第308話 獅子搏兎
「ミリガルド、ゴッタ、小娘だからと手心を加えるな。歴戦の勇士を相手取るつもりで戦うのだ。」
「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす、って感じっすか」
「違う。こういうときは油断大敵と称するのが正しい。」
壁の人たちは戦う準備を始めた。最初の三人のときとは違って、初めから三人全員で私に戦いを挑んでくるつもりらしい。今までのやりとりから考えて、私がチームの要になっていることを彼らは察しており、それを廃してしまえば、瓦解すると見ているのがわかる。仲間の一人が動けず、他の二人もまだ合流していない今が好機だと思っているはず。
「ミリガルドさんは厳しいっすね。俺にそういうことを言う感じで行けってことっすね?」
「やれやれ、曲解してしまっているようだが、説明しているほど暇はない。そのつもりで行っていいぞ。」
彼らのうち、隊長の人とミリガルドと呼ばれている人は私を冷静かつ早急に倒すべきだと思っているみたい。だけれど、ゴッタと呼ばれる人は少し私を侮っているように感じる。強敵だとは思っていても、多勢に無勢な状況では私に勝ち目はないと考えているはず。彼らに付け入る隙きがあるとすればそこしかない。
「さあ、始めよう! 今が決着の時だ!!」
「私は一人でもアナタ質に負けないアルよ! 私をかばってくれたプリちゃんのためにも戦うアル!!」
「負けなくても、死ぬのは確実だろうなぁ!!」
軽口を叩きながら、ゴッタが私に斬りかかってきた。 両手には左右それぞれ三本の棘のついた手甲がはめられている。それを突き出すように拳をふるいながら攻め立ててくる! 攻撃の有効射程は短いけれど、二刀流と同じくらいの手数があるのと同然。県で下手に受ければ、折れてしまう可能性があるから慎重に受け流さないといけない。
「ちいぃ! ちょこまかとよく動くじゃないか! オレの必殺コンビネーションを軽々と躱しやがる!」
「一人ではね。これで人数が増えれば、その身軽さも活かしにくくなる!」
ゴッタの拳の連打の合間に、矛の攻撃が差し込まれてきた! ミリガルドとかいう冷静な物言いの人が連携する攻撃を繰り出してくる。私がゴッタの攻撃の隙きを突こうとしたときに動きを阻止されてしまった。これでは反撃の機会すらない。これでもう一人が加わったらと思うと、背筋が冷たくなるのを感じた。
「くっ! 二人がかりで挑んでもここまで躱されるとは、デイヴィットたちが敗れた事にも納得がいきますね。」
「チクショウ! ここまでデルタアタックで倒せない相手は中々いないぜ。大体はオレのところだけで音を上げる野郎の方が多いのによ!」
「だから私がいるのではないか。隊長自らが打って出たときは大抵の敵は血に伏しているものだ!」
拳と槍の連携に追い詰められつつあった私のところへ、ものすごい勢いの一撃が振り下ろされた! 躱すのは間に合わないと感じたのでとっさに県で防いだけれど、その勢いは凄まじかった。私は容赦なく壁まで吹き飛ばされ叩きつけられた。
「くっ!? うっ!?」
「りんしゃん!?」
「ほう? まだ動けるか。その小さな体でよく持ちこたえたものだ。だが、何度もこの攻撃には持ちこたえられまい!」
意識が朦朧としている。痛くて苦しい。このまま倒れてしまえば楽になるだろうけれど、みんなの頑張りが無駄になってしまう。死にはしないだろうけど、一生、元の世界に戻れなくなるかもしれない。それを避けるためには意地でもこの場で勝たないと……。
「まだ立つというのであれば、戦いは続行するとみなす。」
「……私は負けられないアル。みんなのためにも……。」
「じゃあ、決まりだ! その顔が醜く歪んじまっても後戻りはできねえぞぉ!!」
ゴッタは拳を振りかざして、私を粉砕しようと襲いかかる。もちろんこれだけを躱すのは難しくない。でも連携の矛の攻撃が必ず差し込まれるはず。それを阻止するために私は彼らの予測の右斜め上を行く行動をとらないといけない。向かい来る拳を跳躍して躱し、ゴッタの頭上を飛び越えようとした。
「甘い! そうやってやり過ごすと思っていた!」
ゴッタの頭上に到達しようとしたその時、狙いすましたかのように矛の横薙ぎが待ち受けていた。どちらに避けようと矛の攻撃が来るとわかっていたので、それは想定済み。ここから私が彼らの予想できない行動を取る。剣の柄を両手で持ち、中央で分割させる。この県の特別な機能を使って幻惑する!
「な、何!? 剣が2つに別れた!?」
「双剣術、飛凰双空撃!!」
空中で双剣に切り替えて、宙返りしつつ左右それぞれの刃を振り下ろして矛を破壊した。落下する前にゴッタの体を蹴り飛ばし、着地をした。これで二人はしのいだけれど、隊長がこちらに猛然と向かってきていることに気づいた。
「やはりやりおるわ! だが、我らはまだ倒れない! 相手を打ち取るまで、進撃を続けるのだ!!」
それはまるで猛牛のような勢いの突進だった。さっきの一撃とは比較にならない勢いだ。同じように剣で受ければ、武器ごと粉砕されてしまう。でも双剣術の技を以ってすれば、対抗することも可能。技には技で対抗するのが一番良い!