第30話 D・L・Cの目的
「ローラを捕らえるだなんて! 彼女は並みの魔術師では叶わないほどの強さを持っているのに!」
「並み? 勘違いするな。私だけならば苦戦していただろうがな。彼らのおかげでスムーズに事を運ぶことが出来た。」
アンネ先生一人なら相転移力場に対抗する手段は何もないはず。D・L・Cのメンバーに力を借りたのかもしれない。幻術による変装もそうなんだろう。
「我々がフェルディナンドの元弟子だということを忘れるなよ。最新技術が使われているとはいえ、ゴーレムを無力化することなど容易い。」
「あなたがファイアー・バード?」
「その通り。私がリーダーだ。私の名声も後世に良く伝わっているようで、何よりだ。」
全身朱ずくめで、神も赤色。ローブには炎の模様を模した刺繍が描かれている。炎魔術の天才と言われた彼は後世にも、その優雅で情熱的な姿をしていたと伝わっている。正にその姿で私達の目の前にいる。
「それにな、あの相転移力場はこのロスト・ワードが開発した魔術だ。原理がわかれば恐れるに値しないのだよ。」
「まさか、ゴーレムの防御システムにまで利用されるとは思わなかったけどね。」
遮光用のアイマスクを付けた女性魔術師が誇らしげに語っている。この人がロス
ト・ワードらしい。
「あなた達の目的は何なのですか? このような危険な迷宮で何をするつもりなのです?」
「決まっているではないか。学院に対しての報復措置を行うためだ。もちろんそれは手始めの計画に過ぎんがね。」
「報復? もう既にフェルディナンドはこの世を去っています。加えて、あなた方が報復すべき相手もこの世には残っていないはず。」
フォグナーさんが私達を代表して説得に当たってくれている。確かにフェルディナンドはともかく、今は彼らが活躍していたときとは大きく様変わりしているはず。報復を行うのだとしても、その対象がいないのでは、その行為は無駄な行為に思える。
「我々はそもそもこの学院を解体するために行動していた。新世界を作り上げるために、その拠点とするためだ。」
「新世界ですって? それではフェルディナンドがやろうとしていたことと同じではないですか?」
「うん? 違う違う。奴は神となってこの世を支配する事を考えていた。我らは違うあくまで魔術師として新世界を作り上げるのだ。優秀な者を起用し、無能者を排除または奴隷化して、新たな支配体制を作るのだ。いわば、古代の魔術文明の再現を目的としているのだ。」
数千年前に存在していたという伝説の古代文明。全世界を魔術の力で統治し、巨大な都市を築き上げていたと伝わっている。しかし、月屁と到達する目的で巨大な塔を建造しようとしたため、神の怒りを買って文明ごと一夜にして崩壊させられたとも言われている。
「時代錯誤な目的をお持ちのようですね……。その様な事を現代の人々が許容するはずがありません!」
「許容される必要などない。何故なら、我々の行いによって従わざるを得なくなる。そのためにデーモンと賢者の石が必要になってくるのだ。」
「デーモンの力を使うというのですか、あなた方は!」
デーモン復活は賢者の石入手の脅しの手段ではなく、自分たちがそれらを利用するためだった? デーモンを利用するだなんてとんでもない! しかも、ここの最深部に封印されているデーモンは四天王ポジョスの眷属。それを解放してしまえば大変なことになる。
「使うとも。方法は貴様らに伏せておくが、支配にはデーモンの力が必要不可欠だ。常に死の恐怖を突き付けられれば、誰しもが従わざるを得なくなるのだ。」
「それでは恐怖政治ではないですか!」
「構わんよ。寧ろ、道徳、人の情等といった綺麗事だけでは人は支配出来んのだ。恐怖は万能だ。性別、年齢、文化という垣根を越えて通用する。生っちょろい理想だけでは世界を統治することは出来んよ!」
この人はフェルディナンドとは別種の歪んだ思想を持っている。能力を至上と考えているところは同じだけれど、他人の感情、事情は全く見ようともしていない。あまりにも利己主義的な考えでしかなかった。
「そこでだ。手始めに貴様らにデーモンの封印を解除してもらう。難解なダンジョンだ。我々の手を汚さずに貴様らの力を有効活用するのだ。」
「クッ! 私はともかく、未来ある若者にそのようなマネをさせるなんて……。あなた方には人の心という物がないのですか!」
「過去の遺物如きが言うセリフかな? これに関しては我々の協力者アンネの意向も入っているということを忘れるな。」
「勇者がこの場にいないのは残念だが、奴が苦しむ切っ掛けを作れればそれで良い。私を生かしてしまったことを後悔させるためにな。」
ロアはアンネ先生と二度戦って、二度も命を奪わずに彼女を無力化するだけに留めていた。それがこんな形になって、私達に報復して来るだなんて……。彼の慈悲の心が却って仇になったのは今回が初めてかもしれない。