第327話 ……舞台から飛び降りる思いで、とは言いますけども?
「あの非モテどもめ! シャンリンに同情してもらって孤立を回避しやがったぞ!」
僕たち4人のグループは第一の目的地に向かって、会話を弾ませながら足を運んでいた。お嬢さんはタニシさん達にシャンリンさんが付いていくという事実に不満があるみたいだ。
最近知り合った彼女とはすごく仲が良かったので、他のグループに行ってしまったのは心外だったんだと思う。しかも、最近はタニシさんを毛嫌いしている様子も見られるので二重に悔しいと感じているみたいだ。
「なんかヘイゼルまでアッチに行っちゃってさ。まあ、あの娘はちょっと嫌いだから別にいいけど。あの眼鏡も右に同じ!」
ヘイゼルさん、彼女はMrs.グランデの従妹に当たる女性だと聞いた。学長の騒動が落ち着いた後、学院から姿を消していた。彼女の話しによれば、母親の旧友が教団関係者ということで、そちらのツテで異端審問会に加入したと話していた。
もともと魔術師としても長けていた彼女は護身術や神聖魔法を習得し、識学者となったらしい。ゆくゆくは母の友人のような司教になるのだと話していたのが印象的だった。
「なるほど。お前の敵勢力にりんしゃんが人質に取られたも同然というわけだ! ああ、かわいそうなりんしゃん! きっとスケベ犬にあーんなことや、こーんなことをされてしまうに違いない!」
「ダメです! そんないかがわしい妄想をするのは失礼ですよ!」
「ほう? 君はその内約をどのように解釈したのだね? ロッヒー君、是非とも君の性癖について聞かせてもらおうじゃないか?」
うわ! ただただ邪推は良くないと忠告しようとしただけなのに、まさかのプリメーラさんから逆に質問を受けてしまう事態に! そんな! 女性の方から卑猥な内容の会話を求められるとは思わなかった! 僕もそんなにくわしい訳ではないのに……。
「コラ! このバカ女! ウチの下僕1号にセクハラの狼藉を働くとは許さんぞ!」
「別にいいじゃん。ロッヒー君が『あーんなこと、そーんなこと』に興味を示していたから、そういう話がしたいのかと思うたのじゃよ!」
「えぇ……。そんな部分に興味があったわけではないんですけど……。」
「え? 違ったの? じゃあ、スケベ犬じゃなくて、りんしゃんとヘイゼルちゃんがキャッキャウフフするのに期待してるとか? 結構、マニアックだね、君は!」
話がどうしてそんな方向に! ええ? 女の子同士で何をするというのだろう? ただ仲良しさんになるだけの話なのに、ちょっといやらしい響きに聞こえるのはどうしてなんだろう? そんな事を想像してしまう僕も何を考えてるんだろう……。
「何とんでもない方向に脱線しようとしてんだ、バカ! それはお前の性癖&願望だろうが!」
「いや、私、どっちも行ける口アルよ! 美少年と美少女、どっちも大好物なんで!」
「なんでいきなり東洋訛りになってんだよ!」
え? どちらもいけるとはどういう意味なんだろう? 彼女は異性だけに留まらず、同性にも興味があると? 博愛主義者なんだろうか? どちらの性別にも興味がある人がいるなんて初めて知った。
「お前ら、いい加減にしろよ。馬鹿騒ぎに付き合わされる身にもなってみろ!」
「なんや? 君も話に参加してくれてもいいんやで?」
「誰が参加などするか! 馬鹿にするのも大概にしろ!」
「おおう! コレがいわゆるツンツン型という奴か! 攻略のしがいがあるでぇ! 攻略が進む事にフラグが立って、しまいにはツンデレにクラスチェンジするんやでぇ! 楽しみやわぁ!」
(じゅるり!!)
「うわっ! 汚い! コイツ何処まで汚れてるんだ?」
エピオン君は相変わらず、グループ行動を嫌がっているが、プリメーラさんに調子を崩されている。常にクールな態度を崩さない彼でも、彼女の奇想天外な行動・言動には惑わされてしまうみたいだ。常に自分のペースに引き込む彼女はひょっとして天才的なコミュニケーション能力の持ち主なんじゃないだろうか?
「あっ! 皆さん、目的地に着いたみたいですよ。」
坂道にある町並みを眺めながら辿り着いた先には、山の崖の部分にせり出す形で建てられた寺院があった。寺院であるとわかったのは幻陽の賢者さんから渡された紙に簡単な地図と共に説明が書いてあったからだ。
その姿はあまりにも僕たちが慣れ親しんでいる文化圏の建物とは大きくかけ離れているし、ひと目見ただけでは詳細がわからないので助かった。僕たちはその景観に驚かされつつ、中に足を踏み入れて行った。
「スゴイところに建てられてる! この建物作った人、天才なんじゃんない?」
「こんなところに木造の建築物を建てられるのですから、未知の技術が多く使われているに違いありません。これは世界七不思議に匹敵するほどの文化財ですよ。」
「おお! なんかあそこに展望台みたいなところがある!」
お嬢さんとプリメーラさんは大はしゃぎで外からも見えた展望デッキの部分に駆けて行った。近付かなくても外の景色がよく見えるので、側まで行けば一層良い景色が拝めそうな気配がした。
「ああ、もう! なんかテンション上がってきた! いっそのこと、ダイブしちゃえ! うおりゃ!!」
「うわっ!? ちょっと、危ないですよ!!」
プリメーラさんは何を思ったのか、展望デッキから飛び降りてしまった! 落下と共に下にある木々に引っかかり、ガサガサと大きな音を立てながら落ちていく! 大丈夫だろうか?