第434話 闇に汚染された者の末路
「シャルル様! やっぱりこちらにいらしたんですね?」
「噂を聞きつけてやって来たのですね。」
彼の方から姿を現した。オードリーが人払いをして二人きりにしてくれていたはずなのに、三人目とも言える彼がこの場にいたのは何か不自然に思えた。最初から私が来るのを待っていたのではないかと錯覚する程に。
「アバンテ様、もう少し私達二人きりにしておいて頂きたかったんですけれど?」
「私も待ちくたびれたんですよ、ヒートバーンズ嬢。あなた方が学友だとはいえ、彼女に対して情が移ってしまうのでは、と危惧していましたので。」
「一体、何の話を……?」
何か、この場に不穏な空気が漂い始めたことに違和感を覚えた。両者共に久しぶりの再会だというのに、それを喜ぶばかりか、彼が私に対して厄介払いをしたそうにしているのが不自然に感じた。
「何を、と言いましたか? 薄々感付き始めているのではないですか? 賢いあなたならわからないことでもないでしょうに。」
「何を言って……、」
「あなたは誘き寄せられたんですよ。不自然にばら蒔かれた噂に食い付き、処刑場に自らやって来たことも知らずに。」
「アバンテ様、単刀直入に申されるのは少し残酷過ぎではありませんか? 私はもう少し柔和に事を済ませたいと考えておりましたのに。」
話が見えない。いえ、私自身が話の真相を究明することを拒んでいる……? ここまで私がやって来たのは彼が意図的に呼び寄せたから? 一体、何故? 処刑場という不穏なキーワードが出てきたのはどうして? 私は何の罪を犯したと言うのだろう? しかも、オードリーまで。二人は何の為に罠を仕掛けたのだろう?
「良く言いますね、あなたも。あなたの方が余程残酷なマネをしているではありませんか。親友を装い、最大のライバルを影で蹴落とそうと画策していたのでしょう? 本来の親友、彼女の妹と結託して貶めようとしていたのですから。」
「もう! イヤですわ、アバンテ様ったら! 私の方から緩やかにお伝えしようとしていましたのに。これでは、エルフリーデさんがあまりにもかわいそうではありませんか。」
オードリーはナドラと何かしようとしていた? 二人の間に交流があったのは私も知っている。彼女は私たち姉妹が不仲な事を知っていたので気を遣っていてくれていたので、あまり表には出そうとしていなかった。でも、それは逆だったということ? 在学時代に起きた不穏な出来事の数々は彼女達が引き起こしていたと言うの?
「ご冗談はお止めください! シャルル様、あなたに聞きたい事があるのです。どうして私の元にいてくれなかったのですか? 魔王の討伐が終われば一緒に添い遂げようと約束してくれたではありませんか!」
「どうしてって? 決まっているではないですか? あなたの様な汚れた女性とは縁を切りたかったのですよ。」
「なっ……!?」
「自覚はないのですか? いえ、そんなことはないでしょう。あなたの治療がどうして困難だったのか? どうして、養生に時間がかかったのか? この事実が暗に示しているでしょう? 神聖魔法を受け付けない体に変質していっているという事実に気付けないあなたではないでしょうに。」
私の体は深く傷付き、治療には多大な時間を要した。だけれど、そこには不自然な点があった。一流の治療魔法を使えるエプリルさんの力を以てしても時間がかかった。
その理由として考えられるのは、私の体が闇の力によって汚染されてしまっているということ。闇の力に染まれば、相反する属性である神聖魔法を受け付けにくい体質になってしまう。もっと汚染が進行すれば、逆に神聖魔法によって傷付き、崩壊するような事態になってしまう。
どうして私はその可能性を考えなかったのだろう? とはいえ、そんな理由で私と距離を置きたがるなんて、理解が出来ない。あれほど愛し合った仲だというのに……。
「どうして? 私を見捨てると言うのですか? 私と共に平和な世の中を暮らそうと、お互いに誓い合ったではありませんか?」
「あの瞬間までは、ね。ですが、あなたは汚染されてしまった。これがどういう事実なのかわからないあなたではないでしょう? 勇者とあろうものが、闇に汚染された人間を恋人にしているなんて事実が知れたら、どうなるかわかるでしょう?」
「そ、そんな……、」
「それにね、貴女はあの時点で死んでおくのが幸せだったと思いますわ。 勇者の盾となり犠牲となった天才魔術師。実は彼女は勇者の恋人でもあった。悲恋の逸話として未来永劫語られる事になるはずでしたのに。」
「ですが実際は運悪く生き残ってしまった。悲恋として語られる筈だった話は、勇者の汚点として遺恨を残す結果になったのです。勇者は恋人を盾にして生き延び、その恋人は闇に汚染されてしまった。私としても不名誉なのですよ。私もあの時点で死んで方が幸せだったかもしれない。」
「シャルル様……、オードリー……、」
私はあの時点で身限られていたのだということを実感した。光の勢力、神十字教団にとって、闇の力による汚染は最も忌むべき事。その人物がどれ程素晴らしい人物であったとしても、汚染は堕落の証拠、悪魔の烙印、決して許されない事だという事実を今更ながらに思い出した……。




