第314話 お前が倒れるまで俺は殴るのを止めないっ!!
「では、ソード・ダン、処刑を開始せよ!」
「ハッ! 仰せつかりました!」
処刑のため王の広間から移動し、闘技場のような場所に俺は連れてこられた。周囲には高い塀が築かれ、そこには観客席が用意されている。ひときわ展望のしやすいVIP席から王様が俺を見下ろすような形でなっているのだ。闘技場に立っているのは俺と処刑人のソード・ダンだけだ。
この国の伝統に則り、一対一で処刑が行われるそうだ。なんだか武術大会みたいな形式だ。そして武器を手にしていないと判断されたのか、義手はそのままだ。当然、中には剣も入っている。これで処刑なんて成り立つんだろうか?
「ハッハ! これで思う存分お前をいたぶってやれるぞ! 覚悟しろよ、オラァ!!」
「これじゃ、ただの八つ当たり大会じゃないか……。」
「これは処刑だから? 避けたり、反撃したりしたら死刑だからな! 手ぇ出すなよ!!」
なにか反則めいた事をすると死刑……。もとよりコレは死刑のはずなんだが……。あまりにも軽々しく死刑という単語が出てくるので、死刑の定義がゲシュタルト崩壊してしまう。同じ物を見過ぎたり、聞いたりし過ぎると感覚がおかしくなる現象だという話をサヨちゃんから教えてもらったから知っている。実際にそんな場面に出くわしてしまうとはな。
「どりゃ、そりゃ、おりゃ!!」
(どかっ、ばきっ、ぼこっ!!)
ソード・ダンの殴る蹴るの暴行が繰り広げられる。そう、処刑は基本的に素手で暴行を加えられる方式になっているのだ。てっきり断頭台とかの処刑器具が出てくるのかと思いきや、拍子抜けするような内容だったので唖然とした。どこぞの処刑隊が見たら鼻で笑われそうなくらい滑稽な処刑である。
「どうした? あまりの痛さに悲鳴も出ないか? だが、お前が倒れるまで俺は殴るのを止めないっ!!」
(どかっ、ばきっ、ぼこっ!!)
ソード・ダンの攻撃は容赦なく続くが、正直……全然痛くない。宗家とか鬼のオッサンみたいに極められた体術による攻撃に比べたら、屁でもない。下手な武器よりも圧倒的に殺意の高い、あの攻撃の数々に比べれば、ソード・ダンのはネコナデパンチに等しい。おまけにこっちは硬気功が使えるため、鎧並みの防御力はある。相手からしたらそれなりに硬いと感じるはずだ。
「はあ、はあ! お前、どんだけ硬いんだよ? 疲れちまっただろうが!」
「お前の鍛錬不足だろ? こんなんでへばってたら、梁山泊なら速攻で外に放り出されるぞ。」
「りょ、リョウザン・ポーク? なんだと? 俺が謎のブランド豚に劣ると言いたいのか!」
「豚肉なんて関係ないやん……。」
なにやら梁山泊の事を空耳してしまってブランド豚肉と勘違いしたようだ。イベルゴン産豚肉とかじゃないんだから。しかし、ソード・ダン、学がないどころか、体力もないらしい。所詮はニート、ネガティブなだけな男がイキった程度では無防備な相手すら倒せないようだ。
「ソード・ダンよ! 何をしているのだ! 一向に処刑が進まぬではないか! 余興などしている暇などない! はよう、止めを刺さぬか!!」
「へ、陛下、コレはただの手違いなんです! 今までのはこの男とのわだかまりを解消するための儀式のようなものでして……。」
「言い訳は良い! はようせぬと貴様ごとまとめて死刑の処分を下すぞ!」
「ひいぃ!? それだけはご勘弁を! たった今から本気の100%の力を発揮して見せるので、ご安心あれ!!」
未だに俺に対して傷一つ付けられない状況に業を煮やした王様はソード・ダンに発破をかける。その様子に慌てふためいた奴は、気を取り直し、姿勢を正して腰に付けた革袋から何かを取り出した。見たところ薬瓶のようだが……?
「フフ、お前もコレで終わりだ。ここで俺は悪魔のお薬シリーズを使わせてもらうぜ!」
「薬だと? あの時飲んでたやつか?」
「その名も”もっともっと更にものごっつ強くナール”だ! コレを飲めば天下無双! 飲んだ暁にはお前などあっという間叩いてくれるわ!!」
(ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ……。)
ソード・ダンは薬の蓋を開けて中身を一気に飲み干していった。コレもあの時みたいに性格を豹変させる効果があるのだろうか? あのときは妙に演説めいた事をし始めて俺をディスりだしたので呆気にとられた。今回も何らかの奇行を繰り広げるのだろうか。
「くおぁ! やらせはせん! やらせはせんぞぉ〜!!」
飲み終わった途端にソード・ダンは様子がおかしくなり、口調だけでなく体にも変調をきたし始めた! みるみるうちに全身の筋肉は盛り上がり、アンバランスな体型になった。最早人間の姿からはかけ離れている! 化け物のような姿だ!
「さあて、ショータイムの始まりだ! スペシャル・メガトンパンチを喰らえぇ!!」
(ぶおんっ!!!)
膨れ上がった剛腕によるパンチが振るわれた。振りかぶっただけで轟音が轟くほどだ。流石にコレを食らったら、俺もただでは済まない。遠慮なく回避だけはさせてもらおう。
(ドゴォン!!!!!!!)
俺が身構えた時、ソード・ダンとの間に何か山のようなものがそびえ立った! 空から降ってきたのだ! コレは一体何だ? 何が起こったというのだろうか?