第395話 勇気の感応
「くうっ! 倒しても倒しても、いくらでも出てくる! キリないよ、コレ!」
「強さでは敵わないからって、物量で僕たちを圧倒しようとしてるんですよ!」
僕たちが塔の中を進めば進むほど、敵の数は増える一方だった。ゲイリーさん、いや、オニオンズの猛攻はそれぐらい熾烈だった。しかも、今はヴォルフさんとジムさんが勇者カレルさんとの戦闘で負傷してしまっていたので、実質4人で戦わないといけないのが余計に困難な状況を作り出しているように思える。明らかにこちらの状況を見て魔王軍は的確に攻撃してきている。
「死ねぇ! クソ餓鬼ども! お前らがハリス様に楯突くには10年も20年も早いんだよぉ!!」
「んもぉ! ゴリラみたいな脳みそまで筋肉みたいな人に言われたくない! ゴリラのクセに人間様に楯突くなんて100年早いんだよぉ!!」
オニオンズと戦いながらプリメーラさんは激しい口喧嘩までしている。あまり実戦経験のない聖歌隊出身だという彼女の強さは目を見張るものがあった。普通の男性の一回りも二回りも大きい彼らを相手にしていても全然引けを取らない強さだ。オニオンズは体格が優れているというだけではなくて、戦闘技術も高いはずなのに熟練の戦士並みの動きを見せている。
「オツムの中身は残念な割には大した強さのようじゃな、あの小娘は!」
「賢者様から見ても、彼女は優れているというのですね?」
「ウム。あやつ自体の技術や経験は大したことはないようじゃな。だが、あやつは飛び抜けて優れた勇気の感応を持っているのじゃろう。他の者よりも遥かに優れた”勇気の共有”能力を最大限に駆使しておる!」
”勇気の共有”……それは主に勇者の力が周囲の人間にまで影響を及ぼし、潜在能力を最大限に発揮して勇者と同等以上の強さを発揮する現象と言われている。その能力の発現自体は非常に稀有な能力だったため、あまり広く知られていなかったが、今の勇者さんはその影響力が歴代稀に見るほどの物だったので、改めて実在した能力だと確認された程だった。
この影響は勇者と深く心が通じあっている者ほど影響が大きくなるらしく、Mrs.グランデやシオンさんは特に影響が強いとされている。その事から考えるとプリメーラさんは最近知り合っただけだというのに、どうしてそこまで力を発揮できるんだろう?
「プリメーラさんは特段勇者さんと繋がりが強いとは思えないんですが?」
「あやつは例外なのじゃよ。勇者の素質が高いものほど、就任前からその力を開花させている事も多い。額冠や勇者と離れていようとも距離・空間を越えて力を引き寄せ、共有する事が出来ると見てよかろう。」
「次代の聖女候補でありながら、勇者の素質を備えているんですね。」
彼女は湾曲した細身のサーベルを片手にオニオンズとの戦いを繰り広げている。強度や破壊力が大幅に劣る武器ながらも、その繊細で巧みな技術で剛剣や斧、槍などの攻撃を捌いている。
この剣術は聖女直轄の薔薇騎士団に伝わる剣術であり、その代表格の剣士ヒュポグリフが得意としている剣術だと聞いたことがある。加えて時折、勇者さん達の流派である梁山泊の剣術の動きも見られる。一度見ただけ、系統の異なる剣術をここまですぐに使いこなせるものなのだろうか?
「秩序の壁との戦いで見たシャンリンさんの剣技まで彼女は習得しているようですが?」
「それも勇気の感応のなせる技じゃ。見たこと聞いたことを感応能力によって高め、自らの能力に最適化した上で行使する。これは歌姫の力が作用しておるのじゃろう。他の者の歌を自分流に再現する事に慣れておるから応用が利くんじゃろうな。」
それを高次元で発揮できるのだから、何十年、いや何百年に一人といったレベルの天才なんだろうな。僕も勇者になることを目指して日々鍛練を続けているけど、彼女には到底及ばないような気がしてきた。上には上がいるというのを思い知らされた。彼女の域には到達できなくても、せめて彼女の仲間としてサポートするに相応しい実力を身に付けようと思った。
「やっぱり、ただのタマネギ頭じゃ相手にならんか? 俺が相手になってやろう。」
多勢に無勢ながらも善戦していた僕たちの前に現れたのは、髪を極端に短く刈り込んだ頭が特徴の大男で、オニオンズすら凌駕するほどの巨躯の持ち主だった。丸太のような太さの腕にまるで岩みたいに鍛え抜かれた屈強な体の持ち主だった。そんな体つきがハッキリわかるほど身軽な服装をしていた。防具と呼べそうな者は身に付けていない。何か拳闘等の格闘技の使い手の様な格好の男だった。
「わあっ!? ゴリラよりもでかいグレート・ゴリラが現れた!?」
「プリちゃん、この人、ゴリラじゃないアルよ。」
「じゃあ巨人とかそういうの? 神話とかに出てくる?」
「それとも違うと思う……。」
そう、確かに古に存在していたと言われる巨人族を思わせるような大きさなのだ。プリメーラさんやシャンリンさんの様な若い女性と比べれば、種族すら違うのではないかと思うほどに体格がかけ離れた外見をしている。彼は何者なんだろう? 魔王の要塞の中で出てくるからには、彼も何かしらの名のある戦士の複製人間なのかもしれない……。