第350話 恐怖の複製人間
「馬鹿な!? 一体どうなってやがるんだ!? なんで死んだはずの人間が……、」
「え? そんな嘘でしょ? フェリスさん……!?」
「おんどれ! カレルに続いてフェリスかいな!? どないなってんねん!?」
その姿を知っているのは俺だけじゃない。オッサンもあの女とは何度も任務を共に熟していただろうし、メイの場合は我が子の様に可愛がってもらっていたはずだ。それに加え、メイの母親の相棒だった人物だ。
「おやおや? みんな揃ってアタイを化けて出た、みたいな見方をしてやがるな? そっちのお嬢ちゃんは初めましてだけど。」
「悪い冗談が過ぎて吐き気がしてきたぜ! 実は死んだのは俺らのほうかもな、って思えても来た!」
「そんなのは普通、師匠に言うような言葉じゃないよ! 減らず口を叩くのは変わっちゃいないね。むしろ饒舌になってしまったんじゃないかい?」
フェリス・D・シオン、このエルフ女は俺の師匠だった人間だ。相変わらず口の悪さは俺の知っている師匠そのままだ。カレルといい、気味が悪いくらいにそのままだ。死んだって事実を知らなければ、本人だと間違いなく判定するだろう。
「アンタ、結局、勇者にでもなっちまったのかい? アタイの知る弟子には出来ない芸当をやってのけた。アンタの方こそ偽物じゃないのかい、ファルのそっくりさん?」
「うるせえよ! 俺は本物だ!」
「ハハハ!! 相変わらずイジりがいのある男だよ、アンタは! でも、もう一人を見たら、アタイらが蘇ったって思うんじゃないかい?」
もう一人……? カレル以外にも仲間がいるというのか? その疑問に即答える様な形でもう一人の人物が姿を表す。女だ。人間の魔術師。知らない人間が見たらただの女魔術師だが……俺らのパーティーメンバーの一人によく似ている! この女は……。
「お母さん!? どうして!?」
「久しぶりね、エル。」
エレオノーラの母親だと? 確か、名はエルフリーデだったはずだ。カレルの師匠、シャルル・アバンテの仲間でもあったはず。道理で似ていると思った。見た目は大分若いが、彼女の死は10年以上前なので見た目は娘と対して変わらない。知らなければ十分姉妹として見えてしまうくらいに若かった。
「これでわかっていただけたかな、ファル君? 我々は蘇った。アンデッドとしてではなく、新たなる肉体を得た上でね。」
「冗談を言うな! 何らかの魔術でも使っているんだろう!」
「君は知っているはずだ。仮にも一級の魔術師なら、噂や都市伝説レベルで知っているはずだよ。我々は複製人間なんだよ。」
「あの禁忌中の禁忌の秘術で生み出されたっていうのか?」
あまりにも倫理に反した技術のため、魔術師の間ですら知られていない眉唾ものの技術なのである。あのフェルディナンドも極秘理に研究していたのだ。俺は奴経由でこの技術の存在を知った。あまりにも悍まし過ぎて、他言するのも憚れれるほどだった。
「なんやそれは? 聞いたことないで?」
「門外不出の禁忌だからごく一部の魔術師しか知らない情報だよ。まあ、魔族の中では常識らしいけど。ハリス様はその筋の研究で有名だからね。古代からずっと研究を続けているのだそうだよ。」
「ハリス様? お前、それを本気で言ってるのか? 悪魔に魂を売ったんじゃないだろうな?」
ハリス様、と言った。これで間違いなく犯人はハリスだというのはわかった。奴は人造人間を自らの兵隊にしているだけではなかった。考えたくもなかったがそれ以上の禁忌にも手を出していたのだ!
「売るも何も、蘇らせてもらった恩というものがある。裏切るわけにはいかないだろう?」
「ハリス様に蘇らせてもらった。アタイらの体の欠片、髪の毛一本からでも培養できる程に研究は完成されているのさ。」
「私達の肉体、魂を入れるための器はそうやって作られるの。そこへネクロマンシーの”半魂の法”を使うことで魂の定着をさせるのよ。」
「これで複製人間は完成する。ハリス様といえど、そこに至るまでには長い道のりだったそうだ。おかげで君たちと再び対面できたというわけだ。」
確かに複製人間の技術は肉体を作るだけだ。見た目そっくりに作れたとしても、記憶や経験によって得た能力が使えるわけではない。魂の違う別人にしかならないはずなんだ。禁忌とはいえ、そのデメリットが解決できなかったから忘れ去られたのだとも言える。人造人間の方が有用と考えられていたようだ。
「言っておくが、ここにいる我々だけではないよ。他にも大勢いる。」
「ハリス様がこれまで集めてきた英雄や賢者、犯罪者や名の知られていない有力者まで、その大勢がこの塔の中で待ち構えているのさ。」
「エドやサヨ様、処刑隊にヴァルの部下たち、果てには犬の魔王や外にいる総長まで、その全てを迎え撃つためにここに集結しているんだ。」
「ケッ! 道理で堂々と仕掛けてくると思った! 人造人間だけだと思わせておいて、本命で叩くというわけか!」
俺達は見事に嵌められた。勇者を人質に取られた挙句、とっておきの秘策を隠し通していたのだ。正に悪魔の発想だ。こうやって今までも魔王戦役で多くの英霊の命を奪ってきたのだろう。コレは絶体絶命の危機とも言えるが、おそらく退路はない。勝って生き抜くしか道はないのだ!