第43話 事件の黒幕
「一体何があったんですか?」
私達は賢者の石を回収し、魔神の迷宮の管制室にやってきた。そこで待ち受けていたのは異様な光景だった。
「何があったのかはわかりませんが、お二人が無事であったことが何よりです。」
「ええ。私達も不思議に思えるくらい、恐ろしいことが発生しました。」
「私達は賢者の石を手に入れることは出来ましたが、こちらにいるレンファ殿に助けられ、驚くべき事実を知らされました。これからそれをお話しします。」
――――私達は互いの身に起きたことを話した。両者ともに驚くべき事が起きていたことがわかり、嘆息を付く他なかった。だが、共通の人物に惑わされたのは間違いなかった。
「あの鬼の面の男の正体がそんな恐ろしい存在だったなんて……。」
「迷宮に空いた穴を見たとき全てを悟りました。あの男がこの場所に到達してしまった事を……。」
事実を知り、フォグナー殿、レンファ殿両名はうなだれた。互いに無事だったとはいえ、絶望的な状況になったのは間違いない。別の脅威が外からやってきた。それが今、迷宮の奥地に向かっている。
「まさか、D・L・Cと結託してしまうなんて、想定外の展開です。」
「鬼の男はサンダー・ボルトとバニッシュを殺害し、そちらはロング・フォース、ロスト・ワードを撃破したのですよね? ということはD・L・Cは残り三名……?」
フォグナー殿は彼らの残り人数について何故か言い淀んだ。何かおかしいところがあったのだろうか? 確かに私はロング・フォースを暗黒の空間に追いやったし、レンファ殿はロスト・ワードを撃破した。この目で見たのだから間違いはないはず……?
「ロスト・ワードが死亡したのは間違いありませんか?」
「ええ。確かにレンファ殿によって倒されました。槍で貫かれた上に落下した衝撃で頭部が割れてしまいました。あの状態で生きているとは思えません。生きているとしたら正真正銘の化け物ですよ。」
「そうですか……。でも、不思議な事にこちらでも彼女の姿を確認しています。先程までここにいたのですよ。」
「なんですって!?」
私はトープス先生、レンファ殿と顔を見合わせた。二人とも私と同じく驚愕の表情を見せていた。やはり間違いないのだ。あの女はあの場で死んでいたのだ。少なくとも私とレンファ殿はその一部始終を目撃していたのだ。見間違いとは思えない。
「この事実を分析してみると、彼女は“死”すら幻術で偽ったとしか思えないですね。ファイアー・バードらと共にいたあの人物は間違いなく本物だったと思います。」
「私達が見たのは幻術だったのでしょうか……? そこまで高度な幻術を駆使できる人物はこの世に存在しているかどうか怪しい所です。」
近くに本人がいたのなら説明が付くが、この迷宮にいながら、遠く離れたフェルディナンドの私室に幻影を飛ばすことは出来るのだろうか? 如何にD・L・Cが優れた魔術師の集団とはいえ、そのレベルの魔術は人の域を逸脱している。
「これは重大な事実なのではないでしょうか?ロスト・ワードという人物に警戒しておいた方が良いかも知れません。この事件が起きた事ですら不可解な事が多いですし……。」
「それはどういう意味ですか? 我々が知らされている事件の発端は偽りであると……?」
「一つの可能性が思い浮かびました。この迷宮に封じられている魔神に関連する物として、ある魔神の事を思い出しました。」
この迷宮には鶏の魔王ポジョスの眷属、ブラックアーツ・ガンダーが封じられている。彼ら四天王の眷属の力は八傑衆の魔王達に匹敵するという。確かにポジョスの配下には他にも有名な者が何名かいたと思うが……。
「恐るべき幻術の使い手がポジョスの眷属にいたことを思い出しました。彼女なら並外れた幻術を駆使してもおかしくありません。」
「ですが、あの魔神は以前の魔王戦役で討たれたのでは?」
「それすら偽っていた可能性もあるのでは?」
「うう……確かに考えたくはありませんが、今回の事件での出来事を見ればあり得るかもしれませんね……。」
ここに来て更に恐ろしい事実が発覚してしまった。もしそれが本当なら、四天王が本格的に活動を開始した事を意味する。特にポジョスは危険極まりない魔王だ。彼が表舞台に現れるということは魔王戦役が開始されるという事と同意なのだ。
「これがポジョスの仕組んだ策略なのだとすれば大事です。なんとしてでも阻止しなくては、魔王戦役にまで事態が発展してしまいます!」
「急いで彼らの後を追いましょう。迷宮攻略班にも危機が迫っているのですから。」
私達は迷宮最深部に向かうことを決意した。敵側の戦力は驚異的だが、人数ではこちらが勝る。それを生かしてうまく立ち回るしかない。ここで負けるわけにはいかないのだから……。