第348話 先代の勇者再び!?
「そこまでなら咎められる程ではなかったんだろうが、中には人を複製しようって考える奴が出始めたから禁忌扱いになったんだろうよ。」
「同じ人間をたくさん作って何になるっていうんだ? 考えたやつの意図がわからない……。」
「例えば、屈強な英雄や知性に優れた賢者が何人もいたらどうなると思う? 英雄なら戦争では負けなしの軍隊を作れるかもしれないし、賢者なら優れた政策や技術だって生み出せるかもしれない。そう考えた奴が少なからずいたんだろう。」
「そんなのゾッとしかしないぜ……。」
いわゆる天才と呼ばれる人種を複数生み出すようなこと。そんなことが出来ればあっという間に世界なんて征服出来てしまうだろう。でもそれはある意味、人をゴーレムでも量産するような感覚で生み出すようなものだ。
人というよりも道具みたいな扱い。今ではタルカスみたいにゴーレムですら道具扱いされる事を拒んでいるというのに、実際にやれば人でも同じ様な事が起きるだろうな。そうじゃくても人の上に立つ王様とかは他人をそういう目で見ている可能性もあるが……。
「こういうのは凡人の発想だ。もっとエゲツない使い方がある。」
「何だよ? コレ以上におぞましい考え方があるっていうのか?」
「この技術を応用して不老不死を確立するってのがある。”複製人間”として予備の体を作っておき、怪我や病気、老いによる衰えを感じたりしたら新しい体に乗り換えるって方法を考えた奴がいる。」
「な、なんだって!?」
俺の口は開いたまましばらくは閉じれなかった。体の”予備”なんて考え方が出来るだなんて。そんな人間がいたのか? ……いや、似たような方法で達成していた男がいたことを思い出した。眼の前にいる男によく似た奴を思い出した……。
「それは彼のご先祖様、魔術学院の前学長フェルディナンド殿のことだよ。もっとも彼は”複製人間”技術は研究段階だったようだけどね。」
「お、お前は!?」
「前者のパターン、英雄を量産するという意味で生み出されたのが私なのさ。」
ファルから禁忌の技術について話を聞いていたら、横から割り込んできた人物がいた。その姿は忘れもしない……。カレル、その人だった! 死んだはずの、しかも、俺の手で埋葬した人物があの時のままの姿でそこにいた!
「くそ……!? 戻ってきたのか?」
「おっと! 無理はするなよ、ファル君。私はただ彼と話をするためだけに戻ってきただけだ。しかも私一人で来た。これ以上危害を加えるつもりはない。」
「くっ! 舐めるなよ、俺を!」
「落ち着け、ファル! 無茶はよせ!」
命に別状はないとはいえ、動けない程度には痛めつけられているはずだ。無理をさせるわけにはいかない。しかし、敵対相手として現れたというのにこの程度で済ませているのは何か理由があるんだろうか? 加えて本人は「戻ってきた」とも言っている。何故なのか?
「聞かないといけないことは色々あるが、アンタは俺らの敵なのか? それをまず教えてくれ!」
「聞かなくてもいいだろう? 君の仲間に危害を加えた。それだけで充分じゃないか。今の私はハリス様の部下だよ。」
「やはり魔王の手先に……。」
「生前の私とは別人と思っていたほうがいい。その方が心の健康にも良いはずだよ。ハリス様の意図とは違うだろうけど。」
先代の勇者でありながら、魔王を慕うような発言をしている。姿形は同じでも彼はすでに魔王に魂を売り渡してしまっている? 魔王に複製されてしまったから強制的にそうさせられているだけなのか?
「何故? 魔王なんかの配下になっているんだ? 元勇者だろう? そんな事があっていいはずはない!」
「それは生前の話だ。一度死んで、蘇らせてもらったんだ。その恩には報わなければならない。それが最低限の礼儀だろう?」
「勇者としての誇りを捨ててしまったのか、カレル! 見損なったぞ!」
ハリスに忠義を誓っているというカレル。それに対して怒りを露わにするファル。生前のカレルとは若い頃から何度も共に戦ってきたという話をファルから聞いたことがある。ある意味、俺の前の相棒とも言える存在だったからこそ、その姿に怒りを覚えるのだろう。
「少なくとも今は勇者ではない。彼に譲ったからね。今の私はただの戦士でしかない。肩書は違うのさ。見た目は変わっていなくとも。」
「納得しているのか? 無理やり魔法とかで従わされてるだけじゃないの?」
「納得するも何も、こういう機会があればと、死んでからは何度も思ったものさ。勇者ロア、君と対決することを夢見ていた。」
俺との対決を望んでいた? 今まで何度か死後の彼に対面したことはあるが、そんな様子は微塵も感じられなかった。思い悩んだり、行き詰まった俺の後押しをしてくれていたのが彼だったから……。
「君はまだ勇者としては途上なのかもしれない。でも今まで培ってきた異国の独特な剣術、流派梁山泊に興味を持った。気味の戦いぶりをみているうちに次第に、自分の剣術がどこまで通用するのか気になってきたんだ。それだけじゃなく、純粋に君の勇者としての力をこの身で体感したかった。」
「俺の戦い方に興味を……?」
「だから敢えて、君の仲間を傷付けずに無力化した。君がいない時といた時の力の差を見たかったのさ。私が使いこなせなかった”勇気の共有”の影響を見るためにね。」
「勇気の共有を?」
「だからこそ改めて言いたい! 君のパーティーに挑戦状を叩きつける!!」
先代勇者が心に秘めていた思いを初めて知った。何の変哲もない、みっとなさばかりが目立った俺に興味を持っていたなんて……。そんなカレルと対決しなければならなくなるとはな。