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第42話 勇気というもの


「とうとう……ここまで来ましたね。」



 私達はついに地下10階に辿り着いた。管制室に異変があって以降、更に敵も強くなり攻略は熾烈を極めた。しかも、フォグナーさんとも音信不通になったため罠の解除なども自分たちで行わないといけなかった。



「表向きは最後なんだから、ラスボス、超強いんじゃない?」


「おそらくそうでしょうね。でも、僕達はこれまでの試練を乗り越えてきました。ですから、最後もうまくいくと思います。」


「でも、ホントの最後ではない……なんて言ってみたりして!」


「やめて下さいよ、お嬢さん(フロイライン)。冗談では済まないのが今の状況なんですから。」



 ミヤコちゃんとグランツァ君が冗談を交わしている。普段の学院生活では二人の様子を見ることはないけれど、知らないうちに仲が進展してたということが良くわかる。正直、もう正式に付き合っちゃえば良いのにと思う。



「不安ですかな? あなたほどの実力者が?」


「い、いえ。そんなことは……。」


「顔に書いてありますよ。」



 アラムさんに内心不安に感じていることを指摘されてしまった。私は今のパーティーで比較的に年長者だったので、リーダーの立場に立たざるを得なかった。だからこそ不安とか恐怖を押し殺して先頭に立つことを意識していた。



「駄目…ですよね。リーダーがこんなことを考えていては……。」


「別にあなたを責めている訳ではありませんよ。誰にでもあることです。恥じる必要などありません。」



 この人は私に何を話そうとしているのだろう? 何の為に? まだ初対面だというのに私に手を差し伸べようとしている。まるで向こうは以前から私達を知っているかのような感じもする。



「他者よりも敏感に恐怖を感じる者。他の言葉に言い換えれば、臆病者。世間では軽く見られがちですが、時には強みともなります。」


「それはどういう時でしょう? 私には思い浮かびません。欠点にしか思えないんです。」


「恐怖を感じるということはその対象の強みを知ったからに過ぎません。その強みが自分に対し脅威になり得るからこそ、それを恐れるようになるのです。」



 確かに言われてみれば、恐れる感情を抜きにしてみると、そういう見方が出来るような気がする。相手の強みが自分では敵わないと思うから恐いと感じる。私自身の過去の出来事に照らし合わせてみると不思議と納得が出来た。



「その強みがわかるからこそ、それに対策を講じる事が出来るようになる。その間は恐怖という感情との戦いになってしまいますが。」


「確かに何度も怖さに押し潰されそうになったことがあります。そのまま負けてしまう事が多かったですけど……。」


「失敗はしても死ななければ次に生かすことは出来るでしょう。人はそれを積み重ねて強くなっていくのです。何度も恐怖を乗り越えていく。」



 生きてさえいれば次に生かすことが出来る。それは私の愛するあの人から教えてもらった事。何よりも彼自身がそれを実践して乗り越えてきているから。



「その行為を人は“勇気”と呼ぶのではないでしょうか? それを行使する者が“勇者”であると。」


「その通りだと思います。私の身近にそういう人がいますから、良くわかります。」



 ロアからこの前聞いた。この人は彼に同行取材したいと申し出ていたと。そして、勇者ロアの大ファンを名乗っていることも。よっぽど勇者の事を尊敬しているのだと思う。



「でも、どうして勇者ロアに興味を持っているんですか?」


「私に無い物を持っているからですよ。」


「アラムさんに無い物?」


「私には先程話したような“恐怖”という感情を持ったことがないのです。」



 まさか……。恐怖を感じない人なんているわけない。きっと謙遜をしているんだと思う。この人は物腰が柔らかくて、気遣いが出来る人だから。ここまでの道中も何度か彼に助けられた。それは他のみんなもそうだった。この人は積極的に強さを見せる人ではないけれど、相当な実力者だと思う。本職が何か忘れてしまうぐらいに。



「私は人一倍、好奇心が強い人間でして、そのためか恐怖を感じる事が出来ないようなのです。これまでの人生も危険な目にたくさん会ってきました。その度に同僚に助けられたりして、窘められる事も数え切れないほどです。」


「アラムさんの周りには素敵な人がいっぱいいるんでしょうね。そんな気がします。」


「そうかもしれませんが、ただ単にずば抜けて運が良かっただけなのかもしれません。なので余計に勇者という存在に心引かれてしまうのでしょう。」



 不思議な人……。話している内に恐怖が吹き飛んでしまったような気がする。本当はいけないことなんだろうけど、それくらいの気持ちでぶつかっていかないといけないと思う。この先は何が起きるかわからないから。


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