第358話 ”出来る”、”出来ない”の違い
「どこの馬の骨とも知れない男に助けられるなんてな。協力して魔王を倒せるんなら、それなりの実力の持ち主なんだろうな?」
「実質、魔王との戦いでは手を貸してくれなかった。途中はそれなりに協力的だったんだが。」
「なんだよ、結局、お前一人で倒したんじゃないか。」
なんかもどかしいな。決して一人では生き残れなかったというか、仲間がいたから最後まで辿り着けたと言えるんだよな。戦力的に殆どが俺が敵を倒したことにはなるが、一人で?となるとそれは成り立たないような気がするんだよな。
「途中離脱したが、他にも仲間はいた。復讐心を持った筋肉女と海が好きな騎士もいたんだぜ。どいつもこいつも頭がおかしかった。あの異空間にはまともなヤツなんて一人もいなかったんだ。」
「お前も含めておかしかったんだな。魔王が絡んでる限り、まともなはずがない。」
「へいへい、どうせ俺はまともじゃありませんよ。」
おかしな倫理観の世界におかしな性格の人間が住んでいた。おまけにとにかく犠牲を強要する仕組みになっていた。どうやら、俺の心理状態につけ込むためだけに作られた世界だったようで、俺の精神を徐々に蝕む事を狙っていたのだろう。でも、最小限で済んだのはあのハゲの働きによるものだったのだろう。
「しかし、お前を助けるなんて何のつもりなのかはわからんが、とにかく魔王の罠から生還できたんだ。感謝するしかないな。」
「感謝? 多分お前だったら絶対喧嘩になる。感謝する気がなくなるぞ。」
「どんな奴なんだよ? 逆に気になってきたぜ。」
とにかく皮肉屋で人を馬鹿にしたような態度を取るような男だったな。おまけに自分からは中々行動せずに他人を焚きつけることに徹していた。それなりの実力を持っていながら、人の行動を観察し、高みの見物を決め込んでいた。
例えそれが魔王が相手だったとしてもである。魔王を小馬鹿にするような態度でいたが、矛先がアイツ自身に向かなかったのが不思議なほどだった。どこか格下を見るような余裕っぷりを見せていたのが印象的だった。またどこかで会うことになるんだろうか?
「もう済んだことはこれくらいにしておこう。問題はこれからどうするかだ。」
「少し休養が必要だな。このまま進んでも、ろくなことにならんだろうぜ。」
「ごめんなさい。私の怪我がなければ先に行けるのに……。」
「エルは悪くないよ。羊の魔王のやり方が節操なさすぎなんだよ。」
故人、しかも自分たちがお世話になった人たちが敵側の尖兵にされてしまっているのはショックが大きい。特にエルは自分の母親が敵対関係になってしまっているので辛いはずだ。少し間を置いて心を落ち着かせてからにした方がいいだろう。動揺したまま先に進むのは悪い影響しかでないはずだ。
「どうやって攻略する? あのマスターズ集団を? 昔から強かった上に今現在の情報や技術すら身に付けてるんだろ? 完全無欠じゃないか。」
「いや、それが当てはまるのはカレルだけだろう。聞いた話だけだが俺の師匠は生前と大して変わらないはずだ。多少若返っているだけだ。」
俺はカレルの姿しか見ていないのでなんとも言えない。ファルの師匠は長年クルセイダーズに在籍していたそうなので、一番の年長者のはず。それが他二人と対して変わらない見た目になっていたと言うのだから、全盛期の体を用意してもらったと考えて間違いなさそうだ。
基本、他の二人は死去した時点の年齢になっている? てことはエルのお母さんはほぼ本人と大差ない見た目のはず。ちょっとその姿を見てみたくなってきた。
「蘇ってから特別に鍛錬をしたのはカレルさんだけなんでしょうか?」
「おそらく、としか言いようがないが、勇者ロア撃破のための秘策として用意していたのは間違いないだろう。八刃に対抗できるのは同じ技しかありえないからな。」
「ああ、そうだ! 蛇の魔王も露骨に八刃に対策してきていた! アイツも技をコピーして使ってきたんだ! ただのモノマネ程度で終わったけど。猿の魔王の時と同じ結果になった。」
猿の魔王、アイツも八刃に相当する技を使ってきた。過去に流派梁山泊の人間と戦闘した経験があったからだそうだが。でも、蛇の魔王と同様に本質的な部分は習得できずに、形だけを模したただの武術の技としてしか扱えていなかった。魔法や空間を斬るといった超常的な力の再現には至らなかったのだ。
「だが、羊の魔王は技の再現に成功した。自らの手で再現することを諦め、再現できる可能性のある人間を作り出し、間接的に再現することに成功したんだ。」
「それが先代の勇者を蘇らせたことに繋がるのか!」
「お前のところに送りつけていたスパイを見て悟ったんだろうよ。お前に近い精神性を持った者にしか技を再現できないという事実に。勇者には勇者をぶつけるしかないと判断したんだろうよ。」
完全に技をコピーするためにゲイリーを使って学習させていた。でもアイツは技の本質を理解できずに暴力的で破壊的な別物を生み出す結果になった。それでは不十分と考え、精神性も人間らしい者に習得させた、と。
「彼の動きは正に流派梁山泊そのものの動きだった。あなたの付けている額冠の中で常に観察していたと言っていたから、見ている内にその極意を理解できたんでしょうね。」
「たまらんな〜。俺が何年もかかった事を数ヶ月足らずでマスター? やっぱ、俺って才能ないよな……。」
「それはエレオノーラにも当てはまることでしょう? 確かに凄い才能だと思う。でも、あなたは違うのよ。あなたは究極的な域にまで技を持っていくことが出来たのよ? お義父さんが言っていたようにあなたには特別な何かがあるのよ。」
レンファさんはそんなことを言っているが、どうだかね? 俺は三皇の精神に到達し、八刃を完成させる事が出来た。未だ何者とも知れない達人である黃ジイにもそれは認められた。限られた人間しか辿り着けていない境地に至ったとさえ言っていたが、何がそれを可能にしたのかは不明瞭だ。とはいえエルやカレルがこの先同じ境地に辿り着いてしまう可能性はある。俺はそんな特別な人間ではないはずなんだ……。