第378話 セカンダリ・ウエポン
「そんな小せえ体でよくもまあ、そんな力を持ってるもんだ!」
「能ある鷹はなんとかって良く言うだろ? それとおんなじだよ。」
俺は全く手加減などしていない。その一撃一撃に殺意を込めて鉄塊を叩き込んでいる。それを小さな木切れを扱うみてえに難なく捌いてやがる。木切れどころか、大木を根こそぎぶっこ抜いてそのまま武器にしたような武骨な武器を使ってやがるのに、ふらつきもせずにしかも片手でぶん回している
「なかなかいいて武器だなそれ? オレのと刺し合っても全然壊れないのはあんまりないからな。」
思ったよりも強固なガードを崩すために打ち下ろしの攻撃を3連続で続けざまに放った。それでも姿勢さえ崩れなかった。強固な岩でもぶっ叩いているような感覚だ。
「当たり前よ! コイツはお前ら魔族や背教者を即、処刑してやるために作ったんだ。何人ぶった斬ろうと壊れねえように、鍛冶屋にハッパをかけて作り上げた代物よ!」
化物ばかりを相手にするもんだから特注で何をやってもへし折れない武器を作った。折れるどころか、相手の武器をへし折り砕き、相手をも粉砕出来るものを用意したのだ。敵を切り伏せる度に毎回手入れとか、修理、交換とかしてたら何本あっても武器が足りなくなるからな。それだったら最初から十本作れるくらいの原料でゴツい一本を作ったほうがいいと考えたわけだ。
「でも、この前、壊した奴がいるんだろ? しかも細い矛で?」
「そんな情報どこで知りやがった? 身内でも知ってる奴は限られているっていうのに?」
確かに東洋の優男風情とやりあった時に亀裂が入った。相手も武器が壊れたとはいえ、柔な矛に俺の剛剣が砕かれるとは正直驚きだった。例の勇者と同門だというが、技の力が及ぼした影響に興味を引かれたのも事実だ。
あの一撃で勇者の技攻略のヒントを得たと思っている。愛用の武器を壊され、ただでは起き上がらないのがこの俺だ。痛い目をみたら、確実に克服するのが俺の流儀だからだ。
「アンタたちが思っているほど、オレたちは少数の勢力じゃない。あちこちにオレ達の目が光っているとでも思っておくんだな。」
「監視のつもりかよ! それは俺たち”追う”側の人間のやることだぜ?」
「仲間を逃がしたりするには、敵の動きを察知しておかないといけないからな。それにお前らが”追った”連中の数が、お前らが思っている以上に多いってことを忘れるなよ? その分だけ目の数は多くなるのさ。」
”追った”分だけ、か。まあそんな連中は星の数ほどいる。確かに逃げられた奴は多いと言える。そういうのは大抵潰し甲斐のない小物に過ぎないが、ソイツらは絶えず俺らの同行を探っているということか。ご苦労なもんだ。
害虫てのは知らん間に数が増えるから厄介なもんよ。だがそうしたいのならそうさせておく。俺は目の前にいる魔王とかを相手にしてりゃあいい。雑魚は一般のお役人に任せておけばいいのさ。
「その連中がお前の武器を教えてくれたんだが、今何故ここにあるんだ? そういうのは大抵一品物のはずだろ?」
「そうか。そう思うだろうな。普通愛用の武器ってのはこの世に一つしかないもんだ。特注なら尚更だ。だがそれは一種類しか用意してなかった場合の話だ。」
「もう一種類持っていたとでも?」
「それが”コレ”ってわけよ。」
「……?」
一見パッと見は似たような物だと勘違いする。事前に情報だけを耳にしていた奴ほど驚くもんだ。これじゃ話が違うと、何人も俺にそう言った。俺もそういうときのために予備の隠し武器ってのを準備していたのさ。相手の意表を突くためのサプライズってのがないと面白くないからな。
「違うと教えたからって、タネまでは見せねえよ。知りたきゃ俺をもっと楽しませるんだな!」
「ふん、生意気言っちゃって! 魔王を舐めてると痛い目を見るぞ。」
「その痛い目を見せてみなって言ってんだよ!」
(ガゴオッ!!!!!!)
互いの武器が激しくぶつかり合い、激しく火花を散らす。ここまでやり合えるんなら大した強さだが、目の前の魔王はちっとも本気を出していない。大体の魔王ってのは闇術”アクセレイション”でいくらでも身体能力を増強できる。
見たところ、この魔王はベースとなるコボルトの肉体に沿ったレベルでの使用に留めているようだ。おそらくその気になりゃあ、体格を俺以上のものにも出来るだろうし、そのパワーも計り知れないものになるはずだ。
「もっと強いのがお望みなんだろうけど、そう簡単に見せるわけにはいかないんだよ!」
(ドギンッ!!!!!)
今までで一番強烈な一撃、叩き潰すかのような攻撃が来た。俺は武器の扁平な切っ先でそれを受け止める。普通の受け方ではないので俺本体に伝わってくる衝撃は半端なく、少しばかり膝がガクッとくる程だった。
無理をしてまでこんな受け方にしたのには意味がある。この武器の真骨頂を見せてやるためにワザとこうしたんだ! 鍔の部分にあるロック機構を外し、柄を左右分割して隠し機能を展開させた!
「な、何!? 刃が中央で真っ二つになった!?」
「そうだ! これは元々二枚の刃を組み合わせた、剣に偽装した特殊武器”断頭鋏”だ!!」
「ぐああっ!!??」
左右に展開した刃を広げたまま相手の体を捕らえ一気に挟み込んだ! これが俺の二番処刑具、”断頭鋏”だ! 相手をもろとも挟み込み豪快に裁断する。これを相手に生き残れた奴は誰一人としていない。魔王に対して使用するのは初めてだが、とっておきの武器を使うんだ。必ず倒しきってみせるさ!