第38話 千里眼の意味する所とは……?
「ラヴァン先生、早く、今の内に先へ進んで下さい!」
「しかし……!」
(……ビッ!!)
「ううっ!?」
私がトープス先生を置いて先に進む事を躊躇っていると、謎の攻撃が再び先生に加えられた。今度は左腕を撃たれている!
「トープス先生!」
「駄目だ! これは罠だ。敵は敢えて私だけを狙っているんです!」
「このままではトープス先生は命を奪われてしまいます! 早く手当をしないと!」
「それが罠なんです。敢えて致命傷を狙っていないのも敵の作戦です。そうすることによって仲間を近付かせ、その瞬間に狙撃する。それが狙撃手のやり口です!」
狙撃手……確かにそう捉えた方が良いかも知れない。相手はおそらく魔術師、攻撃法法も魔術を使っているということに、私は目を向けすぎていた。魔術師としてはイレギュラーな戦法と言えるが、狙撃手と見れば対処法もそれに対しての物を適用できる。冷静に考えよう。トープス先生を見習わなければならない。危うくミスを犯すところだった。
「先に進んで下さい、ラヴァン先生。このままでは共倒れになってしまう。それでは意味がないのです。……うぐっ!?」
「ああっ!?」
三度目の攻撃がトープス先生を襲った。今度は右腕を撃った。敵はじわじわと先生にダメージを与えていく。それまでの間に敵の攻撃法法、位置を特定し、阻止しなければいけない。
「トープス先生、私は徹底抗戦を挑みます。」
「それでは、敵の思うつぼです! 私の命くらいどうと言うことはありません。寧ろラヴァン先生や迷宮に行ったあの子達が助かる方が、今後の未来の為に遙かに有益なんです!」
トープス先生は自身の死を覚悟している。その犠牲を出したとしてもD・L・Cの企みを阻止したいのだろう。……だが、それは出来ない。犠牲者を出すわけにはいかないのだ。これは勇者やローレッタの生き様を見て学んだことだ。命をかけて私を守ろうとしたローレッタ。私が何度か罠にかけ命を奪おうとしたにも関わらず私に温情をかけた勇者。ここでトープス先生を見捨ててしまっては、彼らの行為を無為にしてしまう事と同意だ!
「あなたの提案は断らせて頂きます。私は戦いますよ。二人で勝って迷宮へ行きましょう。」
「ラヴァン先生……。」
トープス先生は唖然としていたが、次第に私の気持ちを察してくれたのか、納得したような面持ちになった。
「しかし、この状況をどう打開するのですか?」
「ほぼ密室のこの場所、通常の弓などで狙撃するのは容易い事ではないでしょう。元のフェルディナンドの部屋自体、窓が少ないですからね。魔術なら……何らかの中継器を利用したり、ウィザーズ・アイを使うという手もあるでしょう。一つずつ可能性を探っていくしかありません。」
空間制御ならば私の専門分野の魔術。位置の特定など近い範囲でなら十分可能だ。だが、それを行うとこちらの魔力に感づかれてしまう。出来れば魔力を使わない探知法で敵の位置を特定しなくてはいけない。そのためにも周囲をもっとよく観察しなくては!
「……む?」
わずかだが風を感じる? おかしい。部屋に入ったときはドアを閉めたし、窓も開けてはいない。かといって、隠し部屋から吹いてきている訳ではなさそうだ。まさか……? 私達の目を盗んで窓に穴を開けたりしたのかもしれない。
(ビッ!!)
「ぐうっ!!」
敵は痺れを切らせたか四度目の攻撃を仕掛けてきた。首に掠らせるかのような一撃だった。トープス先生の首に一筋のかすり傷を作っていた。頸動脈の近くを狙ってきていた。おそらくこれは最終警告かもしれない。次はないという意思表示だろう。
「今の一撃で相手の攻撃法法を特定しました。次の一手を阻止して見せます。」
「それは良かった。相手も焦りを見せているようですしね。決めるならチャンスかもしれませんな。」
先生も同じ事を考えていたようだ。急所すれすれの攻撃は警告を意味しているのだと。そして、敵の攻撃法法は……風。何せ、あの男の弟子だ。一人くらい風属性の使い手がいてもおかしくはない。他のメンバーは属性を明らかにしているのに、ロング・フォースは“千里眼”という異名で呼ばれている。
(ビュウ……。)
微かな風。風を行き渡らせることによって針のように細めた風の飛礫を矢の如く放っているのだろう。こちらの動きも風の魔術“風読み”を使っているに違いない。あの日、フェルディナンドが使用しいていたとの報告を聞いた。あの伝説の魔術なら目視せずとも相手の動きを観測できるはず。弟子ならばそれを伝授されている可能性がある。
(そちらが伝説級の魔術を使うのであれば、我が一族に伝わる秘術を以て応えるとしよう!)
あれはスター・バースト以上に危険な秘術だ。制御を誤れば自身は愚か、世界中を巻き込みかねない、禁呪ギリギリの秘術なのだ。世界の危機がかかっているのだ。それぐらいは制御してみせる!