第357話 片や魔王、片やクローン軍団ですよ?
「……及ばなかった。ファルさんのお師匠さんには。私よりも遥かに上手だった。」
俺がいなかった時の顛末をファルから聞かされていたのだが、それはカレルに倒された所までだった。その間に意識を取り戻したエルが引き継ぎ話の続きをしてくれた。なんとエルはファルの師匠と戦うことになったそうだ。
その場には彼女の母までもが姿を現していたのだそうだ。カレルのパーティーはある意味マスターズ集団だと言うことが判明したのだ! おそろしっこ!(©タニシ)
「通常の倍の力のアクセレイションを使ったけれど、追いつけなかったの。そのせいで私達はまけてしまった……。」
「元はと言えば、俺がカレルに負けたからだ。俺が情けない事になってなけりゃ、師匠くらいは足止めできたかもしれないぜ。」
二人共、自責の念に駆られている。あの時負けていなければとか、こうしていればっていうのは、終わった後に色々出てくるもんだ。うまく立ち回れなかったと本人たちは言っているが、全力以上の力を出していたんじゃないだろうか?
エルは禁断のアクセレイション全開使用まで使ってしまったほどなんだから。その影響か、エルは他のみんなに比べてグッタリしている。見た目は特に怪我していないが、肉離れとか筋肉に何かしらのダメージは残っているはず。
「私がいけないなかったのよ。また、あの時の様に弟子に無茶をさせてしまった。」
続いてレンファさんも意識を取り戻したようだ。レンファさんまでやられてしまうなんて思ってもいなかった。我らが梁山泊五覇まで勝てないなんてあり得るのか? でも、これは現実だ。エルの言っている事は真実なのだろう。
「レンファさん……。」
「先生は悪くありません。私が勝手に無茶をしてしまったから……。」
あれは大武会以降禁止にしていたのだが、その使用を解禁しなければいけないくらい追い詰められていたのだろう。確かにレンファさんまで倒してしまうような相手なら、梁山泊五覇でも太刀打ちが難しいほどの強さを秘めていると思ったほうが良さそうだ。
「三人共、自分を責めるな。元はと言えば、俺がいなかったからこんな事になってしまったんじゃないか。」
少なくとも俺の知らない技術や武器を駆使していたというのが話から発覚したのだ。向こうが遥かに強かったことの証明だし、初見殺し的な事をされたのだ。生きているだけでも良かったと言うべきだろう。
「せやで、ワシとメイなんて魔術で眠らされてそれっきりや。なんの役にも立ってへんわ。情けないもんやで。」
続いてゲンコツのおっちゃんが起きてきた。怪我とかもしてないようだし、エルたちと比べてピンピンしているようだ。メイちゃんはまだ倒れたままになっている。
「おっちゃんたちも不意打ち食らったようなもんだろ? エルのお母さんて、一級の魔術師だったんだし。単純な魔術でも効果絶大だったとしか……。」
エルとファルは激しい戦いを経験したようだが、おっちゃんたちは戦うことすら出来ないまま終わったようだ。強引に魔法で眠らせただけなんて、やっぱエルのお母さんだと言う他ない。特にお母さんは争いごとは苦手なのかもしれない。魔王の配下にされてしまったとはいえ、良心がそのまま残っているようだ。それはカレルたちにも言えることだが。
「みんな、ゴメンよ。リーダーの俺がいなくなったのが元凶としか言えない。いれば、なんとか一矢くらいは報いる事が出来たろうに。」
「馬鹿言え。お前がいても負けていたかもしれない。カレルの奴は”八刃”を極めているんだぞ。今のアイツには容易には勝てない。」
「また、”八刃”か。まったくどいつもこいつも技をパクリやがって。”八刃”のバーゲンセールかよ!」
「は? それはどういう意味だ?」
おお、そうだった。まだ俺自身に何があったのか一切合切何も話してなかったんだ。みんなからしたら、数時間程度の出来事だったみたいだが、俺は体感的に数ヶ月程度は異空間にいたような気がする。時の流れの速さに違いがあるので、お互いの認識が全然違う。俺からしたら、みんなとは久しぶりに会ったような感覚だ。
「何を見てきたんだ? 何をされたんだ? くわしく話せよ。」
「話すと長くなるんだが……、結果的には蛇の魔王を倒した、ってことになるな。」
「おいおい! 俺達が何も前に進めていなかったっていうのに、お前は魔王を倒してきたって言うのか!」
みんな、目を丸くしている。そりゃそうか。予定になかった魔王をサクッと倒してきたとか言い出したら、誰でも驚く。でも、俺も大変だった。危うくサクッと倒されそうになったのは俺の方だったと思う。今振り返って考えてみると結構奇跡的な生還だったと思う。
「倒したの? 一人で?」
「いや、一人では無理だった。協力者がいたからなんとかね。胡散臭くて嫌味なハゲ野郎が手を貸してくれたんだよ。」
「誰なんだそいつは? 何者だ?」
「わからない。パッチラーノとかいう名前だった。小さい”つ”が名前に入ってるんですぅ、とかいうギャグをかます奴なんだよ。」
「パッチラーノ? 聞いたことがない名前だな。」
とにかく謎だらけの胡散臭い奴だった。おまけに敵なのか味方なのかもハッキリしなかった。どういうわけか、俺や魔王に関する情報を熟知していて、常に先回りして俺が死なないように行動しているようにも見えた。
とはいえ、一度戦いを挑まれ、ブチ切れた時は俺を本気で殺そうとしてきた。アレはあくまで怪しいハゲを演じているだけであって、本性を別で隠し持っているようにも感じた。あの違和感の正体は一体何だったんだろう?