第405話 じゃあ実際に戦ってみればいいじゃない?
「なにをどう言っても俺とまともに戦えなきゃ、相手としては失格だ。つべこべ言わずに確かめてやる!」
ケンオウ様、ご乱心! とうとうしびれを切らしたケンオウの拳が私に向かってきた! 散々待たされたからって、こんなイタイケな少女をグーパンするのかぁっ! いかん! 顔面への直撃だけは避けねば、グロい顔面で一生を過ごす羽目になってしまう! なんとか避けるんやっ!
「ひょいっとな!」
「な、何!?」
「コヤツ、ケンオウの拳の上に飛び乗りよった!」
「俺の攻撃をかわしたどころか、飛び乗るなど器用な真似を!」
「いやあ、無我夢中の即興で披露した甲斐がありました!」
拳が来る→ヤバイ→とりあえずその場でジャンプ!→かわす→跳んだけど着地は?→結局無事死亡するやん!→こんなところにいい足場が!→あ、これケンオウの拳やん! という過程を経て現在のような状況に至っております! こんなんたまたま! ちょっと華麗にスッと避けたつもりがこんな状況に?
「こんなことが即興で出来るものか! そうとうなセンスと身体能力がなければ実現できないような動きだ! よかろう、合格だ! お前はこの拳王と戦う資格を得た!」
「ちょ! そんなので資格試験合格でいいんですか? もっと、こう、何か、面接試験とか経た上でないと不公平感ハンパないですよ?」
「拳王の攻撃をかわしただけでも及第点じゃろう。さっさと覚悟を決めい!」
「そんな殺生な!」
なんか町歩いてたら呼び止められてスカウトされ、ついていった先が大聖堂で無事聖歌隊に入隊しました、みたいな歌姫の王道パターン的なデビューエピソードみたいな事になってるよ! なんで? 飛び乗っただけやで? ちょっと疲れて腰かけたら、聖人の銅像の一部でしたみたいな? なんかもう反対側の拳がこっちに向かってくるのが見える!
(ブウンッ!!)
「ごみゃっ!!??」
「またかわした! フラフラしている割にはよく動く!」
当たりそうになる直前足元がふらついた反動を利用して、後ろへ宙返りしつつジャンプ回避! アーンド華麗な着地で窮地を脱した私であった! しかぁし! 次なる拳が新たに向かってくるのであった! どうする? 着地直後でノープランな私はスルッと避けたついでに足を振り上げる!
「食らえ、お馬さん怒り上げキーック!!(※トラース・キック)」
(ガスッ!!)
「グフッ!?」
「蹴り上げた拍子に相手の腕を跳ね上げて、拳を顔面に跳ね返しおった!」
おや? またしても意図せずに回避してしまったようだ? しかもカウンター入ってました、なんて展開に? これはあのアホ勇者が馬に乗ろうとして馬に蹴飛ばされている様を再現しようとしただけの馬の物真似のつもりだったのだが? モノの見事に返し技として成立してしまったのだ。
「ぐふぅ、今まで俺の拳を蹴り上げて打ち返したようなヤツなんて今まで一人もいなかったぜ。もうこれは、俺が全力を出しても問題ないと見た!」
「今までの行動が完全に拳王の闘争心に火をつけてしまったようじゃの。」
こんなの事故だ! やろうとしてやったことじゃない! ちょっと避けて、ふらついて、物真似したつもりがこんなことになってしまったんだぜぃ? 少し窮地から逃れようとしたつもりが余計にピンチに陥らせる結果となったのか!
「剣を抜け! さもなくば、お前は早急に物言わぬ肉塊と化すであろう!」
(ゴオッ!!!)
顔のすぐ横を突風が通りすぎていく! ちょうどどうしようか困っていた時に首をかしげたらコレだ! これだけで私の恐怖スイッチはオンになり、次から次へと繰り出される攻撃の数々を避け続けさせられる羽目になっていくのであった!
「剣を抜けと言っている! 避けるだけの行動をお前は続けるつもりか! 前の二人は怖じけることもなく俺へ連続の攻撃を浴びせてきたぞ!」
避けるだけの行動、それって二人にたいしてしてたアンタの行動じゃん! 言ってやりたかったけど、そんなのしている暇すらない! ちょっとでも油断したら体のどこかがなくなる! 吹き飛ばされて再起不能にされる!
「剣を抜けぃ! 抜いて、勇者の戦いぶりを思い出すのじゃ! そうすれば道は必ず開かれる!」
そんな抜け抜け言われても! 人前じゃそんな簡単に抜けるもんじゃないですよ! そんなの思春期の男の子でも無理ですよ? それをいたいけな少女に向けるなんて、ヒドイわ! ヒドすぎるわ! もういい! アホ(勇者)になったつもりでなんとか潜り抜けたらぁ! ……結局、抜いちゃうのかよ、って突っ込みは無しね!
「抜きましたぁ!」
「抜くのが遅い! 隙だらけだ!」
(ブオンッ!!!!)
抜いた瞬間を狙われました! 死んだね、コレ! だけどなんかこうフワッとした感覚が体を襲った! それも飛べるはず……そんな気分で思いきってジャンプ! 気がついたら相手の背後に回り込んでいました! え? これ、反撃のチャンスじゃない?
「怒涛の峰打ちアタック!!」
(びしぃ!!!)
「おお! これは戦技一0八計、”空隙の刃”じゃ!」
なんだかよくわからんが、即興の技がアホ勇者の技と酷似していたらしい! まさかの成功? ただ似ていただけ? どっちかわからんがとりあえず技が炸裂した!




