第352話 お互いに切り札は存在する!
「クソ! お前、生きていた時より強くなっていないか? 今の俺にここまで肉薄出来る奴なんてそうそういないぞ。」
「おや、気付いてしまったようだね? 君は強くなった。それなのに何故勝てないか? 気になってきたようだ。」
ここまで十数回打ち合ったところで、一つも相手に決定打を与えられていない。俺は一切、手を抜いていない。いくつか切り札を取り置いてはいるが、本気で相手を倒し切るつもりで戦っている。
並の敵ならとっくに倒せている程の力を出している。なのに手傷を与えるどころか、反対に俺の方が明らかに押されている。剣術の経験は相手の方が長いとはいえ、ここまで差が出るほどではなかったはずだ。やはりおかしい。
「蘇った後で鍛錬でもしたのか? そうでなきゃ、説明がつかない。」
「君の推理は間違いではないよ。だが、半分しか合っていない。」
「まだ何かあるとでも……?」
カレルは突然構えを変更した。見慣れた剣技とは異なる構え、異質な文化圏の動き……。これはまさか、今の相棒であるアイツの構えじゃないのか? カレルとアイツは勇者の座を継承した時しか大して接点はないはず……。
「これが私のとっておきだよ!」
少し離れた間合いを一瞬で詰め、力強い踏み込みから放たれる上段からの振り落とし! 俺はとっさに剣で防いだ。いや、させられたと言ったほうがいい。奴自身も技だけを見せるためだけにこれを放ったのだ!
「……破竹撃!!!」
(パキィッ!!!!!)
俺の剣はいとも簡単にへし折られた。不思議と体にはその衝撃は伝わってこなかった。元の使い手である相棒から聞いたことがある。この技は自然体で余計な力を抜いてひと思いに剣を振り抜く事を意識して繰り出すものだと。
だからこそ力が余分に分散せず対象を断ち割る力に集中するのだと、言っていた。カレルの手で放たれたのはまさしく戦技一◯八計”破竹撃”に違いなかった!
「まさか、アイツの技をパクるとはな……。恐れ入ったぜ。」
「カレルさんがロアの技を……。」
「私は常にロアの戦いぶりを彼の目線で見ていた。だからこそ、その技のことも手に取るように理解出来たんだ。知っているかい? 勇者同士は技を共有できるんだ。彼が一度、剣豪勇者ムーザの技を使った事があっただろう? それと同じことさ。」
虎の魔王と戦った際に剣豪勇者の力を借りたと奴も言っていた。一時的に体のコントロールを明け渡し、魔王に手傷を与える事に成功したらしい。だが、これは今、カレルがやってみせた芸当とは根本的に異なる。
カレルは技を見て憶え、鍛錬で習得したと見たほうがいい。ただのマネなどではない、確実に自分の技として落とし込んでいる。だからこそ手加減も出来たのだろう。
「俺の知らないうちに厄介なものを習得しやがって!」
「知らないうちに? そう思うかもしれないが、そこにいるグランデ家のお嬢さんはごく短期間のうちに同じ流派の技を習得したそうじゃないか? そういうこともあって、私も負けてはいられないと思ったのさ。」
エレオノーラが短期間で技を習得したというのは仲間間では有名な話だ。それは時間の流れの異なる異空間を利用したものだとはわかっているが、それにしたって早いことには変わりがない。
通常は一つの技だけでも数ヶ月ほどかかるようだし、ロアは数年以上かかったとも言っていた。カレルもエレオノーラと同じ手段を使った可能性は高い。魔王がバックについているのだから、それくらいはやっているはずだ。
「もちろん習得したのはコレだけではないよ。」
「他の技も習得したと言いたいんだろうが、見せる前に終わらせてやるさ!」
折られた剣をすぐさま再生し、空いた反対側の手にも剣を錬成し二刀流状態に移行する。こうしたのも、コチラのとっておきをお見舞いするためだ。今まで実戦では使ってはいないから、今回が初のお披露目となる!
「剣術を確実に習得しただけでなく、二刀流を習得していたとは!」
「お前だけじゃない。裏で腕を磨いていたのはみんなそうだったってことさ!」
相手に手を出させないように矢継ぎ早に剣を繰り出す。手数に優れ、様々な状況に対応してくるのが、あの流派だ。だったら使う隙きを与えないうちに倒す! それが常日頃から考えていた、あの流派への対抗策だ!
「くっ!? 流石に取って置きな事だけはある! 中々やるじゃないか!」
「このまま終わらさせてもらう!!」
左右両方の剣に光の闘気を滾らせて、ひと思いに放つ! 少し形は違うが、これは単独で放つ勇者の合撃、シャイニング・グレイシャー。二刀流で繰り出せるようにアレンジを加えた、俺だけのオリジナル技だ!
「シャイニング・グレイシャー・ソリッド!!」
「二人で繰り出す技を単独で使ったというのか!」
カレルは俺の技を避けることもなく、何らかの技で迎撃をしてきた! この技のフォームも見たことがある! これは流派梁山泊の奥義”霽月八刃”じゃないか! 技と技がぶつかり、当然のように俺の技はかき消されてしまった!
「やはりコレは君の本領ではないんだろうな。私の知っている君はもっと強いはずだからね!」
技を相殺され呆気にとられている内に奴は次の技の体勢に入っているのが見えた。それは一瞬の内に行われ、気が付いたときには間合いに入られ、攻撃を加えられた。衝撃を感じると共に、俺の意識は遠のいて行った……。