第317話 神の雷
「アンタが塔から突き落とされた後、アタイもアイツに落とされちまったのさ。気がついたら、トリ野郎とウミヘビの化け物たちと一緒にいたんだよ。気を失っている間は虎野郎に体のコントロールを奪われてたのさ。」
「なるほど。やっぱり元凶はアイツか。」
大洋王国の城から出る間にコレまでの経緯をアカから聞かされた。俺が落とされてから、同様に落とされてしまったらしい。俺もその話を聞いているうちに記憶がハッキリしてきた。突き落としたアイツへの怒りもこみ上げてきたわけだが。
「でもさ、虎野郎は大丈夫なのか? 魂が蘇ったんだろ? まだ生きてるよな?」
「ああ、まだ中にいる。でももうアタイの方が強くなっちまったから、気を失わない限り乗っ取られることはないさね。」
「アイツも最早雑魚扱いか。」
塔を登る間に強さが逆転してしまったらしい。実際、虎野郎を倒した後の展開は苛烈だった。道中の魔物もえげつないのばっかりだったし。ダンジョンではおなじみのグレートなデーモンとか、ドラゴン、キメラ、中には破壊光線を撃ってくる巨大な目玉みたいなのもいた。そういうのを倒して、食べていたら強くならないはずがないのだ。虎が負けるのも順当なのである。
「おのれ! よくも朕の国を目茶苦茶にしてくれたな!」
「げっ!? 王様じゃないか! 生きてたとは!」
「朕は死なぬ。息子の無念を果たすまでは!」
誰が来たのかと思えば、大洋王ベイスタだった。ドンガメさんに騎士たちもろともやられたのかと思いきや。全身ボロボロの状態で俺らの後を追ってきたようだ。執念深い王様だな。もう自国はどうにもならない状況なのに復讐だけは律儀に果たそうとしている。
「こうなった以上は朕が直々に手を下してくれよう! 覚悟せ……、」
「わーっ! ちょーーっとストッピング!!」
なんか慌てたような声が聞こえたかと思うと、王様は背中から押し倒され、全身金属鎧の何者かに踏み潰された。見覚えのある鎧…というか金属スーツ、これはラップのものだ! ラップが俺の危機を救ってくれたようだ。というか中身はアイツなのはわかっている。なんでまた、この姿で現れたのか?
「いやーっ、あぶなかったですねぇ! もう少しで敵討ちの復讐の仇討が執行されるところだったですヨ。」
「お前、ラッ…じゃなくて、パッチラーノ! どういうつもりでここに来た?」
「結果としてアタイらを助けてくれた事は感謝するけど、蹴落とした恨みは忘れちゃいないよ?」
「小さい”つ”が付くことだけは覚えているんですぅ!」
「オイ!!」
なんというわざとらしさだ。お約束のあのセリフを言っておけばなんとかなるとでも思っていたのだろう。だが、そんなのは通じない。死ななかったとはいえ、ひどい目に合わせてくれた事実は消えない。たとえ大洋王を倒してくれたのだとしてもだ。
「あ、いや、もう、なんというか、アレは必然だったわけですヨ。あのまま進んでも塔の攻略は不可能なわけで……。」
「にしても、やり方ってモンがあるだろう? あんな騙し討ちみたいなやり方があるか! ひどすぎるだろう!!」
「え、えーと……あっ!? なんかあっちから別の追手が!」
「え、何?」
やつの指差す方向を見ても何もいなかった。その間に走り去るような音が聞こえた。気づいたときには遅く、ラップはすでに逃げ出したあとだった。おのれ、こしゃくな真似をしやがって! 俺自身がこんなことを考えるなんておもってもいなかったぜ!
「あっちに逃げたよ!」
「ちくしょう! 逃してたまるか!!」
逃げたアイツの追跡を速攻で始める。仕返しするのはともかく、この世界の謎を握っている人間なのは間違いない。アイツが魔王に関わる人間ではないのだろうが、確実に裏事情を把握しているはず。塔の上にいた枢機卿の人も怪しい。絶対にラップを捕まえて、洗いざらい白状させないといけない。
「なかなか逃げ足の速い奴だね!」
「くそ、やっぱあの鎧が筋力を増強しているってのは本当らしいな!」
意外と早いアイツの逃げ足に感心しつつ追いかけるうちに、外へと躍り出た。ヤツの姿が見えないと思ったら、かなり離れた場所で何か丸太ほどの太さの筒を肩に担いでいる姿を見つけた。筒の先端を城の方向に向けながら何かの準備をしているような様子だった。見かけてから時間はかかったものの、ヤツの元にたどり着く事が出来た。
「オイコラ! どういうつもりだ? 逃げるような真似をしやがって!」
「待ちに待ったときが来た! 多くの英霊が無駄死にでなかったことの証のために!!」
たどり着いた俺らを意に返すことなく、ラップは何やら大仰な似つかわしくないセリフを吐いている。突然何を言い始めたのだろう? その肩に担いだ筒は何をするための物なんだろうか? なにやら、良くないことが起きる前触れのようにも感じられた。
「再びクルセイダーズの理想を掲げるために! 大洋よ、私は帰ってきたぁ!!」
(ボゴォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!)
耳の中を突き抜けるかのような爆音を響かせ、筒から火の玉が吹き出ていった! 火の尾をたなびかせながらそれは王国の城へと向かっていく。この筒は何らかの魔法を使うための魔導器だったのかもしれない。そんな事をかんげていると、城の方向からとてつもない衝撃波と閃光が放たれた!
(ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
衝撃波と閃光の次は強烈な炸裂音! まるで十数回分の落雷がまとめて一箇所に落ちたかのような現象が発生した。これはただ事じゃない。ラップはとんでもないことをしでかしたのだ。こんな事が人の手で引き起こされてもいいのだろうか……?