第454話 武士たるもの武芸百般であれ
「流石にやりおると言いたいところだが、うぬであろうと我の刀術、体術双方を相手取るには力が足りぬということか。」
「ぬうう! ここまでか……。」
鬼の二刀流+体術は恐ろしいほどに隙がなかった。メインは刀による攻撃、しかも二刀流で隙の少ない上に、隙間から差し込まれる拳や蹴りによって余計に付け入る隙なんて全くなかった。
それを侍は凌いでいる。無傷ではないが、あの嵐のような攻撃から致命傷を受けずに生き残って、あの場に立っている! それだけでも凄いのだ。俺ならとっくに死んでいるだろう。例えティンロンと共闘したとしても、今の鬼には敵わないだろう。
「やはり、我が強くなりすぎたか。そうであれば、うぬとは戦う意味もない。この城の本丸まで駆け上がり魔王を打ち倒すまでよ。」
「フッ、もはやお主には相手にされなくなってしまったか。だがどうであろう? 拙者に打つ手がまだあると知れたら、お主はどうするのかな?」
「何? まだ本領を発揮している訳ではないと申すか?」
普通ならハッタリとか口から出任せって思われるだけなんだろうけど、言っているのが、あの侍だ。アイツがそんな冗談とか気休めみたいな事をするハズがないから、きっと何かある。まだ見せていない驚くべき戦法を隠しているに違いなかった。
「お主が鬼道術を使ったように、拙者の側にもまだ見せていない戦術がある。」
「ならば見せてみよ。せいぜい我を楽しませるが良いわ!」
途端に侍は刀を鞘に納め遠くへ放り投げた! またかよ! 敵前で武器を捨てるなんて気が狂ったかの様な行い! しかも2回目ですよ? 再び同じ行動をとった! じゃあ、また素手なのか? 素手だと余計に分が悪くなるんじゃあ……、
「いでよ、雷刃牙!!」
(ピッシャアアアアン!!!!!!)
突然、侍の手元に一筋の雷光が走った! その雷は侍の手に握られた様な形になり、徐々に何か棒状の実体を形成していった。次第にそれが武器だというのが判明し、どこかで見覚えのある形状となった。アレは大武会の時に使っていた十文字の穂先を持った槍じゃないか! 再びあの武器を見ることになるとは!
「ほう、槍か。良かろう。間合いの差で我に対抗するに踏み切ったのだな。」
「これが拙者の持つ七つ道具の一つ、雷刃牙なり。手数で及ばぬなら、間合いの有利で挑むのみ。」
槍か。確かにあれなら二刀流だったとしても遠くから攻撃できるから有利なはずだ。でも、本当に勝てるのか? 何となく俺の心の中には不安が残っていた。間合い云々では埋められない力の差が鬼の側に残されているのではないかと考えてしまうのだ。
「参る!!」
「ふはは! 存分に我を楽しませて見せよ!!」
二人の激突が再び始まった! とはいえ、侍が猛烈な突きの連打を鬼に浴びせ、一歩も近付かせようとしなかった。鬼は近づけないとはいっても、その嵐のような突きを全て触れることなくかわしている。刀で弾いたり、拳で払ったりすらしていないのだ! その動きにはある意味余裕すら感じ取れる。まるで言葉通り楽しんでいるかのようだった。
「うぬの槍術も大したものよ!」
「槍も刀と同様に鍛練を怠っておらぬ。お主が刀の扱いにも長けておったのと同じ。武士たるもの武芸百般であれ、が我が信条なり!」
確かに鬼が刀の扱いに慣れていたのは以外だったな。俺ら流派梁山泊は扱う武器によって5つの系統に別れてるけど、蚩尤一族はどうなんだろう? 大本の体系はあちらにあるはずなので、似たような系統はあるのかもしれない。
でも、鬼道術なんて物があるくらいだからもっと複雑なのかもしれない。最も名の知られている魔人”ナタク”は不可思議な武器”乾坤圏”を使ってたんだし、参考にならないな。ようわからん一族だわ。
「確かに刀に劣らぬ腕前よ。だがそれ以上とは言えぬ。」
「むうっ!?」
槍に持ち換えても劣ることのない腕前。それは鬼からすれば代わり映えがないと言いたいのだろうか? 確かに徐々に状況は変化している。鬼の立っている位置が段々、侍の方へと近付いて行ってるのだ! 相手に悟られないほどゆっくりと詰めていっている。回りの連中はどうだか知らないが、侍は気付いているはずだ。顔が徐々に険しくなっているから、歯痒い思いをしているに違いなかった。
「及ばぬのなら、拙者も最大の技で応戦するまで!」
「痺れを切らしたか! そうでなくてはな!」
「迅雷一槍閃!!!!」
侍は足に雷光を纏わせたかと思うと一気に前へと踏み込んだ! お得意の雷魔法で地面を疾走する走法を駆使した槍の一撃だった! これの拳版とも言える雷破音速拳は食らったことがあるので、それを槍に置き換えれば更に威力は倍増するものと思われる!
「極凄……、」
侍の槍が鬼に突き刺さると思いきや、槍は刀に払い落とされ足で地面に叩きつけられた! それだけではない! 鬼の拳が侍の腹部にめり込んでいた! それがほとんど間髪入れずに一連の動作によって一瞬で行われたのだ!
「龍旺覇!!!」
鬼の拳が侍の胴体を下から上になぞり、侍の顎を突き上げるまでに到達し、鬼は跳躍しながら拳を更に突き上げた! その勢いのまま、侍は天井近くにまで打ち上げられる結果になった! 終わった。いくら侍であってもあの奥義を食らったら一溜まりもない……。




