第439話 頼らなくても勝てる!
「どうした、エピオンよ? そんな動きでは私を倒すことなど出来ぬぞ!」
「黙れ! お前なんかに言われる筋合いはない!」
オレは戦いが始まってから一度も攻撃を当てられずにいた。ヤツは相変わらず、オレの行動を一歩先に回り込んで阻止するような動きをしていた。前にヤツ自身が言っていたように未来予測が出来るのは本当なんだろうか? デーモン・アーマーの使用、その点は同じだというのにここまで差が出るのは腹立たしい事だった。
「お前はいつまでも鎧との対話を避けるつもりか? 鎧と対話しなければ能力を使いこなす事は出来ないのだ。」
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
一刀両断せんばかりの必殺の袈裟斬り、心臓を一突きし絶命を与えんばかりの疾風怒濤の突き技、これら全てが簡単に避けられている。並みの敵ならその一撃、一撃で決着が付いているはずの物ばかりだ。決して手は抜いていない。何をしようと全てかわされるばかりだった。
「少しは冷静になれ。憎しみの勢いだけで今まで生き抜いてきたんだろうが、それだけでは倒せぬ敵もいるのだ。」
「やってみないとわからないだろ! 今に逆転してみせる!」
「愚かな! やり返せる見込みもないのに考えを改めないとは!」
ヤツはオレを罵りつつ、不意な前蹴りで吹き飛ばした。オレは対応できずにそのまま後ろへと転がされ、無様に転倒することになった。ヤツはすぐにオレの傍らへと駆け寄り、オレの首もとを片手で掴み頭上高く吊り上げた。
「改めないのなら、私との力の差を思い知らせてやろう。力任せ、感情の勢い任せではどうにもならないということを教えてやろう。」
「ぐああああっ!!」
ヤツはグッと力を込めてオレの首を絞り上げた。オレは思わず剣を手から離し、両手で抵抗を試みた。両手を使ってもヤツの力は一向に抑えられなかった。今、一瞬でも気を抜けば意識を失ってしまうだろう……。全力で足掻くが何をしようと脱出は出来そうになかった。
「どうした? このままではお前の意識は落ち、その後まもなく首も砕けて死に至るだろう。お前の戦いは終了となる。」
「く……う……!?」
このまま無様に負けてしまうのか? 剣での勝負ではなく、ただの格闘戦で負けてしまえば一生の笑い者になってしまうだろう。デーモン・アーマーという特別な武具を与えられた上での敗けは許される筈がない。ヴァル様に失望されてしまうだろう。勇者にも笑われる。姉さんは……笑いはしないだろうが、悲しませる結果になるだろう……。そんなことでいいのか……?
「情けないものだな。勢いだけは一人前な癖に、追い詰められたときの踏ん張りが出来ないとは。今まであまり苦戦もせずに鎧の能力に頼りっきりだったとしか思えん。」
「う……うう……。」
「このまま終わるのは勿体ない。今一つ、チャンスをくれてやろう。ただし、無闇に解放したりはせぬがな!」
(どぼおっ!!!)
「ぐはっ!?」
ヤツも剣を放り投げ、空いたその手でオレの腹部を殴り付けてきた! これには堪らず、一瞬視界が真っ白になった。しかも一回では終わらない。何度も間隔を置いて殴り付けてきたのだ。このままではチャンスどころか、本当に殺されてしまう。
「どうした? 気付けにはいいだろう? 首を絞り続けられるよりは意識もハッキリするはずだ。危機的状況もハッキリと自覚できるはずだ。」
(どぼおっ!!!)
「ぐおっ!?」
何か手はないのか? このままでは数発も持たないうちに意識は飛んでしまうだろう。何か……! 殴る勢いは強いものの、首への拘束が一定のままだ。殴ることに意識を向けているから弱くなっているのか? そう考えているうちに何か妙なビジョンが見え始めた。
「持って、あと2、3回といったところだな? それまでに打開出来るかな?」
ヤツの声が遠退き、妙な物が更にハッキリとし始めた。遠くに見えるのは俺とヤツだ。まるで他人事のように見えている。それが何体も見える。よく見れば、その状態に違いがあることがわかった。
ヤツが殴る前、オレに命中した直後、オレがその痛みに悶える瞬間、といった具合に瞬間ごとにその場面が浮かんで見えているのだ。一番遠くに見えるビジョンは……オレの首がへし折られ、血の泡を吹きながらぐったりとしている姿だ! これはオレ自身の未来が見えているのか!
(ようやく見えた様だな。最初のうちは使えていた筈なのに汝は我の助力を拒んでいた。自身の未来を予測し、最悪の結果を避けるために最適な行動を取る。それが我の援護機能なのだ。)
頭に声が響いてくる。これはガノスの声だと理解した。鎧に仕込まれたコアから発せられる声だ。確かに鎧が一度壊れ、再生されたときには聞こえていた声なのだ。オレは不必要と判断し自分の力だけで戦い抜こうとしていたばっかりに忘れていた機能だったのだ。
(我との意志疎通は再び出来るようになった。後は最悪の結果を避けるための行動に移るのみだ!)
オレを上から目線で指図してくるのは気に入らなかったが、目の前の男に負けるのだけは避けたい。この際何を利用してでも勝ち抜くしかないのだ。意地を張って死にゆくよりはマシな結果に進むべきだろう!




