも目を覚まして欲しかったのよ!」
「抜かせ! やはり“愛”等と言うものは“悪”よ! 修羅道に身を捧げた者でさえ、弱らせる! 腑抜けさせる! 我はそれを語る者どもを殲滅してみせようぞ!」
お義父様がどのような思いで先生やロアに愛情を注いだのかはわからない。でも、トウテツに諭されようと、自らの命を落としてまでもそれを貫いて見せた。その受け継がれた思いをこんな人に穢されたくない。絶対にこの人に負けられない。