第351話 あの事件の裏側とは……?
「でも、安心した。これなら、全力で打ちのめしてやれる!」
「やる気になってくれたかい、ファル君? 私も嬉しいよ。君と全力でやりあえるんだからね。」
危機的状況だが、かえってそれは本気で戦っても問題はないってことだ。眼の前にいるカレルや師匠は本人であろうと、今は魔王の配下だ。身内だからって遠慮する必要がない。特にあの二人とはいつか本気でやり合いたいと思っていた。
「みんな、手は出すなよ。カレルとは一対一でやり合わせてもらう。」
「そうか。それなら私も従うとしよう。お二人共、見ているだけに留めておいていただきたい。」
「アタイも弟子と遊んでやりたかったが、アンタに譲るよ。弟子の成長ぶりを傍から眺めるのも、また一興さね。」
「どうぞ、ご自由に。私は特に不満はありませんから。」
師匠とエルフリーデも手出しするつもりはないようだ。俺達を討伐するために動いているとは思えないくらいの余裕ぶりである。それとも、カレルの強さに絶対の信頼を置いているのかもしれない。いや、師匠はそうは思っていないか。あの女の性格からして、俺を横から茶化すことを企んでいるに違いない。
「剣で戦うのかい? 剣士である私に対して?」
「当たり前だろ。俺だって魔法剣士としての経験はそれなりに積んでいるからな。魔術だって使うさ。お前相手に遠慮なんてしてられないしな。」
「私が生きていた頃まではまだ風の剣は実体化していなかったのに、相当魔術の腕も上げたようだね? これは私も本腰を入れないといけないな!」
ひと呼吸置いて、剣が打ち合う音が周囲に鳴り響いた。同時に鍔迫り合いで押して押されての展開となる。事前に打ち合わせたわけでもなく何の合図もないまま、突然始まった。周囲の人間にはそう見えるだろう。
だが、十年ほど俺と共に戦い続けていたのだ。互いのタイミング、呼吸というのは知り尽くしている。相棒としては日の浅いロアよりも余程知っている男だ。
「懐かしいな! こうやって剣で打ち合うのは! 君の剣は昔、実体ではなかったけどね!」
「フン! 長生きしてりゃ拝めた光景だぜ? あんな英雄気取りのクソ野郎なんかにやられちまいやがって!」
コイツとはそれっきりだった。伝説の竜帝を倒しに行くと言うヴァルを説得し、一人で説得をしに行ったっきりだ。落ち合うはずの村でコイツはやって来ることはなかったのだ。その代わりにやってきたのは額冠を付けた別の男だった。それがロアだった。
「君は知らないと思うけど、私が命を落とした事件には裏があるんだよ。」
「何? お前が下手こいた言い訳でもするつもりかよ?」
カレルを風魔術で牽制し、強引に間合いを取らせる。鍔迫り合いを終わらせ、実質的な戦いへと移行したかったから、そういう行動を取った。何か俺の気を引く話題にしたがっているようだが、思い通りにはさせない。相手のペースに巻き込まれるわけにはいかないからな。
「まあ、君の言うように下手をこいたのは事実かもしれない。それに関しては言い訳と取られても仕方のないことだ。」
「ケッ! お前のそういう優等生的な態度が気にらないんだ。少しは愚痴の一つでもこぼしてみろよ。」
間合いを取ったところで、風魔術を連射し、それを盾にカレルに斬りかかる。奴は牽制の風魔術をものともせずに剣で相殺しながら、俺を迎え討って来た。袈裟斬り、横薙ぎ、切り落とし、一連の連撃は全て防がれてしまった。
「あの事件はこの世の歴史を大きく変えうる可能性があった。だけど、死んだのは竜帝様と私だけ。ヴァルだけは生き残った。黒幕の目論見は失敗に終わったんだよ。」
「何だ? アレは共倒れを狙っていたとでも言うのか?」
「さあ、どうだろうね? この先の真相は私に勝ったら教えてあげよう。」
「言わなくても、俺が無理矢理にでも吐かせてやるよ!」
あの事件はヴァルが竜帝の力を手に入れるために動き出したのが発端だ。あくまで表向きはそうなっている。俺達クルセイダーズが関与していたのは、ヴァルと竜帝、双方の動きを監視するためでもあった。
クルセイダーズというか教団側と竜帝自身は大昔に決裂していたので、それ以来、竜帝は要監視対象となっていたのだ。その娘である幻陽の賢者とクルセイダーズは交流はあったのだが、正体は伏せていたため、あの事件で会うまでは知らなかった事実だ。
彼女としてはクルセイダーズと古竜族の仲をなんとか取り持ちたいと考えていたようだ。父親とは違う思惑で動いていた、という意味では自分にも共通する所だったの
で妙に感心した憶えがある。
「いいのか? 色々ぶちまけると、立場的に危うくなるんじゃないのか?」
「勇者だった時は完全にアウトだっただろうね? 今は違うし、ハリス様の配下だ。彼らの思惑に従うまでさ。」
あの事件の裏側をチラつかせつつ、その間の俺の攻撃の数々を凌いでいる。俺もあれから相当強くなったとは思うが、カレルに追いつけない。いや、奴も生前はここまで強くなかったはずだ。蘇った時点で何らかの鍛錬を行っていたのかもしれない。そういう意味では俺以上に俺の知らない切り札を隠し持っているのかもしれない。