第396話 恐怖! 爆殺拳炸裂!?
「ゴリラ? 巨人? ハッハ! 言ってくれるじゃないか! 近頃の子供は俺の名どころか顔すら知らんらしい。俺の生きていた時代では俺の名を聞いて皆震え上がったもんだぜ?」
「えっ? じゃあ名のある有名なゴリラなんだ? 震えるくらいレアな?」
「プリちゃん、あんまりそういうこと言うと失礼になってしまうアルよ……。少なくともゴリラではないアルね。」
「まさか……コヤツ……?」
賢者さんは彼を見て何か思い当たることがあったようだ。拳闘士のような格好、常識外れの巨躯……。しかも、名を聞いただけで恐れおののくような名声の持ち主……? 記憶を頼りに思い出してみたら……一人該当する人物がいた! 歴史上の人物であり、あの有名な悲劇に登場するあの人物なのか……?
「ちょっおっと、旦那よぉ? 俺っち達の獲物を奪わないで欲しいんだけど? 俺らがこの餓鬼ども倒した上でグッチャグチャに乱暴働くってのが、ハリス様からのお達しなのに邪魔するんすかぁ?」
本来仲間のはずのオニオンズが割って入ってきた大男に文句を言い始めた。戦いを無理矢理中断され、腹を立てている様子だ。彼も屈強なことに自信はあるんだろうけど、数多くのオニオンズを相手にするには流石に分が悪いのでは? それでも彼はふてぶてしい態度を崩さず、オニオンズ達の言い分に耳を貸すつもりはないようだ。
「あぁ? 不満だってか? お前らごときの人間の出来損ないが出る幕じゃないぞ。引っ込んでな。」
「ムカついた! ちょおムカついたんですけど? 邪魔すんなら帰って……ゲボァ…っぴ!!??」
食って掛かったオニオンズが突如奇声を発した。いや、それどころかあったはずの体の部位がない! 首から上の部分が消失し、鮮血が吹き出ている! その手前には大男の拳、明らかに振るわれた後の状態で止まっていた。
あのオニオンズは顔をまるごと吹き飛ばされたのだ! 一瞬の拳撃によって……。あまりの早さ強さのためか、振るわれた瞬間が見えなかったし、オニオンズの体はその場に原型を残して立ち尽くしている。目で見ることさえ困難な一撃が頭部だけを破壊したんだ……。
「ほら見ろ! この程度の肉体の強度で俺の相手をするなんて愚かな真似はやめておけ。でないとコイツと同じ目にあうことになるぞ?」
「うるっせい! こんなことされて黙っていられるか!」
「コッチは数がいるんだ! この人数で一斉にかかれば……、」
(ボンッ!!!!)
瞬く間に襲いかかろうとしたオニオンズの腹が大男の拳によって貫かれた。またしても対象の体を吹き飛ばすことなく体の部位を破壊した。アレはとんでもない破壊力を持った兵器だ! 拳という体の一部を使った攻撃だと言うにはあまりにも強力すぎる攻撃だった。
最初の一体を屠ったのを皮切りに次から次へと襲い来るオニオンズを拳の一撃でなぎ倒していく。そのどれもが体の部位のどこかを欠損した上で絶命していった。数が多くても、一度に多方向から襲いかかられても何をしようと問答無用で倒されていく。まるで強さの次元が違うといったような戦いぶりだった。
「手応えのない奴らよ。コレだから作り物は偽物に過ぎないんだ。付け焼き刃で生まれたばっかりではコレがせいぜいだろうよ。」
「そなた、”拳王”じゃな?」
「うん? 俺の名を知っている人間がいたか。いかにも、俺は泣く子も黙る”拳王”様よ!」
「け、”拳王”ですって!?」
「知っているのか。ロッヒー君?」
「知っているも何も、世界三大悲劇にも数えられる名作”不死鳥の騎士”にも登場する、”拳王アウグスト・クプカ・クレイトス”ですよ!!」
「拳王って、あの拳王? う、うそだぁ~!?」
プリメーラさんも拳王という単語でなら知っているはず。聖歌隊の公演の演目として有名なあの作品の登場人物名のだから。あれは実話を元にしたフィクションだと言われているけど、拳王は実在の歴史上の人物としても有名だ。歴史の教科書には必ず登場する人物なので歴史を勉強したことがあるなら覚えている人も多いはず。彼はコロッセオでの拳闘試合の無敵の帝王と呼ばれていたことで有名で、それが”拳王”という二つ名の由来になっている。
「俺の名をフルネームで言えるとは、気に入ったぞ、小僧。そこの竜族の女もだ。」
「むう! やはり拳王であったか……。これは厄介じゃぞ。羊め、末恐ろしい人物を蘇らせおった!」
「蘇らせたのがあの魔王だってのは気に食わないが、未来の世に蘇らせてくれた事には感謝している。この時代には中々の強者が揃っているって聞いたからな。勇者が歴代稀に見る愉快なヤツらしいな? ここにはいなかったようで残念だが。」
「生憎、アヤツはここにはおらぬ。かといってそなたをアヤツに会わせるわけにもいかぬ。」
「これはこれは是が非でもお前達を倒して勇者に会ってみたくなった。あのカレルとかいう男も勇者に執着しているようだしな。勇者の仲間を倒して実力を認めさせねばなるまい。ここには俺の因縁の相手によく似た男もいることだしな。」
拳王は僕の事を指差し不敵に笑って見せた。僕が因縁の相手に似ている……? 本当に僕であっているんだろうか? 彼の因縁の相手と言えば”不死鳥の騎士”が思い浮かぶけど、彼の実在は証明されていないことで有名なのである。ロッヒェン一族のご先祖様にも同じ二つ名の人はいたけど年代が違う。あくまでご先祖様は伝説の人物に肖って名乗っていたに過ぎないはずだけど……?