第381話 断頭台のブレンダン
「しないなら、しないで、オレにここまでやらせた責任は取ってもらうよ!」
切り札はあるが、使えば後戻りが難しくなる。アレは極限まで自分の力を出しきった後で使いたい。俺の普段のの力がどれほど通用するのか試してからにしよう。まださっきのは不意に攻撃を食らったからにすぎない。真正面から対処できれば十分対応できるはず!
「見せてみな。その魔王の力が本物だって事をな!」
「お得意の技を防がれて、まだ強気でいれるなんて大したもんだよ!」
(ガッ!! ゴッ!! ギィン!!)
俺は全力で相手を細切れにする勢いで怒涛の連撃をお見舞いする。とうとう棍棒を使わせることには成功したが、相手の体に攻撃は一切届くことなく、その全てが捌かれてしまっている。しかも小さいからだの時とは違い、ごく最小限の動きで制されてしまっているのだ。
「反射神経も前より良くなってないか? 俺の動きに先んじて動きやがって!」
「当たり前だ。この力を解放すると腕力だけでなく、感覚すら鋭敏になるんだ。攻撃の前のちょっとした筋肉の動きでさえよくわかる。だから、お前が次にどう動くのか手に取るようにわかるのさ。」
俺はてっきりアクセレイションというヤツを勘違いしていたようだ。腕力を初めとした身体能力ばかりが向上するものかと思っていたのだ。だが実際は感覚というか五感すら高めることが出来るのだということになる。今まで相手にしてきた半端な魔族どもではそこまでの強化を図れる者がいなかっただけなのかもしれないが。
「感覚すら鋭敏になる……。それだけで俺の攻撃を全て凌げると思うなよ!」
「生身の人間ならどうやったって筋肉に頼らないと動けない。それが把握できる以上はお前は何をやったところで、先読みされる運命なんだ!」
(ゴンッ!! ギンッ!! ガィンッ!!!)
絶えず攻撃を浴びせるうちに先んじて攻撃を合わされた挙げ句、断頭鋏を大きく撥ね飛ばされる結果になった。途端に俺は無防備となり、相手に接近させる機会を与えてしまった。このままではやられる……と言いたいところだが、これは俺自身がそうさせるために仕向けたのだ。
「これで終わりにさせてもらう!」
「かかったな、馬鹿め!!」
棍棒を振りかぶり必殺の一撃をいれに来たところを狙い、敢えて相手の懐に飛び込んだ。その過程で振り下ろしにかかる腕を義手の鍵爪でガッチリと掴んだ。これをやるために俺はワザと武器を飛ばされるような真似をしたんだ。
「義手だと!」
「やっぱり、義手の動きまでは認識できなかったようだな! これには筋肉なんてものはないからな。血の通わない機械だ。機械のメカニズムを把握してなきゃ、動きなんて読めねえだろうと俺は判断したのさ!」
肩から上腕までの部分は生身だ。どう腕を振るうのかまでは読まれるのは承知の上だ。問題は肘から先が機械、義手になっているということ。そこから先の動きは感覚が鋭敏になろうと読み取れるものではないと俺は読んだのだ。
つまり、腕を掴むという動きまでは把握されていなかったということになる。動きを読まれるって言うのなら、読めない部分で攻撃すればいいのさ!
「クソッ!? こんなので掴んだくらいでオレを倒したと思うなよ! このくらいすぐに引き剥がしてやる!」
「させるかよ! 一度掴んだ獲物は放さない!」
(ズドンッ!!!!)
そう、掴んだだけで終わりじゃない! 大抵の相手は掴んで握りつぶすだけでくたばるが、この義手はそこから駄目押しの一撃をくれてやることも可能になっている。腕の中央部に備え付けられた杭射ち機を使い、爪のでの粉砕後に止めの一撃を食らわせるのだ!
「ぐあぁぁぁっ!!??」
「その腕もらった!!」
(ベキッ!! ブチブチッ!!)
杭射ち機で刺し貫いただけで終わらない。こんな程度ではすぐに再生されてしまう。この状態から更に損傷を与えないといけない。この段階まででグシャグシャになった腕を強引にもぎ取る! これでしばらく右腕は使えまい!
「くっ! よくもここまで!!」
(ドゴアッ!!)
「ぬうっ!!」
相手はたまらず俺を間合いから引き剥がそうと強烈な回し蹴りを食らわせ吹き飛ばした。途中で受け身を取りバランスを崩すことなく着地は出来たがガードに使った義手の右腕がビリビリ来るくらいに凄まじい衝撃だった。生身の腕で受け止めていたらへし折れていたに違いない。
「やってくれるじゃないか! 最初は対応すら出来ていなかったのに。」
「舐めるなよ。こっちは商売で魔族狩り、異端者狩りをしてるんだ。これくらいの修羅場は何てことない。格上の相手でも必死に食らいついて、例え負けたとしても道連れにするくらいの心意気で戦ってるのさ!」
さて、問題はここからだ。片腕を失った今が最大のチャンスだと言える。だが今のまま戦っても、頭にちが上った相手の攻撃を凌ぎきれるとは思えない。ここはアレを解禁して一気に攻め立て、止めまで持っていかないと、やられるのはこっちかもしれない。