第349話 K’の挑戦状
「俺らに挑戦する? たった一人でか?」
「流石に私一人では君たち全員を相手にするのは不可能だ。そこまで自信過剰じゃないよ。」
カレルは俺一人にではなく、パーティーに挑戦すると言った。他に仲間、というか彼にもパーティーメンバーがいるというのか? 本人もそれを匂わすような発言をしている。俺以外の全員を動けなくするほどの実力者なのだ。複数いると考えたほうがいいと思った。
「カレルが連れてきた仲間もとんでもないんだ。俺達では手も足も出なかった。情けないことにな!」
「自分をそう卑下するもんじゃないぞ、ファル君。少なくとも彼女は君のことを褒めていた。」
「クッ!? それが一番悔しんだよ!」
カレルの仲間とは一体……? ファルが打ちのめされる程の実力者とは何者なのか? その正体はカレルと同じく”複製人間なのかもしれない。だとすれば故人、かつての英雄なのかもしれない。
「アンタの仲間って……?」
「私の口から語るよりも、ファル君やエレオノーラ君に聞いた方がいい。彼らのほうが余程詳しいはずだから。それでは失礼させて頂くとするよ。」
「お、おい!!」
カレルは転移魔法でこの場から消え去った。彼の仲間の詳細がわからないままになってしまった。ファルやエルの方が詳しい? もしかしてカレルのような恩人だったり、身内だったりしたのだろうか?
「な、なあ? カレルの仲間って誰なんだよ?」
「……。」
「あのさ? ファル?」
「俺にとっては最悪の敵だったんだ……。カレルと同じくらい、いや、それ以上のな。」
ファルはしばらく沈黙してから、意を決した様にカレルの仲間の詳細を語り始めた。何者かを簡潔に語った上で、俺が戻ってくるまでの間に何が起きたのかを話し始めた。
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「罠だとはわかっちゃいたが、こうも出し抜かれるとはな。羊と|蛇
《シャロット》が手を組んでいるとは! 想定外だぜ!」
「普段は結託の”け”の字もない奴らやのにな。ケッタクソ悪いわ! 難儀な問題になってきよったで!」
「私はロアが心配です。彼一人だけで魔王の罠に対抗できるんでしょうか?」
ロアの奴が突然消失し、パーティーメンバーに不安と怒りの感情が錯交していた。幻陽の賢者の話によると同様に消失した人員がいるらしく、こちらはむしろ他のパーティー程、被害は多くないようだ。彼女のパーティーでは半数の人間がいなくなったのだという。
「大丈夫だよ、エルちゃん。勇者さんならきっと大丈夫。」
「あの子は決して負けない。今のあの子は勇者なのだから。」
「そ、そうよね。彼は勇者だものね。彼はそう簡単に負けないわよね……。」
メイとレンファがエレオノーラを励ます。中でもヤツの伴侶であるエレオノーラのショックは大きい。彼女にとってアイツは大きな存在であるから、心の動揺はどうやったって起きる。相手方はその心理をうまく利用しているのだろう。ロアの奴を徹底的に陥れる狙いもあるのだろうが。
「私も同意したいな。そうであってもらわないと困る。」
「……だ、誰ですか?」
「お、お前、まさかカレル!?」
「カレルだと? ということはつまり……、」
「何やねん!? 冗談にも程があるでぇ!?」
エレオノーラやレンファは知らないだろう。メイは出身地が同じだから顔くらいは知っているかもしれない。俺とゲンコツのオッサンはこの男に面識がある! だが死んだはずの男が何故ここにいる? 化けて出たのか? アンデッドにされたのか? だが特有の闇のオーラは漂っていいない。瓜二つの偽物の可能性もある。
「やあ、ファル君、それにゲンコツさん。久しぶりだね。あなた方の知っての通り、カレルだよ。先代の勇者のね。」
「先代……!? あなたがあの? ロアに勇者の額冠を託したっていう……?」
「口だけではなんとでも言える! アイツは死んだ! 俺とジュリアが弔い埋葬したから間違いはない! どうせ姿形を繕った偽物だろうよ!」
「まあ、そう思われるのも仕方無い。だったら試してみるかい?」
カレルを名乗る男は剣を抜き構えを取った。剣を逆手に持ち後ろへ振りかぶり前傾姿勢を取る。これは勇者の技、シャイニング・イレイザーに違いなかった! だが形だけならマネは可能だ。闇の力を利用したコピー技を使いこなす小僧もいる。
「わかるね? 見ての通り、シャイニング・イレイザーだ!!」
「くっ!?」
偽物は遠慮なしに技を繰り出してきた! 避ける事は出来たとしても、メイは対処できない可能性がある。俺はとっさに風斬り羽を錬成し、同様の技で相殺を試みる!
「シャイニング・イレイザー!!」
「なんと!? 君も習得したというのか!?」
(バシュウゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!!)
互いに放った光の斬撃が炸裂し激しい明滅を建物内に照射した! 双方の技の威力は互角で相殺しあい、光も次第に小さくなっていった。間違いなく勇者の技だ。少なくとも相手はアンデッドの類ではない。この一連の流れは事実を証明するに足りた。
「どうかな? これで信じてもらえたかな?」
「まだだ。技の再現程度なら素質があれば誰だって出来る!」
「勇者の素質がないとね? やっぱり君も素質があったんだな。思っていたとおりだ。」
「そうさね。アタイもよくやったと思うよ。あのハナタレ小僧がよくここまで成長したもんだ!」
偽カレルの後ろから、偉そうな口ぶりの女が現れた。長い金髪に特有の尖った耳、魔術師のローブを独自のセンスで切り詰め、動きを妨げないようにした服装を着こなしている! その特異な見た目は忘れることがない。俺のよく知る、あの女に違いなかった!