第390話 味噌や醤油と同じようなモンなんですかね?
「さあ、アンタの敗けは確定したわけやし、閉じ込めた二人を解放してもらおか?」
「あああ!! 負けた!! この私が!!」
とんでも罠開け勝負はゲンコツのオッチャンの圧勝で終わった。それなりに高い難易度だったんだろうけど、相手が悪かったな。オッチャンというエキスパートを怒らせたことと、時代錯誤の過去の知識で挑んだのが敗因だったと言える。後はこの狭苦しい空間から出してもらうだけだが……。
「そんなん後で反省会でもしといたらええねん! ワシの仲間をはよ解放せいっちゅうねん!!」
「か、か、か、解放!? それよりも私もか……、」
オッチャンに急かされても一向に解放する素振りを見せない、箱おじさん。それどころか自分を解放してほしいみたいな事を言い始めた。ついでに何か様子までおかしくなったような? やっぱ負けた時のペナルティを魔王から聞かされていたんだろうか? おかしくなり始めたと同時に何やら一枚のメモ紙がヒラリと落ちてきて、それをオッチャンが拾い上げた。
「何ぃ? 『負けてしまいやがりましたね? ここでお楽しみのお仕置きタイム! 筋肉爆裂の刑に処す!!』? 何やこれは?」
「それはもしかして羊の……、」
オッチャンの拾い上げたメモ紙……多分それは羊が何らかの行動を起こした証拠だ! 箱おじさんの敗北を見て何か別の策を講じたに違いない! なんて嫌なタイミングなんだ! 俺とファルは箱に閉じ込められたままだっていうのに!
(ビキビキビキビキッ!!!)
「か、か、か、かいほうーぅ!! ぜっこうっちょうぉう!!!」
様子のおかしくなった箱おじさんは何かが弾ける音と共に体に変調を来していた。体が膨張し膨れ上がり服代わりに来ている宝箱が弾け飛びそうなくらいにパンパンになってしまった! しかも顔が……ゲイリーの物に変化してしまった! 箱おじさんは全くの別人に入れ替わってしまったのか?
「何やこいつは! 顔が別人に変わりよったで!」
「ゲ、ゲイリー!? まさかウルトラ・ボックスさんがオニオンズに変わってしまったというの?」
「オニオンズやて? これが羊の尖兵とかいうヤツかいな!!」
複製人間が人造人間に変化した……? そんなことありえるのか? カレルの話からすると、複製人間は人造人間の製造技術の応用で作られていたはず。
あくまでカレル達故人に体を似せて作っただけで、成分的にはゴリラと同じなんだろうか? 味噌と醤油の関係みたいにどっちも大豆が原料なことと同じ原理……? いやいや、そんな単純な話じゃないか。じゃあ、ファルの師匠やエルのお母さんもゴリラからできてるってことに……うえっ! 想像してみたら気持ち悪くなってきたぞ!
「ウルトラ・ボックスさんに成り代わり、こっからは俺っち、ウルトラ・ゲイリーがお相手させていただきま~すッス!!」
「けったいなやっちゃな! そんなんどうでもええから、勇者とファルを元に戻せっちゅうねん!!」
「ワタクシの存じ上げていることではございませんので、サポートの適応外でございまぁす!!」
「なんやそれ! 話が違うやないかい!!」
「悔しかったら、俺っちを倒してみな、豚さんよぉ!!」
「誰が豚やねん!!」
「ゲンコツさん、落ち着いてください!」
ゴリラの挑発的な態度にブチキレるおっちゃん。そしてそれをエルとメイちゃんがなだめようと押さえにかかっている。箱おじさんからいきなり見慣れたゴリラに転身……。もはやおじさんの要素はどこかへ吹き飛び、完全に筋肉ゴリラの人格に変化したようである。元々変態じみたおじさんだったが、ゴリラの異常な性格に比べればまだまともな方だったように思えてくる。
やはり魔王の尖兵なんかとは比較にならんのだろうな。 カレル達も下手をすれば同じような事になるんだろうけど、これは下手に生かした上で勝ったとしても、ゴリラとの戦闘に移行するだけに成りかねない事を意味している。……カレル達に手を掛けるのは避けられないのだろうか……?
「ここで交渉に応じてくれるような相手ではありません。ここで彼と戦うしか……。」
「結局戦わなアカンのか? でもそれやったら、アンタらは下がっといてくれや。」
「どうして? 協力して戦って、早くロアとファルさんを助けないと……、」
「メイはともかくアンタら師弟はさっきの戦いで消耗しとるやろ? 無理せんで、ワシに任せとくれ。 アイツらの箱も無事で済むとは限らんさかい。」
みんなで戦った方が早くは倒せるかもしれない。でも、レンファさんとエルは前の戦闘で消耗してしまっている。特にエルはアクセレイションで体を酷使してしまっていたため、まだまともに動けないはずなんだ。そう言う意味ではオッチャンの方が正しい。それとオッチャンの言うように俺らの入った箱にまで危害が及ぶかもしれないのでここは守ってもらった方がいいのかも。ゲイリーがトチ狂った拍子に箱を壊しかねないし。
「まあ、ワシにも少しくらいはカッコつけさせてくれや。前に眠らされただけで終わったさかい、ちょっと大暴れしときたいしな!」
「わかりました。お任させします。私たちは箱を守る事に専念します。」
これでオッチャンとゲイリーの一騎討ちが確定した。予期しない戦いとはいえ、オッチャンのお手前をほぼ初めて拝見する形になった。たにしの話によれば、世にも奇妙な”ゲンコツ・ウエポン”を駆使して戦うスタイルらしいが果たして……?