第337話 技を理解出来なかった者の末路
「紛い物であっても、この男のモノよりはより完全に再現できているはず! 他の使用者の技も参考にしたのよ? 不完全なはずがない!!」
パッチラーノに紛い物であると断言され、魔王は憤慨している。本人は技を研究し尽くし、俺以上に使いこなしているとまで言っている。それを今一度証明するために、再度、技の体勢を作り、俺へと向き合う。今回も剣、刀、槍の三点同時で繰り出そうとしている!
「先程のはなにかの手違いよ! 今度こそ死んでおしまいなさい!!」
魔王は向かってくる。技の入りは他の達人たちと変わりないように見える。本人の言うように俺のものよりよりも洗練されているように感じる。コレと俺のはドコに差があるんだろう? 先程と同じくあまり意識的に動こうとはせずに、自然体で全てを感じ取るように神経を研ぎ澄ます。
(ビュオッ!!!)
迫りくる攻撃の気配を感じ取り、それに合わせる形で技を繰り出す。さっきは何も考えずにやけくそで対応しただけだったが、あの時は無意識的に”絶空八刃”を繰り出していたんだ。だからこそ相手が繰り出す複数の”八刃”に対応できた、ということを理解した。
「あああああっ!! 何故!? またしても技を相殺された!」
「そら見ろ。それが上辺だけの技だから、あっさりと返されるんだ。アンタの技は平面的で低次元な紛い物でしかないのさ。」
「低次元ですって! 人間の分際で舐め腐って!!」
「舐め腐ってんのはアンタの方。超次元殺法を平面的にしか捉えてないから失敗するんだ。」
低次元か超次元かの認識の差で技に差が出ている? 確かに技の精度を上げていく段階で自身の認識力、意識の次元を上昇させないといけなかった。それを魔王は再現できていないから不完全なのだろう。
かつて師父が技を見せてくれた時に”不完全な紛い物”と言っていたことを思い出した。師父が言いたかったのは正にこの事だったのだ。今頃になってその意味を理解することが出来た。
「もうわかっただろ。アンタに勝ち目はない。あきらめな。」
「フフ、フフフ。馬鹿おっしゃい。こんなことで終わりになるわけがないじゃない。これが通じないなら……、」
「プラン”D”ってか? まだまだ弾はあるって訳だ? ヒュドラの首みてえに後から後からはえてくるんだろ?」
「おだまり! とにかく私はまだ負けたわけではないのよ! 技なんかに頼らずとも、人間共には超えられない壁というものがあるのだわ!」
魔王は気を取り直し手に持った武器全てを構えた。まだ戦う意志はあるようだ。技の模倣が通じずとも、身体の優位性は向こうの方が上だ。腕も多く、顔も三つある。おまけに体格も俺に比べると遥かに優れている。ただ身体能力だけで押し切ることなんて充分出来るはずだ。今正に相手はそれを実行に移そうとしているに違いない。
「今までは敢えて人間の技をいとも簡単に再現して絶望させる目的があったけれど、ここからは魔族の真の恐ろしさを見せてあげるわ! 決定的な戦力差に絶望なさい!」
今までは確かに手を抜いている感が拭えなかった。毒を使って嬲り殺しにするという狙いがあったため、殺しきれない程度で俺をいたぶっていただけだ。あの体を以て全力で襲いかかってくるのだから、死を覚悟しなければならない!
「しゃああああっ!! 切り刻み、貫き、断ち割って八つ裂きにしてあげるわ!!」
その攻撃はまるで嵐のような攻撃だった。剣が薙ぎ払われたと思ったら、別方向から槍が突き入れられる。刀の曲線を描く軌道に紛れて、豪快に断ち割る勢いで斧が振り下ろされる。相手は一人だが、多数の敵を一度に相手している錯覚を感じるほどに凄まじいものだった。
「きいいっ!! 特筆するほどの身体能力もないくせにどうして防げるのよぉ!!」
自分もそう思う。さっきより激しい攻撃のはずなのに、なんとか凌げている。なにか相手の動きが手に取るようにわかるというか……。なにか全てが見えるようになってきているのだ。それが戦いの前半のときとの違いだ。
「何よ! どうしてよ!? さっきよりも動きが良くなっているじゃない! なんでこういうことになるのよ!!」
「あ〜あ、もう完全に見切られちゃってんだよ。もう終わりだな。」
「あああああっ!!!!」
魔王は半狂乱で武器を振り回してくる。どんどん焦りとイライラが募り、攻撃がでたらめなものになっていっている。もう技とかなんとかひったくれもないただの攻撃の羅列にしかなっていなかった。
「一◯八計が一つ、破竹撃!!」
「ああああっ!!!」
見え見えの攻撃は軌道を予測するのも容易い。振り下ろした斧を持つ腕を、突き入れてきた槍と共に豪快に切り落としてやった。これで相手は二つ同時に攻撃の手数を失った。それは魔王にとって大きな損失とも言えるだろう。多数の腕があるからこその優位性が崩れ去ってしまったのだ!
「お、おのれぇ!? よ、よくも!!」
「ありゃりゃ。こりゃ目も当てられないな。もう終わりだ。」
魔王は優位性が崩れたことに動揺し、慌てふためいている。最初は俺を陥れるために躍起になっていたのに、無様な醜態を晒してしまっている。倒すなら今がチャンスなのだろうが、まだ油断するなと俺の勘が言っている。確かに追い詰められた時にたちの悪い悪あがきをするのが魔族だからな……。