第397話 破滅に立ち向かった者達
「僕が似ている? 他人の空似ではないですか? そもそも”不死鳥の騎士”は実在しなかったはずでは?」
「何を言うか! 同時代を生きた俺が言っているんだ! 実在しないはずがあるか! なぜヤツの人生の足跡が架空の出来事とされているのだ!」
目の前の人物が実在した”拳王”なのだとしても、彼が当時の人間なのだという証拠はない。なので”不死鳥の騎士”が彼と因縁のある相手だと豪語していたとしても、僕とは関係のある人物とは限らない。僕やご先祖様はあくまで彼の伝説に憧れ、影響を受けた後世の人間にすぎない。
「拳王よ、残念じゃが、”不死鳥の騎士”の血はその代で途絶えたとされておるのじゃ。そなたはヤツが息絶えるよりも前に命を落としておるじゃろうから、その事実を知らぬのじゃろう?」
「何? アイツは子孫すら残していだと? バカな! 俺も愛した”風の乙女”と添い遂げたのではなかったのか? あのバカ者め! 志半ばで倒れ先立つ俺が託したというのに……。」
「残念じゃが、その”風の乙女”もオメガ族との最終決戦で命を落としたといわれておる。その証拠に実の弟が生涯かけて蘇らせようと”賢者の石”の研究に没頭しておったほどじゃからのう。」
賢者さんが口にしたのはつい最近明らかになった話だった。魔術学院の学長にずっと君臨していたフェルディナンドの手記が死後に発見され、恐るべき研究を行っていたという事実が明らかになった。”賢者の石”を魂を入れるための器として作り上げたのだと言われている。
千年近く研究していたとはいえそこまでが限界だったらしい。受肉させるための肉体を作る研究がうまく行っていなかったらしい。
羊の魔王が複製人間の作成に成功したという事実を知ったら、彼はどう思うのだろうか? もしかしたら、いかなる手段を使ってでもその成果を入手するために動いていたのかもしれない。それほど彼は姉である”風の乙女”の死を嘆いていたのである。
「ハッハ……あの朴念仁の小僧が禁断の研究をしていたとは……。不死鳥の騎士、ジェダス・バーンフィールド……。ヤツも俺達の挑んだ戦いの果てに死んだというのか……。」
「そなたらの戦いの詳細な記録は残っておらぬ。あまりにも激しい戦いだった故に国がいくつも滅び、歴史が喪失してしまっておるのじゃよ。民間伝承として辛うじて残っておったのを劇作家が構成し作品として残ることにはなったのじゃがな。」
「滅んだ? オメガ共の破壊は止められなかったのか?」
「破壊は最低限に留まった。あの戦いに参加した者達の働きによってな。もしできていなければ、今現在まで世界は残っておらんかったじゃろうな。」
ことの顛末を知り、拳王は涙を流している。賢者さんの話が本当なら彼の仲間は全て討死したということになるのだから。そうなるのも当然の話で、彼らは世界の破滅とも言うべき”凶星”の落下を命と引き換えに阻止したのだから。
”凶星”とはオメガ一族の最大の秘術で、天に存在すると言われる星界から星を呼び寄せ大地に落下させるのだという。これもあくまでフィクションとしての誇張とも言われてはいるが、近年、その痕・爪痕とも言うべきクレーターが発見されたらしいので、少なくともそれに匹敵する驚異は実在したのでは、という向きになってきているそうだ。
「俺の死後に何があったのかは大体わかった。ヤツの子孫はいないということも含めてな。だが、その意思を継いだ者がいるというだけでも十分ではないか。俺と戦う権利がお前にはあるのだ、小僧よ。」
「あなたと戦う事は避けられないようですね? あなたは魔王の配下である以上、先に進むためには倒さないといけないのですから。」
「よい覚悟だ。ますます気に入ったぞ、小僧!」
彼が本当に拳王なのかどうかはわからない。でも、その名声に匹敵するほどの実力は備えていると思う。一人でいとも簡単にオニオンズの大群を殲滅させるほどなのだから。覚悟を決めないと容易に命を落とすことになりかねない。最初から全力を出すつもりでいかないといけない!
「ここは僕一人で戦います。」
「何を言うておる! そなた一人では危険じゃ! たった一人で魔王の尖兵共を倒してしまうような男なのじゃぞ!」
「彼も一騎討ちを望んでいると思います。宿敵の面影がある僕と戦いと思っているはずですから。」
「いいぜ。まずはお前がどれほどの実力を持っているのか確かめさせてもらう。戦うに値しないと判断すれば、他の連中ともどもまとめて相手をすることにしよう。」
拳王も僕の意思に呼応してくれた。あとは全力でぶつかっていくだけだ。剣を構え、追従剣を分離させ魔力を込める。炎の魔力を込めて自らの分身の陽炎を作り出す。この技を使わないと彼に勝つことは難しいと判断したため、最初から使うことにしたのだ。
「おお! 不死鳥の幻影じゃないか! アイツの陽炎にはよく苦戦させられたものよ!」
「あなたの知る不死鳥の騎士も使っていたのですね? ならば問題ないですね。コレが初見ではないのならばこちらも気兼ね無く使っていける!」
拳王は両の拳を目の前で揃えて盾を作るような構えを取っている。これは防御主体の構えであることは明確だった。こちらの攻撃をどんなものでも受け止めて見せるという意思を感じとることができた。僕の実力は古の実力者にどこまで通用するのだろう?