第304話 「そうかんたんに わたしが たおせるかな」
「ダメだ、そいつをアレと融合させてはいけない!」
ラップはトリ巨人の元へ向かうアキラを咎めるように叫びながら、手にした弓のない弩ような武器で狙う。それと同時に武器の先から光線のようなものが放たれアキラに命中した。だが、光線は拡散して何の効果も成さなかった。トリ様と同じ様な結界がそれを弾いたのだ!
「無駄だ。オレには何も効かない。俺の正体がわかっていれば、こうなることはわかっていただろう?」
「正体だと? お前は何者なんだ?」
「気付いていなかったのか、ロア? オレが真の主だということに。」
(ズゥゥゥゥン!!!!!)
トリ巨人がアキラのいる場所までやって来た。トリ巨人はうつむいた状態で目から光線を出してアキラに照射し始める。光線はアキラの体のまわりを輝きとなって埋め尽くし、その体を宙に浮かせ吸い込むように引き寄せた。
「ファイ・バードはあくまでオレの作り出した使い魔みたいな物だ! オレは今から体を融合し完全無欠の力を手に入れるのだ!」
アキラの体は巨人の体に溶けるようにめり込んでいった! 宣言通り、奴の体はトリ巨人と同化してしまったようだ! ラップの情報ではグルだということだったが、そもそもは奴が本体だったことを証明しているかのような事象だった。
「海の王シー・ソルト、雲の王クラウド・タイガー、奴らの無念、失敗を糧にしてお前たちを倒す必勝の策を考えていた。ファイ・バードという偽の主を作った上で、あえてお前たちに協力すると見せかけてお前たちの特性を観察することにしたのだ。」
「アイツラとは仲間だったんだな? 負けた理由も知っているから手の混んだ策を使ったというわけか。」
塔の封印を守る主は今まで、人外の魔物ばかりだった。この先も同じ様に魔物の姿をした主が現れると思い込んでいた。だが実際は、その意表をつくようにアキラのような奴が現れたというわけだ。
「アカ・シャッセがクラウド・タイガーを取り込み、自らの力へと変換した”ライフリーチ”の能力には驚かされた。だが逆にオレも使えば対抗できると思ったが故に、ファイ・バードにその能力を与える事を考えたのだ。」
「アタイの能力を真似したんだね! アレは真似しようったって出来るものじゃないんだよ!」
「そう、これはマネじゃない。お前の遺伝子データを取り込みファイ・バードに反映させたから出来たことなんだ。」
「は? 何言ってんのか意味がわからないよ!」
「まあ、お前たちのような原始的な野蛮人には理解し難い概念だろうけどね! 要するにお前の髪の毛を採取して、取り込んだのさ!」
髪の毛を……? そんなものを取り込んだからといって、その能力を再現できるんだろうか? アカの能力は相手を食べることによって能力を取り込む事が出来る。それはまだわかる。そんな些細なものだけで実現できるとは思えない。
「勇者ロア、お前はその最たる例を知っているだろう? ヴァル・ムング、お前の宿敵が竜帝の力を取り込む時に何を使った?」
「まさか”血の呪法”の事を言っているのか?」
「その通り! やり方や用いる力は別物だが、原理的には同じだ。魔術を用いるか、技術を用いるかの違いでしかない。」
禁呪と呼ばれたアレを……技術力とやらで再現したのか? 大掛かりな機械が必要となるあたりは技術側の方が大変そうだが、魔術の知識がなくても似たようなことが出来るというのは驚きだ。でもさあ、なんか回りくどいことしてない?
「お前自身にそれを適用すれば良かったのでは? トリなんかにやらせなくても出来たんじゃないか?」
「オレ自身には適用できない。ファイ・バードが擬似生物だったから能力の編集が可能だったんだ。複数に増殖できたのもそのためだ。とはいえ、お前に倒されたのは全くの計算外だった!」
ここでいきなり攻撃が振るわれた! 巨人のパンチ! ものすごい勢いで振りかぶった攻撃が俺を襲う! まるで建造物とか巨大な岩が飛んできたかのような迫力! 俺は全力で飛び退いて躱してやり過ごした。元いた場所を突風を伴って巨大な拳が通り過ぎていく!
「勘のいい奴め! それも武術の動きというやつか! 厄介な事だ!!」
「腹いせかよ! でもどうせ複数トリ様を用意していたんだろ? だったら問題ないじゃないか?」
「そういうのは問題じゃない! あの結界はどんな攻撃であろうと無効化するのだ!
それをお前は何事もなかったかのように斬り捨てたのだ! 本来あってはならないことなのだ!」
あの結界も本来あってはいけない事に該当するような? だって、アカの剛腕を使った攻撃を無効化したんだぞ? 俺以外ならもれなく”詰み”の状態に陥ってしまう。本来無敵ってのはあり得ないことなのだ。じゃないと不公平すぎるだろ。
「あの攻撃を無効化する策は思いつかなかったが、お前と同じ力を使うことは出来ると考えた! アカだけじゃないぞ? お前の遺伝子データも取り込ませてもらった!」
「うわぉ!? 俺の分まで取ったのかよ! 気持ち悪いことしやがって!!」
「お前の得体のしれない技の方が気持ち悪いわ! せいぜいその身で切れ味を味わうがいい!!」
巨人は何やら背中から筒のような物を取り出した。その筒を上に向けてかざすと光の帯のような物が出現した! 巨大な光の刃を持った剣! まさか、その剣であの技を振るおうと言うんじゃないだろうな?