第346話 謎めいた勢力の人達……?
「色々トラブルはありましたが任務は無事完了しました。」
「ウム、ご苦労であった。後は奴ら自身に任せるとしよう。」
俺は勇者を外の世界に戻した後、総長と合流し任務の完了を報告した。事前の取り決めでは、勇者に手を貸すのは最小限に留める事になっていた。下手に介入しすぎれば、我々の計画に狂いが生じるかもしれないからだ。
「しかし、羊への妨害はなさらなくていいんですか?」
「構わぬ。蛇とは違い総力で立ち向かっているから、我らの出る幕はない。下手に手を出せば、我らの存在を勘付かせる結果になるし、計画にも狂いが生じる。」
蛇が勇者を倒してしまうという懸念があった。単独で罠に誘い込み陥れ、殺されてしまえば、計画が狂う。ここで勇者に倒れられてしまえば、我々の計画は台無しになってしまうのだ。だからこそ直接的な関与をした。勇者への手助けは最小限に留めた上でだが。
「”K’”の件ですか?」
「ウム。あれは後に影響を与える重要な因子だ。下手に介入し、データが改竄されれば、我らの計画にも影響が出る。特にこの時代の”VL作戦”に最も影響を与えてしまうことになろう。」
「それを失念しておりました。確かに”あの男”の人格、素質にも影響を与えかねませんね。」
あの事件は後の時代への影響が大きい。特異点として指定されてもいる。そこに関わる人物、特に勇者に直接関わる者の素性が変わってしまえば、特異点に狂いが生じる可能性が高い。下手をすれば我々にも影響が出るかもしれない。存在すら消失してしまう恐れもある。
「この場でのK’の勇者との交戦記録は後の素体にフィードバックされる。だからこそ、後のあの男との共闘の内容全てに影響を与えるのだ。」
「他の人員にも経験を積ませる必要もあるのですよね。この場自体が”VL作戦”の予行演習でもあると……。」
「そのためにも極力、ノイズとなる存在を除かねばならんのだ。特に……そこの死に損ないの様にな?」
「ひッ……!?」
側にある岩の出っ張りがビクンと動いた。その凸凹した出っ張りが蛇の姿に変わっていく。そう、蛇の魔王が擬態して潜んでいたのだ。勇者の究極奥義を喰らい、表向きは消失したはずだったが、断片が生き残っていたのだ。死の直前で蛇腕が途中で消えていた事を俺は見逃していなかった。
「気付いていないとでも思ったか? 薄汚れた蛇めが。」
「どうしてわかったのよ! 極力、力を抑えて息を潜めていたというのに!」
「貴様が放つノイズは息を潜めたとしても消せはせぬ。”悪”というものは強弱に関係なく、邪なノイズを絶えず放っているものなのだ。」
「総長の力を甘く見るなよ。お前のような三流魔王とは格が違うんだ。」
奴は蛇腕を本体から切り離し、アカ・シャッセの様な別個体として成立させた上で生き延びていた。この空間が消失する前に勇者を強引に退場させたのは、コイツが生きている事に気付いていたからだ。下手に悪あがきされるよりも個別に倒しておいた方が安全だと思ったからだ。
「あなた達、よくも私の邪魔をしてくれたわね! 勇者を括り殺し、あの娘の体を手に入れる計画が全て台無しになってしまったわ!」
「浅はかなものよ。あの男を倒すには貴様では力不足だ。おとなしく羊と強力していれば良かったものを。貴様単独では敵わぬ相手だったということだ。」
「人間の分際で生意気なことを! 私に説教など百年早いわ!」
「人間を侮っているから、貴様は不覚を取ったのだ。」
「きいぃ!!!」
勇者をいたぶり、苦しめながら楽しんで殺そうとするから隙きが生じ、つけ入れられ反撃の機会を与えてしまったのだ。ただ倒すことだけに専念していれば、間違いなく倒せていただろう。だがそうすることはありえないからこそ、我々の計画は問題なく進むのだが。
「でも、いいわ。あなた達の秘密を知ってしまったのだから、それを暴露させてもらうわ!」
「ほう? ここから生きて帰れるとでも?」
「当たり前じゃない! あなた達のハラワタを食い尽くした後でキングに報告するつもりよ!」
「フン、おめでたい奴め。」
断片の蛇は総長に飛びかかった。その体を総長に巻き付け、獲物食らうが如く絞め殺そうとしている。それでも一向に変化は起きなかった。いや、起きるはずなどない。こんなことで総長を殺せると思ったのが大きな間違いなのだ。
「どうした? 私を殺すのではなかったのか? ただただ私を抱擁したかっただけなのかね?」
「なんてこと……!? ただの人間にこんな力があるなんて!?」
「それを一目で見抜けなかったのが貴様の運の尽きよ。魔王如きでは私を倒すには至れない。」
「おのれぇぇっ!!!」
「オクタゴナル・デッドリー・スラッシュ!!」
(ド、バッシャァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!)
総長が気合の一声を上げた瞬間、断片の蛇は弾け飛んだ。至近距離であの攻撃を食らったのだ。誰であろうと無事では済まされない。一撃必殺とは正にこのことだ。
「ば、馬鹿な!? この技は……、」
「おっと! それ以上口にすることは許さん。」
(グシャアッ!!!!)
まだ無事だった頭部を総長はひと思いに踏み潰した。流石に蛇も攻撃の正体に気付いてしまったようだ。自身を滅する事が出来るのは”あの技”のみ。死の瞬間に悟ったのだろう。
「これでこの場に残っている理由もなくなった。さっさと撤収するぞ。」
「ハッ! かしこまりました!」