第311話 この上に……いますヨ!
「うわ、ナニコレ!? 果てしなく続いてるじゃん!」
神がいるという場所につながっている階段の真っ正面に俺達はたどり着いた。遠目に見えていたときはごく普通の階段でしかなかったが、前に立つとまるで印象が変わった。
階段は天井を超えても果てしなく長く続き、その先はあまりにも遠くて先が見えない。空高くそびえ立っているのだ。まるでこの塔そのものがそうであったように。
「なんかまだ果てしなく旅が続きそうに思えるのは俺だけか?」
「いいや、違うよ。アタイだってそうさ。まだこの先があるんじゃないかってね。」
「ごもっともですヨ、お二人さん。なにしろこの階段は神様のおわすところ。これはある意味天国へ至る階段なんですから、こうなってないと説得力がないでしょう?」
「天国への階段……。まるで今から天に召されるみたいな感じじゃないか。」
「普通は死なないとやってこれない場所に来てしまったみたいだね、アタイ達は。」
色々思うことはあるが、果てしない階段を登り始めることにした。終わりが見えなくても突き進むしかない。先に続くのはこの階段だけなんだから。あっという間に前のフロアの天井部分を通り過ぎ、周囲には空しか存在していないゾーンをひたすらに登っていく。
「しかし、きついなこれ。ずっとお代わり映えのないけしきをみながら登り続けないといけないんだし。」
「しかも、ここまでの道中と違って、魔物が一切いない。安全なのはわかるが、これじゃ退屈だね。」
「こんな神聖な場所でそんな物言いは罰当たりですヨ。これはある意味、休息とかボーナスステージみたいに思えば、気が楽になりますヨ。」
「階段をひたすら登るなんて休息になるわけないだろ! こんなん、効果があるか疑 わしい怪しげな健康法と同じじゃないか!」
階段をひたすら登るのが休息にあなるんなら、回復魔法や睡眠なんていらなくなるだろう。だいたい、ここまで来る間に何度も階段は使用している。その道中で魔物と戦い傷付くことも多数あった。
そのたびにアカの能力で治療してもらったからこそ、生き残ることが出来たのだ。階段にそんな効果があるなら、もっと楽になったはずである。のので、ラップの言説はガセ!
「困った方々ですね。これじゃご利益は授かれませんよ? では、神様においでいただきましょう。」
「は!?」
階段の上、少し先に突然まばゆい光が差し込んだ。あまりの眩しさに思わず目を細めるが、それが何か人の形をしていることに気づいた。光は段々と弱まっていき、白い服装に見を包んだ男性が姿を現した。見たことのない人物なのかと思いきや……つい最近、顔を合わせたばかりの人物だった。
「アンタが神様だってのかい? アタイにゃ、普通の坊さんにしか見えないよ!」
「失礼ですよ、アカさん。この方こそが全知全能の存在なのです。」
「いやいや、その前にこの人にはこの前会ったばっかりなんだが? 披露宴の会場で……。」
「フフ、覚えておいででしたか、勇者殿。そうです。この前お会いしたばかりでしたね。」
確か、レオポルドという名前だったはずだ。披露宴の会場で出会い、なんとなく別の人物との既視感を感じたひとだった。服装はこの前と同じで、上等な神官の服を着ている。教団関係者、中でもそのお偉いさん、枢機卿とかいう立場の人物だったはずだ。
「確かに私は神ではありませんよ。ただの人間、一宗教家に過ぎませんよ。あくまで彼が申しているに過ぎません。」
「何をおっしゃいますか。貴方様は私にとって神も同然ですよ。」
レオポルドはあくまで神ではないと主張する。ラップは何故か、この人物を崇拝に近い感情を抱いているようだ。と、ここで何を思ったのか、ラップは突然兜を脱ぎ始めた。今まで一度も取ることのなかったそれを今になって外したのだ! その素顔は……、
「ぱ、パッチラーノ!? お前、生きていたのか?」
「よお、旦那。久しぶりだな。ようやくご対面できた。」
「今までのやりとりは全部演技だったのかよ!」
「いや、違うね。このパワードスーツは装備すると人格まで変わっちまうのさ。潜入任務用にそういう機能がもりこまれているんでね。ラップってのはこのスーツそのものの人格ってことっすわ。」
パッチラーノが生きていた? この高い塔から落ちたっていうのになんで生きていられる? おまけに怪我すらしていない。まるで冗談みたいな減少が目の前で展開されている。一体今まで正体を隠していたのはなぜなのか?
「というか、なんでアンタたちがこんなところにいるんだ? 俺達の敵なのか味方なのかハッキリしてくれ!」
「どちらかと言えば、敵だろうよ。でもな、今は共通の敵がいるから協力してやっているんだ。」
「簡単に説明しますと、貴方は罠に嵌められるところだったのです。このままではこの世界から脱出する資格を得られないまま、永遠に閉じ込められる事になっていたでしょう。」
「この世界から出られない……!?」
「ある男の巧妙な罠によって、本来倒すべき敵を排除せずにここまで到達してしまったのです。ここは一度引き返し、目的を達成する必要があります。」
「え!? もと来た道を戻ってやり直して来いと?」
「まあ、そういうこった。手っ取り早く戻れる方法を教えてやるから、後ろを向きな。」
「……?」
何か途中でやり残していることがある? そのためには戻ってやり直すしかない? マジで? ここまで長かったのに戻らないといけないなんて、あんまりだ! だがパッチラーノが戻る方法を知っているらしい。何か転移の魔法でも使うんだろうか?
「で、こっからどうするの?」
「決まってるだろう? グズグズするなよ、幸せモンがぁ!!」
(ガツンッ!!)
突然、背後から衝撃が加えられた。俺は予測できなかった、その展開に為すすべなく、長い長い階段を転がり落ちていった。そして階段も直に終わり等から投げ出され真っ逆さまに落ちていった。落ちる途中で聞こえてきたのは、パッチラーノの笑い声。まるでしてやったりということを俺に見せ詰めるかのようだった……。