第411話 タイプ”108”
「犬の魔王を倒した奴を倒せば、俺が最強って事になるな! オマケに犬のコアもゲットできるぅ!!」
「大した自信じゃないか? お前の兄弟はゴミみたいに蹴散らされたっていうのによ。」
見た目は他と一緒だ服装や武器の差は誤差みたいなもん。だが口ばかりではないと俺の勘が告げている。この個体は間違いなく手強い。たしか108とかいう数値を口にしていたが、頭の側面、髪を剃り込まれた部分には数字らしきタトゥーが見える。ナンバリングが彫られていること自体に何らかの意味があるのだろう。しかし108……? どこかでその数字の羅列を耳にしたことがあったような……?
「勇者ロアからパク……もとい弟子入りして見て盗んだ技の数々にお前は耐えられるのかな?」
「あぁ? 何言ってやがんだ? あの勇者がどうしたっていうんだ?」
「まずはこれでも食らっとけ!」
背中から両手持ちの大剣を瞬時に取りだし、俺へと切っ先を向け立ち向かってきた。ここまでの一連の動作を見る限りは他よりは洗練されていると言える。だがそんなのは多少毛が生えた程度。実際に強いかどうかは……、
(ゴギャンッ!!!!)
「破竹撃!!」
「ぬぅっ!?」
急激な速度アップからの踏み込みの一撃! ごく単純な上段からの振り落とし! 他の雑魚共とは比較にならんほどの衝撃の強さだった。しかも”破竹撃”と言ったな? コレは勇者が使う東洋流派の技じゃないか!
「弟子入りとかパクりとか言ってやがったのはそういうことか! てめえは勇者のところでスパイをしていた個体だな!」
「ようやく気付きましたか、おバカちゃん! そうともよ! 俺はあの勇者からパク……技を教わった一番弟子ってことだぁ! 言っとくが、一番出汁じゃないぞ? 出涸らしにはこんな強さは身に付かないからなぁ!」
「いちいちうるさいんだよ、てめえは!!」
(ガゴッ!!!!)
無駄におしゃべりな口を封じるが如く、お返しの打ち込みをタマネギ野郎にお見舞いした! だが臆する事もなく、相手は余裕の表情で攻撃を受け止めてきた。腕力自体も他の個体よりかはあるようだ。イラッとさせてくれるじゃないか!
「おっ? ちょっと焦ってるんじゃない? 俺っち様が以外と強いとか思ったんでない?」
「だからどうした? お前程度じゃ俺をビビらせるには百年早い! これくらいの強敵なら数えきれないほど相手にしてきた。少なくとも犬の魔王に比べればお前のは屁みたいなもんだぜ!」
「なるほど! おならっ屁ってか? じゃあ、お次はスカシっ屁でも食らうかぁ?」
(ドヒュン!!)
「むっ!?」
舐めた言動を繰り返した上で突如目の前から消えた。俺との鍔迫り合いから抜け出すとはやってくれるな。まだ近くにいるには違いないが、気配が消えてしまっている。あのクサ過ぎるほどに存在感を放っていた男が気配を……、
「ぷっすぅ!」
(ゴギッ!!!!)
俺の神経はおれ自身が知覚する前に反応し攻撃を防いでいた。突如として俺の死角、左側面を狙って攻撃してきたのだ! 気配を消してからの奇襲、しかも俺の目の前でそれをやってのけやがった。相手を一瞬でも見失うってのは屈辱的なことだぜ!
「スカシっ屁に気付くなんて鼻がいいじゃない! でもそんな無粋なアナタにはオマケをあげちゃう♡」
(ドゴァァァァン!!!!!)
「むぐうっ!!!???」
目の前で突然の爆発! たまらず俺はとっさに身を引き間一髪で回避に成功した。爆発……たしか報告にも上がっていたな。あのスパイ野郎は勇者の技をコピーしただけでなく妙なアレンジをしているという特徴があるらしいな?
なんでも、技の大半には爆発を伴うという話だ。今まさに見せられたのがコレだったのだろう。猿の魔王軍団との戦いではアーク・デーモンに対して使用し、圧倒していたともされている。舐めたマネをしてくれるぜ!
「バビっと一発爆弾っ屁から逃げるなんて、大したオナラ嫌いなこと!!」
「この世に屁が好きな奴なんているもんかよ!」
「ちなみにこれが”空隙の刃”改め”爆隙の刃”ね! 爆発は俺っちのアイデンティティ! 簡単アレンジで威力倍増だなんて、俺っちってやっぱ天才!!」
「何がアレンジだ。パクりの上に粗悪な改竄。元ネタレイプにも程があるぜ。」
「流派梁山泊の人間でも無いクセに難クセつけないでくれるぅ? クセぇの嫌いなクセに!」
「クセクセうるさいんだよ、このタコがぁ!!」
いちいちイラつく野郎だ! さっさとけりをつけて羊の魔王の本丸に向かいたいモンだが、どうも調子が狂う。大して強くは無いはずなのに妙に俺の攻撃のポイントをずらしてやがる様な気がする。俺の一撃が最適なタイミングで入っていない。こうもずらされていなければ既に奴の武器はへし折れているはずなんだが……、
(ミシッ!!)
「なっ!?」
俺の断頭鋏に亀裂が……? バカな! 相手の武器を壊すどころか、奴に武器を壊されていたと? そんなはずは……。先に犬の魔王と戦った時のダメージでも残っていたのか? きっとそうだろう。そうに違いない……。




