第305話 人の経験まではマネできない。
「これでオレは事実上、最強の盾と矛を手にしたことになる! 無敵の結界と最強の剣技をな! お前の冒険もここで終わりだ!!」
おまけに体もデカイ。見るからに勝てる要素はゼロである。……が、それは見た目とかコレまでの経緯を見てきたから言える事だ。口では俺の技を手に入れたとは言っているものの、本当に再現できるんだろうか?
「ぐおおおっ! ファイ・バードめ!!」
「おやおや、まだお寝んねしていなかった奴がいたか!」
クルセイダーズの巨人たち、ヤツらはアキラに乗っ取られた一体を残して全滅したと思われていたが、まだ動くことが出来る奴が残っていたようだ。頭が吹っ飛ばされていた個体がどうやって視界を確保しているのかはわからないが、アキラの方へと殴りかかろうとしている!
「ちょうどよかった。コレを利用して技のデモンストレーションをしてやろう!」
(シュバァァァァッ!!!!)
首無し巨人の拳が後一歩で届くか届かないかくらいの距離で、アキラ巨人の光の剣は振り下ろされた! 首無し巨人は動きを止めなかったが、アキラ巨人に拳が触れた途端、そこから真っ二つに体が分断されていき左右に分かれて倒れた。
「どうだ! 見たか? この切れ味! こんなにもやすやすと切り裂けるとはオレ自身もビックリだよ!!」
「なんて威力なんだい! あんなのにどうやって勝てって言うんだ!!」
「ひぃぃ!? もう終わりだ! 破滅だ! 最悪だ!!」
確かに凄い威力だ。巨大な物をぶった斬るんだもんな。しかも全身が金属で出来た物体を、である。見た目は確かに圧倒される。でも、俺の気のせいかな? アレは技によるものではないと、俺の勘が告げている。
「いよいよお待ちかね、お前の解体ショーの時間がやって来たぞ! 何度か真っ二つにされたファイ・バードの痛みを味あわせてやる!」
俺を切り刻むつもりらしい。本気か? そのデカイ剣で? 同じ大きさの巨人だったから真っ二つに出来たんだと思うけどな? そんなの米粒を包丁で真っ二つにするって言っているようなものだ。小さい対象を潰さずに切断する行為がどれほど難しいことか理解が及んでいないようだ。俺は倒せても、切り刻むなんて事は一生出来やしない。
「食らえ! この剣技で斬ってみせる!!」
(シュバァァァァッ!!!!)
巨大な刃が俺に向かって振り下ろされる。でも避けない。いや、避ける必要なんてないんだ。何故なら俺は真の流派梁山泊の奥義、”八刃”を使いこなせるからだ! その勘違いが身を滅ぼすと言うことを身を以て思い知らせてやろう。
「霽月八刃!!」
(シュバッ!!!!)
「えっ!?」
俺が技を振るった結果、奴の光の剣は真ん中あたりで消失していた。先端部分は俺が八刃で斬り払ったから無くなってしまったのだ。これが八刃、技の力という奴だ。コレでハッキリした。アキラのは紛い物だ。
「な!? に!? プラズマ・ブレードの刃が消失した!? 壊れたのか? いや、そんな事はあり得ない!! プラズマ・エネルギーが消失するなどあり得ない!!!」
「お前のはただの剣だったからだ。同じ技を使ったら相殺現象が起きる。それを俺達の流派では”八相殺し”と呼んでいる。お前の剣がおかしくなったのは俺の剣技を防げなかったからだ。」
「何をワケのわからんことを!!」
「お前は俺の技を再現できたわけではないんだ。剣技にすらなっていない。」
どうやら俺の能力を取り込んでも、技までは再現できなかったらしい。いや厳密に言えば、俺の技は鍛錬の後に習得したものであって、生まれつきの能力じゃない。竜帝のドラゴン・スケイルとかアカのライフリーチは生まれ持ったものだから、ヴァルやアキラは取り込むことが出来たのだろう。俺特有の能力と誤解したのが最大の過ちだったのだ。
「くそっ! もういい! 剣なんて物に頼らずともオレのほうが圧倒的なんだ! 叩き潰すなり、踏み潰すなりしてくれるわ!!」
光を放つ剣を捨て、今度は徒手空拳で俺に向かってきた。ブンブンと四肢を振り回し俺を攻撃するが、大きいので動作も遅く避けるのはさほど難しくはなかった。そのうちにアキラ巨人は体勢を保てなくなり、手足がもつれ合うような形で転倒してしまった!
(ズゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!)
「うわぁぁぁぁっ!!!!!??????」
さっきまでは余裕を持って攻撃していたが、俺の技を再現できないとわかった瞬間から余裕が失われてしまったのだろう。俺だって余裕なくなったらしょっちゅうアホみたいなミスしてたからな。
「もしかしたらさあ? 俺の特性を取り込んだってことは、デメリットだけ反映されてんじゃないの? 俺って基本”無能”な人間だからさぁ。」
「クソッ!? ありえないくらいドン臭くなったのはお前のせいか! 元のオレならあり得ないミスだというのに! 疫病神か、お前は!!」
「いやぁ、照れるなぁ! 昔っからよく言われるんだよねぇ。」
「褒めてねえよ!!!!」
とか冗談は置いといて、気を取り直して改めて剣を振るった。絶空八刃。アキラ巨人の全身に渡ってぶった斬った。その後、巨体は霞のように消え去り、元のアキラの体だけが残された。コレでもう奴は戦えないはずだ。
「勝ったな。コレで目的達成だ。次にやっと行けるな。」
「ああ、そうだね。……でも、アンタ、泣いてんのかい?」
「ハハ、ほっといてくれよ。こういうときは。自分が無能なおかげで勝った様なもんだからさ……。」
確かにちょっとショックだったんだ。自分の特性のおかげで勝てたのはいいが、それはある意味特性を証明する結果になってしまった。こういうのは中々割り切れないよな……。