第319話 フェイクにフェイクを重ねた上に…?
「ちょっと待て! 話の途中だぞ。せめて、やったことへの弁明をしてからにしろ!」
危うくパッチラーノに話をそらされるところだったが、肝心な部分がまだ解決していない。今までのコイツの不可解且つ不条理な行動の数々は何のために行われているのか? ところどころ垣間見える正体についても、まだ説明がない。
「旦那よぉ、しつこいんじゃないか? いいんだよ、そういう方法論のことなんかどうでもいいだろう? アンタはアンタの目的を遂げることに専念しろ!」
「何も言わないつもりかよ! あれだけ酷い事をしておいて、何も説明なしなのは納得がいかない!」
「何のため? アンタを生かして帰すためだよ。それだけは一貫しているつもりだ。でもよ、一回だけぶっ殺してやろうと思ったのは事実だけどよ。」
俺を助けるのが目的だったのか? にしては手荒い態度が多かったような気がする。一度、口論になって喧嘩に発展したりもした。それでもなお俺を助けるためだと言っているのはどうしてなのか? そこにどういう目的があるんだろうか?
「俺の行動の理由を知りたいんだろ? だったら黙って付いてきな。塔の上から突き落とした理由がわかるぜ。」
パッチラーノは塔に向かって歩き始める。それに黙って付いてこいと言う。スタート地点とも言えるこの世界には秘密が隠されているのだろうか? もちろん、倒しそこねていた亀を倒すためという目的もあったんだろうけど、あの塔の先もどん詰りになっていた。どこにラスボスは隠れているのか? そんな疑問を頭に浮かべながら等への道のりをひたすら進んでいった。
「塔に着いたぜ。ここには秘密があるんだ。」
塔に着いた。ここは冒険を始めたときと特に様子は変わっていない。アドベンチャーズギルドもそのままあるし、簡易的な宿とか装備品を揃えている店がある。ここにいる人間が何かおかしいのもそのままだ。取り憑かれたり、洗脳されているのかと思うくらいテンプレな行動、リアクションしかしない。塔の内部も中々イカれた場所だったが、スタート時点からもうすでに始まっていたのだと実感した。
「まず、あの入口は本当の入口じゃねぇ。入って主達を倒す必要はあるが、噂で言われてる”楽園”とやらには一生たどり着けないんだ。」
「全部嘘っぱちだったのか……。騙された奴は何人いたんだろうな?」
「そりゃもう、星の数ほどいるぜ。例えここが偽りの世界だとしてもな。犠牲になった奴は数しれず、さ。」
偽りの世界とはいえ、普通に人はいる。アカとかもそうだし、大洋王国の連中やアキラ、ソード・ダンもそうだった。普通とは言っても、ドコかおかしい奴らばっかりなのは魔王が設定した世界だからだろうか? 人間を偏った見方で認識しているのは間違いなさそうだ。
「見ろ。ここだここに非常階段があるんだ。」
「ゲッ!? こんなところに階段がある! でもこれって最初から見えてたっけ?」
「見えないぜ。普通はな。ここは主達、四天獣を全部倒せば出現するようになっている。封印が解けるってわけだ。」
パッチラーノが一度外に出たと思ったら……外壁部分にある階段を指し示した。外にあるから入る前に気付く奴もいるはずだが、封印されているので見えないようになっていたようだ。中に入るのは罠とは言い切れず、ちゃんと中も回ってからでないと、最終目的にたどり着けないとはね。敵さんも手の込んだ仕掛けを用意したもんだな。
「じゃあ、ここを登って行けば”あのお方”とやらに会えるんだな?」
「そう思うだろ? 違うんだなコレが。この先に言っても、文字通り天に召されるだけだぜ? これも実はフェイクって訳だ。」
「コレも罠か! 試練をくぐり抜けてやっと…って時に、罠が仕掛けられてるってことかよ。」
やっとの思いでたどり着いても、罠で台無しにされてしまうとは。とことん意地の悪い作りになっているようだ。塔の中身は空間が捻れていると感じたが、作った奴の思想も捻れているのだろう。羊の魔王という奴はとことんイカれていると見ていいだろう。
「真実の道はどこにあるんだい? 早く正解を教えておくれよ。だんだんアタイは我慢ができなくなってきたよ。」
アカはイライラしている。彼女の目的からするとそうなっても仕方ないのかもしれない。最後に待ち受けているのは親兄弟の敵だからな。それだけを求めて俺と共に塔を冒険してきたのだ。待ちに待った瞬間が後少しというところまで来ているのだ。イライラするのも当然の流れだと言える。
「慌てるな。慌てたところで奴は倒せないぜ。」
「なんでもいいから、早く話な! 入口はどこにあるんだい?」
「ここさ。」
パッチラーノがどこを指し示すのかと思いきや、指の先にあるのは地面だった。地面? 本当にそこは地面で何か階段があるとかではない。ただの床を指し示しているのだ。冗談にしか見えないが、今の流れでそういうのはありえない。本当にそうなのかもしれない。
「ふざけるのも大概に……、」
「ふざけていると思うだろうが、実際にこの下にいる。文字通り奴は地獄の底にいるのさ。正確には入口なんてものはないのさ。いるのがわかっていても、たどり着けないようになっている。普通に行こうとしてもな。」
パッチラーノは淡々と説明している。入口がないと説明した上で、腰の道具袋から何かを取り出した。まるでそれが最終目的地に至るための方法だと示しているかの様に……。