第33話 スカーレット・コア
「学長としての執務を行いながら、影でこのような研究を行っていたとは。」
私とトープス先生は何時間も隠し部屋の記録、手記等を手当たり次第読みあさった。コアの精製方法の試行錯誤がこれらの資料に記され、フェルディナンドが生涯をかけて研究をしていたということが良くわかった。
「とはいえ、近年の物に近付くに従って、コアその物の記述が少なくなっていますね。」
スカーレット・コアと呼ばれる物を心臓の代替品とする……それが私達二人の想像していた内容だったのだが、擬似的に生物を利用した実験を行っていた痕跡は見られた。だが結果は芳しくなかったようで、比較的短期間で実験のw取りやめにしたようだ。問題はそこからの研究だった。
「途中からアストラル界の研究に切り替わっています。何か問題が生じたのでしょうか?」
「当人もこの前の戦いでは元の肉体を捨て、アストラル・ボディに切り替えていたようですね。不老不死に対しての考え方を変えたのかもしれません。」
前の戦いに於いて、フェルディナンドは驚くべき行動を取った。自らの肉体を捨て魔力による肉体、アストラル・ボディへと切り替えた。彼の得意とする風属性の魔力その物と化し、名実共に“嵐の王”となっていた。何らかの切っ掛けで、不老不死の方向性を変化させたのは間違いなさそうだ。
「ですが、コアと呼ばれる物の存在意義に疑問が出てきますね。」
「それはどういう意味ですか、トープス先生?」
「長い研究の末に作り出したコアを使わなかったのは何故でしょう?」
研究の末に精製した物を使用していなかった。直接見たわけではないが、勇者達によると、フェルディナンドの本体は異次元空間に存在していたという。そこで交戦し、最終的にフェルディナンドが力尽き崩れ去ったと聞く。その一部始終は勇者以外にエレオノーラからも聞いたのだが、コアに関する証言が全くと言っていいほど何も言及されていなかった。
「異次元空間とコア、この二つをつなぐ物が何かあるのかもしれません。」
「古い迷宮を探索していたときに見かけた壁画を思い出したのですが、古代では魔力結晶を神々の世界への入り口として、奉り、信仰の対象としていたようです。」
「魔力結晶が異世界に通じていると?」
自分の専門は空間制御に関する魔術ではあるが、大きく考えが異なっている。主に人の意識、記憶の世界、あるいは天上の星々の世界に関する研究が主だ。古くから神々の世界いわゆる天界と、上位魔族が住処とする魔界が存在するといわれているものの、魔術学会ではその存在は否定されている。他の次元に至る方法が確立されていないからだ。
「私の立場としては否定しなければならないのですが、それを否定する事実を目の当たりにしてしてしまいました。」
「あの戦いは間違いなく異次元空間でおきていました。あの空間に至れたからこそ、フェルディナンドは不死身の存在になれたということです。」
その時、私はふと見た書架に違和感を感じた。書物の背表紙が一定の色合いで統一されている物が存在していることに気付いた。これはもしかすると……、
「この書架に秘密が隠されているかもしれません。」
「こ、これは……!?」
背表紙を揃えていくと書架にとある紋章が浮かび上がった。シオン家の紋章である。揃えてからしばらくすると、紋章が光り輝き、書架が床下に埋没していった。そこには更なる隠し部屋へと続く扉が出現した。
「むう! またしても隠し部屋が!?」
「まさか、こんな所にもあったとは!?」
捜索は手詰まりになりかけていたが、隠し部屋が発見できた。もしかしたらこの中に賢者の石スカーレット・コアがあるのかもしれない!
「さっそく中に入りましょう!」
「……ぐうっ!?」
隠し部屋へ至ろうとした瞬間、トープス先生はうめき声を上げた。それと共にその場に膝を突く。膝には何か貫いたような小さな穴が空いていた。彼は義足とはいえ、的確に作動不良に陥るような損傷を与えられたようだ。
「どうしたんですか!?」
「わかりません。これは何者かによる襲撃かもしれません! 警戒して下さい!」
ここは奥まった部屋の中。窓際なら弓などによる狙撃も考えられるが……位置的にそれは考えられない。何らかの魔術で攻撃をされたのかもしれない。
「如何なる場所からでも攻撃する魔術……。千里眼のロング・フォースか!」
D・L・Cのメンバーに恐るべき魔術の使い手がいることを思い出した! 全員、魔神の迷宮にいるのかと思いきや、こちらにも刺客を差し向けていたとは!