第355話 風刃舞踏斬
「むうっ!?」
竜巻の様な旋風がフェリスさんを中心に発生し、全てを巻き込もうと渦巻いていた。竜巻を纏った彼女が先生を飲み込もうと接近した! 同時に嵐のような無数の剣撃が繰り出されていた。
「この暴風の中じゃ、自慢の俊足が役に立たないだろ!」
フェリスさんの言う通り、攻撃が速くて回避が困難な上に暴風によって受け手側の動きも制限されてしまう。暴風が吹き荒れる中を進もうとしても風に阻まれて思うように進めないのと同じ様に、あの技は回避や反撃の行動すら阻んでしまうみたいだった。先生は身動きが取れないまま立ち尽くした状態で辛うじて槍で受けることしか出来ないみたいだった。
「いつまで持ちこたえられる? 大半の奴はここまでの時点で倒れてるもんだよ!」
激しい剣撃が先生を襲う。槍で防ぐにも限度があり、衣服のあちこちに切れ込みが入っていく。次第に立っていることすらままならなくなってきた。先生の守りが完全に瓦解するまで、ほんの僅かしか猶予がない!
「もう1セットでしまいだ!」
激しい連撃が再び繰り出された! 先生は暴風に足を掬われ体が宙に浮き、まるで木の葉のように翻弄される形になった。最終的に真上に吹き飛ばされ天井に叩きつけられた。そして暴風が収まると同時に先生も下に落下してくる! それを見た私は突き動かされ、先生の体を受け止めた。
「先生!?」
「……ごめんね、エレオノーラ。師である私がこんな情けない結果に……、」
「し、しっかり!!」
先生は私に謝罪の言葉を述べた途端に気を失ってしまった。私は先生の思いを受け止めた事を伝える様に、その体をしっかりと抱きしめた。私がもっと強ければ先生を巻き込む事はなかったのだろうと自省した。
「フ、美しい師弟愛だね。アタイとあの馬鹿じゃ、ありえない光景だね。」
「茶化すのは止めて下さい!!」
「茶化す? そんなつもりはないさね。アタイは羨ましく思っただけさ。アンタもその師匠も大したものだと思ってるよ。アンタの師匠はアタイの最大奥義を1セット耐えきったんだからな。人間でそこまで持ちこたえた奴ぁ、今まで誰もいなかったよ。」
確かに凄まじい技だった。滅多に見れないレベルの大技だったと思う。彼女以外では梁山泊の宗家さんや鬼といった達人クラスの人くらいしかなし得ない神業だったと思う。流石にクルセイダーズ歴代の中でも優れた剣士として名が上がるほどの人だと感じた。
「人間なら、というのは本当ですか?」
「ああ、そうさ。アタイが不覚を取った相手には返されちまったよ。みんなよく知ってる、馬の魔王、ギャロ・ペレキュレイデスには通用しなかったのさ。」
「馬の魔王!?」
彼女が魔族との戦いで命を落とした事は知っていたけれど、それが四天王の一人だったなんて……。神出鬼没の転移能力を持つ魔王と聞いているから、あの技から逃れる手段を持っていたのかもしれない。
「魔族ならあの技を凌ぐことが可能だったんですね。」
「可能と言うか、魔王ってのは上位の奴ほど桁外れの力を持っていたり不可思議な能力を持っていたりするもんさ。アイツの能力はアタイの最大奥義を持ってしても破れなかった。それほどの相手だったんだよ。最高に口惜しかったけどね。」
「じゃあ、私は魔王の力を使う事にします。」
「……は? なんだって?」
先生を倒したにも関わらず、打ち身以外の怪我は与えずに最低限にしてくれていたことには感謝しないといけない。でも、この人に勝ってみたいと思った。このまま私達の技が全く通用しなかったところで終わるわけにはいかない。せめて出来ることを最大限に出し切りたい。これから魔王と戦うのなら、この人を超えていかないと無理だと思うから……。
「フェリスさん、あの技を私に使ってもらえませんか?」
「おいおい、どうしたってんだい? 死ぬ気か、アンタは?」
「あなたの技にどこまで肉薄できるか、やってみようと思ったんです。」
その動きに対応するため武器の形態を両刃剣に変化させた。この形態なら体にプロテクターをつけることが出来るので多少攻撃が当たっても持ちこたえることが出来る。
「その武器は形を変えることも出来るのかい? それにしても、意外と度胸のある娘だね! 存分にやってもらおうじゃないか!」
フェリスさんは風の魔力を集中し始めた。私の願いを聞き入れてくれたみたい。その行為に感謝すると同時に、私も技に対抗するための魔力を足に集中させ始めた。あの嵐のような暴風、目にも止まらない剣撃に対抗するなら、私ならではの手段を使うしかないと思ったから。
「行くよ! 風刃舞踏斬!!」
人一人分まで凝縮されたような嵐そのものが私に向かってくる! これに対抗するなら普通の人の体では持ち堪えられない。だったら人以上の運動能力を以って立ち向かうしかないと思った。彼女が魔王についての話をし始めた時に気付いた方法、それは……、
「アクセレイション!!」
「何!? 動きが早くなった!」
暴風をものともしない膂力を得るために最大限の魔力を足に集中させる。こんな速さで動き回るのは宗家さんと戦った時以来かもしれない。でもあの時とは違って、全身へ常に負荷をかけるのではなく、地面を蹴る瞬間だけに留めて、体と魔力の負荷を少なくしている。なるべく長い時間維持するためにはこの方法しか考えられなかった。
「まるで魔族と同じ様な動きをするじゃないか!」
「本当に魔族になりかけた事もありましたから! あなたの強さはそれに匹敵するほど凄いということなんです!」
激しい剣撃に対抗する様に両刃剣を合わせていく。武器の特性上、大鎌よりも軽快に振るえるし、相手の攻撃を弾きつつ、素早く反撃に移ることが出来る。一本の剣でありながら、二刀流に近い戦い方が出来る。格上の相手には手数で対抗しないといけない。