第364話 アイシクル・スピン・スクレイバー
「どっせぇぇいっ!!!」
「ぐふぇ!?」
「ボグっ!?」
「へぶぉっ!?」
倒したオニオンズはまだ一体だけ。僕が一体仕留めている間にヴォルフさんは残りの個体を一斉に引き受け、牽制をしながら押し留めてくれていたようだ。”張り手”と呼ばれる掌打の連打で敵を弾き飛ばしていた。オニオンズ程の大柄な体格の相手を子供同然の扱いに出来るなんて、ヴォルフさんの強さは圧倒的だと思った。
「援護します! ヘイル・ブラスト!!」
魔術で無数の氷塊を作り敵の集団に放出する。ヴォルフさんの張り手で怯んでいるので、無防備な所へ防御されることもなく相手の体のいたる所に突き刺さり、針のむしろの様になった。
「むぐぐ!?」
「やってくれたな!!」
「弱虫コムシの分際でこんな暴挙が許されるのか?」
全身に突き刺さり全身血だらけになっているが、平然と起き上がり悪態をついている。手当たりしだいに氷塊を抜いたりして、こんな程度では死なないと言わんばかりにアピールしてきた。
「しゃらくせぇ! ファイアストーム!!」
中でも魔術師タイプのオニオンズが氷塊を抜き去るのを煩わしいと思ったのか、味方全体を巻き込む火炎魔術を使った。炎の渦が彼らを巻き込み瞬時にして氷塊を消し去った。でも、火力が強すぎたのか、火傷だらけになってしまっている。出血もこれのお陰で止まったようだけど、被害のほうが多く見えるのは気の所為だろうか?
「ふう! なんとか氷が消えてなくなったぜ!」
「でもちょっと炙りすぎて焦げちまったんじゃねえか?」
「むしろ肉ってのは多少焦げたくらいのほうが香ばしくてうまくなるんだよ! それとおんなじだ!!」
無茶苦茶だ。学院で仲間として行動していた時もどこかおかしい考え方をしていると思っていたけど、更におかしくなっている。僕たちが接していた個体は勇者さんの所にいたから、少しはまともになっていたのかもしれない。彼はゲイリーさんを導けなかったことを悔やんでいたけど、効果が全く無かったというわけでもなさそうだ。
「大したタフさバイ! キリがなかとよ!」
「完全に動けないようにしないと倒せないのかもしれないです。」
氷塊の傷やそれを解消するために負った火傷、そのどれもが並の人間なら重症レベルの大怪我のはず。すぐに死ななくても、放っておけば致命的になりかねないのに。体の強さは普通の人間とは比較にならない。
「徹底的に行動不能にしなければ、彼らはいくらでも立ち上がってくる!」
「これはゴーレムと同じと思うしかなかと。かたすしかなかとね。」
僕がジム・ロック・スペシャルで腕をへし折った個体のように動けないようになるまではかいするしかないのだろう。流石に魔王が作った生体兵器だ。動けなくなるまで相手と戦い続けるように設定されているのだろう。ここは割り切って戦うしかない。
「そうなれば、高威力の攻撃をするしかありませんね!」
できればジム・ロック・スペシャルを一人ずつかけていけばいいけど、状況的に無理がある。あくまで多数を相手にするのに適した攻撃でなければいけない。だとすればあの技を使うんだ。
「アイシクル・スティングクロー!!」
「なんだぁ? 氷で拳に爪を生えさせやがった?」
「氷ごときで殺せると思うなよぉ!」
クローを両拳に展開したところで相手は嘲笑を始めた。正直、見くびってもらっていた方が好都合だからだ。今やろうとしている技は爪の威力を増大させる技だから問題ない。犬の魔王には通用しなかったけど、目にもの見せてやる!
「アイシクル・スピン・スクレイバー!!!」
(ギュアアアアアアアッ!!!!!)
両拳の爪を前方に突き出し、体全体を錐揉み回転させながら相手に突撃する! その姿は傍から見れば、オーク族が作った削岩用工作機械の円錐型の先端部の様になる。自らの体を巨大な削岩機のごとく、敵を貫く凶器と化す技だ!
「こんなへっぽこ技……ぎゃああ!?」
「子供だましなんかに……ぎょるあっ!?」
「負けるか……って、ぶべらっ!?」
彼らは見くびって力づくで真正面から技を止めようとするが、止めることは出来ず体に大穴を開けられ絶命していった。自分は回転しているので、その光景は目で確かめることは出来ないが、手応えは伝わってくる。
「前からが無理でも横からならぁ!!」
横から技を阻止しようとしてくる個体がいた。でも、止めることは出来ない。何故なら突進している間は氷魔術を常に展開しているから、触れようと近づいただけで体が凍結してしまうのだ。
「ぎょああ!? か、体が凍る!?」
「どっせぇい!!!」
(ぐわしゃああああっ!!!!!)
凍りついた個体の所へヴォルフさんの気合の一声と共に砕け散る音がした。その瞬間を待ち構えていた彼によって止めを刺されたようだ。これであとは一体だけになったはずだ。
「くそう!? こんなはずでは!? 氷なら燃やして溶かしてやるぅ!!」
残ったのは魔術師タイプだった。技を止めようと炎魔術を使おうとしているが……その程度で止められるものじゃない。冷気を纏わせているので他の属性魔術を防ぐ役割もあるんだ。
「止められ……ぐべぁ!?」
ついには彼も体を貫かれ絶命する結果になった。これでオニオンズは全て一掃したことになる。これで、サヨさん不在の間の危機を乗り切る事が出来た。ホッとして一息つこうとした時、何者かが付近にやってくる気配がした……。