第359話 蘇った宿敵!?
「どういうことだ、コレは?」
オレとミヤコは魔王の異空間から戻ってきた。そこで待ち受けていたのは未知の強敵と切り結んでいる侍の姿があった。相手は無骨で筋肉隆々とした髭面の男で、身の丈をこす大剣を自在に操っていた。侍とほぼ互角に斬り合える男なんてそうそういない。相当な実力者のはずだ。
「戻ってきたわね、坊や達。案外、元気そうじゃない? 蛇にでも丸呑みにされちゃったんだと思ってたわ。」
侍以外は誰も手を出さずにその戦いを眺めている。一番退屈そうにしていた邪竜だけがオレ達二人が戻ってきたことに反応を示していた。以外にもオプティマは二人の戦いを食い入るように観察している。フンフンと時折うなずきながら感心するように眺めていた。何がコイツの興味を引いているんだろう? 相変わらず気味が悪い男だ。
「オレはそう簡単に死なない! それよりも今のこの状況を説明しろ!」
「侍と戦ってるオッサンて何者? あんなの羊の魔王の子分にいたっけ? 筋肉ゴリラ以外にいたんだね?」
「ああ、あの男ね。何か剣豪とかなんとか言っていたわね。コタロウのお知り合いなんじゃない? 会うなり仲良く二人で喧嘩し始めたのよ。理解できないわ。」
侍の知り合い? ただでさえ知り合いの少なそうなアイツに知り合いがいたとは。確かアイツは迷宮に閉じ込められ塩漬け状態になりながらも生き残り、現代に戻ってきた化石の様な人間だったはずだ。
だからこそ、知り合いも軒並み死んでいるのでもう知っている人間は少ないはずだが? 眼の前にいる邪竜のような化け物でもない限りはそんな存在はいないはずだ。では何者なんだ?
「アの男は”剣豪勇者、ムーザ・シュライン”デーすよ! 昔の人間がアりェないクらい、忠実に再現サれてマース! 屍霊術でㇵ不可能なワザでーすヨ!」
「剣豪勇者ってあの? サムライの人が昔ライバルだったっていう人がそんな名前だった!」
「”剣豪勇者”だと? それは大昔の人間じゃないのか?」
剣豪勇者の名前は聞いたことがある。かつて牛の魔王や犬の魔王と戦ったという戦歴のある勇者だったはず。だが、それはオレが生まれるはるか昔の話で生きていたとしてもヨボヨボの爺さんになっているはずだ。
見た所、そうは見えないし、そこらにいるオッサンと大差ない。なら、ゾンビとかデスナイトみたいなアンデッドなのか? と言っても、闇のエネルギーは感じられない。オプティマもそれを否定している。あれは間違いなく生身の人間だ。
「あれはおそらく”複製人間”よ。あんなカビの生えた技術を研究して復活させるなんて、陰気臭い魔王のやることだわ。下らないわねぇ。」
「な、ナ、な!? なんデすト!? あノ幻の超技術、”複製人間”!? 過去の人間を蘇らセるなンて!?」
「”複製人間”て何よ? 人造人間とどう違うの? ウチにはわけわかんないよ!」
「アレは生き物の一部を培養してコピーを作る技術なのよ。人造人間と作り方はある程度は似通ってはいるわね。一から作るのと、元になる雛形があるかどうかの違いね。」
人造人間以外にも生物を作り出す研究をしていたとは。うす気味の悪い魔王だとは思っていたが、まだこんな隠し玉を持っていたのか。調べたところによると、奴の配下オニオンズは特性の違う戦士タイプや魔術師タイプ等、バリエーションがあるようだが、所詮は脳筋ゴリラだ。力任せに戦うことしか能がない。その欠点を補うために過去の名のある戦士を蘇らせる方法を考えたのかもしれない。
「うわぁ! 人間をコピーするなんてありえないよ! 気持ち悪い!」
「ほんと下らないのよ。所詮、貧弱な人間の考える技術っていうかね。貧弱なのを複製したところで貧弱なことには変わりないのよ。そんなモノに頼る魔王なんてもっと下らない存在ね。」
「屍霊術に比べたラ、下らなイですヨ。死者を再現スるの二は関心しまスけドね! 死体こソが至高ナんでスよ!」
周りが異常な奴ばかりで頭が痛くなってくる……。異常な技術を異常な感性で評価すると頭のおかしい評論になるのがよくわかる。こんな話ばかり聞いていたらいつかは同じ様な異常者に変貌してしまうだろう。
「……。」
「なんだ? 剣豪勇者以外にも敵がいるのか?」
通路の奥の方でコチラを観察している奴がいた。影に隠れてあまりよく見えないが、辛うじて全身鎧を着ていることはわかった。剣豪の仲間、とすればアレもクローンとかいう奴なのだろうか? オレの視線に気付いたのか、ゆっくりとコチラに向かってくる。
「あらあら? また何か出てきたわね?」
「んナ? コの鎧は!?」
影から出てきたことでようやく姿が明らかになった。禍々しいデザインの全身鎧を着ている。顔はフルフェイス・ヘルムを被っているので何者なのかはわからない。だが何かその姿には引っかかるものがあった。オプティマもオレと同じ違和感を感じたようだ。
「コ、こレㇵ!? デーモン・アーマーでースよ!?」
「やっぱりそうなのか!? コイツは一体?」
禍々しい雰囲気は自分が着ている鎧に酷似していた! 独特の気配に感じるのは魔王の気配。魔王そのものという訳ではなく、その核となる存在を所有しているからこそ感じるものだ! コレは猿の魔王のデーモン・コアだ。オレの所有する猪の魔王のコアが警戒せよと告げている!