第384話 開けさせる気ゼロな箱が何個かあるんだが?
「なんか開けさせる気ゼロな箱が何個かあるんだが、どう思う?」
「どこや? そんなんこっちにはなかったで?」
おかしな所は念のため調べた方がいいと思った俺はオッチャンに見てもらうことにした。俺が下手にいじって罠を発動させる訳にもいかないしな。ひょっとしたらおかしな物で気を引いて本命の罠で仕留めるみたいな狙いで置かれている可能性もある。これは迷宮の罠だけに限らず、戦でも計略として良く用いられる手段だ。
「これか? 確かにおかしいわな。こんなん見たこともあらへんで。さっきミミック判定する時にはこんなんなかったはずなんやけどな?」
「さっきはなかった? いやでも、箱が動いたら気配でわかるし、誰かが置きに来たんなら、それでも気配で気付くはずはずだしなぁ?」
先にミミックを判定する調査をしたところなので、その時に見かけなかったなんていうのはあり得ない話だ。オッチャンが見過ごすとは到底思えない。それを踏まえた上で考えてもやはり怪しいと言わざるを得ない。
転移魔法とかで別の場所から転送されてきたんだろうか? 羊ならやりかねないかも。こっそり箱の数を増やして混乱をもたらそうとしているのかもしれない。
「おかしいで。これは敵の仕掛けた罠やろうな。下手に触られへんけど、見張っといた方がエエかもしれへん。」
「俺が見張っとくよ。第一発見者だしな。その間に他の箱を調べてくれ。」
「あいよ。まかしとき。」
罠の確認はプロに任せておこう。見張るのは誰でも出来るから、手の空いた俺が適任だろう。もし、なんかが飛び出してきたら俺が叩き斬ってやればいいんだし、俺なら罠程度で即死することもあり得ないからだ。額冠のお陰で毒とかにも耐性があるわけだし。
「……。」
でもひたすら変化の見られない物を見張っているのもしんどいな。仕方ないので箱をもう少し注意深く観察してみよう。置き方だけじゃなくて、箱の種類も一定ではない。
箱の色、大きさ、材質は様々だ。他にも置かれ方が何か法則性みたいなのも感じられる。なんというか……ひとの形を無理矢理作ったかのような置き方になっているような? 手、足、頭、それぞれの部位になるような感じで……。
「まさか、中に人が入ってたりしないよな?」
「まさか~?」
「……!? 誰かなんか言った?」
「いいや、誰も言ってないぞ?」
誰か俺に突っ込みを入れたのかと確認したら、ファルから否定された。でも確かに聞こえた。男の声。この場にいる男は俺を含めて3人。ファルとオッチャン。他にいない。他は女性陣だし、そんな低い声ではない。では今の声は誰が出したのか? 俺に突っ込みを入れたのは誰なんだ?
「もしかして……?」
あり得るとしたら、もうアレしかない。目の前にある不自然な箱達。しかも人が中にいるという推測を否定してきたのだ。これはもう中にいるってことを肯定しているようなものじゃないか? いる! 確実にこの中に人はいるんだ!
「さあてと、ちょっと疲れてきたから箱にでも座ってみるかな。」
なるべく刺激しないように、気付いていないふりをしながら、箱に近付いてみる。近付いて様子を見つつ動きを押さえる為にあえて人型の”頭”に相当する部分に腰かけてみることにした。座ってみても特に変化はなく、違和感も感じなかった。箱自体は普通に箱なようだ。中に人が入っているのだとしても。
「あのさ? そろそろ正体を見せてもいいんじゃない?」
「……。」
「出てこないんなら、このまま剣を刺しちゃおうかな? ”山賊長危機一髪”みたいに何本まで耐えられるか試してみよっか?」
”山賊長危機一髪”とはみんなで面白おかしいゲームを楽しめる玩具の事である。前にタニシが所持していたので皆で遊んだことがある。山賊の砦の模型に剣の形をした棒を模型の各所に設けられた穴に刺していき、その途中で模型の仕掛けが作動して山賊長の人形が飛び出てきた場合はその人が負けになる。
穴は一つを除いてダミーになっており、運が悪ければ仕掛けが作動してしまうのだ。昔の物好きな魔術師が戯れで作り出した物が元になっており、それがタニシの父ゲンゴロウが手に入れ量産化に踏み切り商品化したのだそうだ。
「いい加減にしろぉ!!!」
「どうわっ!?」
せっかく試してやろうとしたのに、座っている俺を押し退けるような形で箱が起き上がってきた! いや箱人間と言った方がいいかな? やはり俺の予想通り、中に人が入っていたようだ。頭の部分の蓋が開いて人間のオッサンの顔が露出した。
「無礼な奴め! 宝箱への敬意が足りんぞ、貴様!!」
「いや、敬意とか言われても困るんですが? そんなところに隠れてる方がおかしいじゃない?」
「貴様は母親から教えてもらわなかったのか? 宝箱を開けるときは確認のノックを必ずしろと!!」
「それはトイレのマナーでは? 箱なんて罠の有無を調べる程度の事しか教えてもらってないんですが?」
宝箱を開けるときにノックをしてどうするのか? それって人が中に入っているのを前提で言ってない? 第一、人が入っているなんて相当なレアケースなのでは? 普通はお宝ですよ? せいぜい生き物が入っていたとしてもミミック程度がせいぜいなんじゃないですかね?
「貴様は許さん! 徹底的に宝箱の恐ろしさを体感させた上で倒してやるからな!」
許さないとか、倒すとか言われてもな? 少なくとも罠でなんかしようとしてたのは事実だろう。ということは羊の配下なんかな、このオッサン? でも人間だよな?
あのゴリラとかでもないし? もしかして蘇った複製人間の中の一人とかかな? こんな人でも何らかの英雄の一人とでもいうのだろうか? とにかく疑問だけで頭が一杯になってきた……。