第380話 ゲウォルダンの獣
「見せねえんなら、俺の方からその気にさせてやるよ!」
俺がこうも煽っているというのに一向にその本性を見せやがらねえ。余程、今の体に執着があるのか、若しくはプライドが許さないと見える。あるいは仲間達に醜い姿を見られることを恐れているのかもしれない。
だが、俺の前ではそんな事情なんぞ通用しない。ためらいなんて考えていたら命がいくつあっても足りねえよ。それを思い知らせてやる!
「これがただ挟むだけで終わると思ったら大間違いよ! これだけで終わっちまう事も多いが、これは処刑技への布石に過ぎねえんだ!」
「こんなもので、他に何が出来るって言うんだ?」
「こうしてやるのさ!」
挟み込んだ相手を鋏ごと大きく上に掲げる! そのまま俺は跳躍し、技のセットアップに入る。跳躍の最大高度を過ぎた時点で鋏を下に向け、技の最終段階に備える。そのまま鋏の切っ先を地面に叩き付け、その勢いで相手の体、若しくは首を切断する。これが俺の処刑技の全貌だ!
「断頭台スペシャルNo.2、断頭裁断落とし!!!!」
(ズドォォォォン!!!!!!!!)
「ぐあぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
相手は脱出することすらせず、まともに処刑技を食らった。とはいえ胴体が二つに分かれることは無く、五体満足の状態で耐えきる形になった。表情を見るに一応痛みには苦しんでいない。
加えてまだコボルトの姿を保っているが、傷が深くなった様子は見られない。大体、この技を食らったら十中八九絶命するもんだが、多少痛がる程度で済んでいるのである。なんてタフな体をしてやがるんだ。
「さすがにコレは痛いね。死ぬかと思ったよ。」
「お前ら魔族なんて殺しても死にゃあしねえだろう? 死ぬほど痛いなんて五体満足で言うような台詞じゃないぜ?」
「昔の弱っちいオレなら死んでただろうな。これであんたの言うことをよく聞いておくんだったよ。」
「ほう? なんか臆病風に吹かれちまったか?」
「違うね。その気にさせないように痛い目を見させるべきだったった、って今更ながらに思えてきたんだよ!」
魔王は断頭鋏から強引に抜け出し、棍棒を手に取り全身に力を込め始めた。途端に周囲が闇の力に圧倒され、夜の帳が落ちたかのような暗がりにした。周囲の状況でさえそれだ。本体からは炎のような闇色オーラを止めどなく噴出させている。来るか? ようやく真の力を見せる気になったようだ。
「後悔するなよ? この力を振るうのはまだ2回目くらいだからな。制御しきれるかどうかもわからない。」
「力を持て余してるから、使うのを避けてたってか? ご大層なもんだ!」
(ドンッ!!!!!!!)
闇のオーラが一瞬にしてはじけた! 力がはじけると同時に奴の体が膨張し、体躯が倍の大きさになった。元は俺の腰ほどでしかなかった身長が俺の身の丈を超す程になり、俺を見下ろせるほどになり、体各部も筋骨隆々とした正に伝説の殺戮獣を思わせるような外見に変貌した!
「へっ! 出たぜ、これぞ待ちわびた”ゲウォルダンの獣”だ!」
「だからそれは何代か前の別人だって。そんな呼び名じゃあない。オレはこの形態のことを”捕食獣の王”と呼んでいる。」
「捕食獣だぁ? 言うじゃねえか! 面白い、どれほどの力か見せてもらおう!」
随分ともったいぶった果てに解禁した力だ。これで大した力を持っていないんならさっさとおさらばだ! 力の見極めのために初手とはいえ本気で殺しに行くような技で行かせてもらう! 処刑技に倒されるような相手なら、オレの相手をする資格などないからだ。
「断頭台スペシャルNo.3、胸裂切開刃!!!!」
鋏の刃を閉じ扁平な切っ先をまっすぐ相手の胸に突き立てるように突進する! この技は一番処刑具である、”断裂斬魔刀”でも使っている俺の得意技だ。もちろん武器が変わったところで威力に遜色はない!
(ズジャアッ!!!!)
「くっ!? 受け止めやがった!? しかも片手だと!?」
右手には棍棒を持ったままで、左手を前に突き出し手のひらで俺の攻撃を正面から受け止めていた。多少、後ろに後ずさりはさせたものの、完全に俺の処刑技が止められてしまった!
しかもその手には血さえ滲んでいない。 東洋の矛使いの優男を相手にしたときゃあ互いに武器を壊した程だったんだが、こいつには難なく片手で技を無効化されてしまったのだ!
「こんなものか。オレが少し本気を出した程度でこんなにも差が出てしまうなんてな。皮肉なもんだよ。」
「悪かったな。失望させちまって。だが、俺としては嬉しいぜ。ここまでの強敵と巡り会えたんなら満足だ!」
「そんな気分がどれくらい持つんだろうね?」
(ドボォッ!!!!)
「ぐはっ!!??」
速い! 先ほどまで俺の武器を掴んでいたというのに、一瞬で間合いを詰め俺の腹に膝蹴りを入れてきたのだ! 俺はたまらず腹を抱えながら後ろへと後ずさりする。それでも容赦なく相手は攻撃を加え、顔を拳で何度も殴りつけた後、中段足刀蹴りで俺の体を吹き飛ばした。
「ガハッ!!!」
「どうだ死ぬかと思っただろう? 降参するなら今のうちだ。まだほんの少ししか力を出していない今のうちだよ?」
「ハッ! 降参なぞするもんかよ! こういう圧倒的な差があってこそ、俺の闘争心がマグマのように燃えたぎるんだよ!」
まだ本気を出していないというのは本当だろう。今の攻撃は全て素手による攻撃だった。得物である棍棒を一切使っていない。アレを使わせてこそ、真の死闘と言えるだろう。こうなったら俺もシフトチェンジしないといけない。対魔族用の戦闘モードを解禁しないとな!