第296話 ゴメンクダサイ! ……止めとこ。
「見ろ。アレがクルセイダーズの駐屯地だ。」
アキラに案内され、地下道を駆使して問題の場所までやって来た。異世界なのは間違いないのに同じ名前の組織がある。その衝撃も冷めやらぬまま、目的地まで来たわけだ。共通しているのは軍組織だという点だ。しかし、世界、文明が崩壊した世界でそんな組織がまだ存在しているということに違和感を覚えた。アキラ達一般人と一緒に生活していないのは何故か? アキラ自身は「厄介」という表現以外で多くを語ろうとしなかったが、何らかのトラブルなり問題なりを抱えているのは伺い知れた。
「なんだいアレは? 全身フルプレートで防備を固めてるじゃないか? 文明が発達してても割と発想は同じなんだね。」
「でもちょっとなんかゴーレムみたいな印象もあるな。武器も弓と弦が付いていない弩みたいなのも持ってるし。」
見張りで立っている兵士を見ると物々しい全身鎧を着た人間ばかりで構成されていた。だいたいああいうのは、馬に乗るのが前提になってたり、動きやすいようにある程度金属の面積が減らしてあったりするもんだ。にもかかわらず、普通にヤツらは歩いたりしている。重さを感じさせない雰囲気がある。軽い金属で出来ているんだろうか? それにしても不自然だ。
「アレを大昔に使われてた鎧とかみたいに思ってる? 違うぞ。鎧というかアレは兵器だ。パワード・スーツっていう、筋力を増強するための動力を持った装甲服みたいなもんだ。武器も銃を使っている。」
「兵器なのあれ? 筋力まで補正してくれるんか? 鎧の方はまだ分かる。それよりも銃って何?」
「そこから説明しないとダメ? こういうのがありそうだったから、道中は敢えて説明を避けたんだけどナ……。」
「めんどくさくてすまんな。」
「まあ、いいよ。アレは遠くから弾を飛ばして敵を打つ武器だと思ってくれればいい。」
弓と弦が付いていない弩……前にも似たようなものを見たことがある。銀色仮面が使っていた武器に似ている。でもアレは”魔法の杖”と似たもので、特定の魔術”破壊の術式”を発動させるのに特化した魔導器だった。
あれは魔法、こっちは未知の技術が使われた弩の様な武器ではあるらしい。近寄る前に四方八方からアレで撃たれたらアッと言う間にお陀仏になっちまうだろうな。警戒しておこう。アレを撃たせてはいけない。
「さて、問題はどうやって中に入るか、だ。」
「真正面から『ごめんください』って入っていくわけにはいかんのか?」
「そんな平和な手段が通じるなら、アイツらと別々に暮らしてないぜ。あんなの軍隊崩れのヤクザとかギャングみたいなもんだ。軍服着た山賊と変わりないね。」
「国がなくなくなったら、暴力集団になっちまうってわけかい。やっぱどこでも軍隊なんてもんは信用に値しないね。」
アカは何やら軍隊というものに何らかのネガティブな認識を持っているようだ。何か過去に嫌な経験でもしたんだろうな。かく言う俺も集団・組織についてはあまりいいイメージを持っていない。
梁山泊の影響が大きいかもしれないが、それだけでは説明が尽かないような気が……。根拠がどこにあるのかは不明瞭で記憶が曖昧だ。子供の時だったのか、そういうことさえわからない。
「でも、安心してくれ。俺はこんなこともあろうかと、裏口の有無を調べておいたんだ。」
「は? 最初からそれを紹介しろよ!」
「敢えてしなかった。何故ならば、アイツラの防備が万全だということを知っておいてほしかったんだ。少人数で戦ってどうにかなる連中じゃないんだ!」
「トリ様を斬り捨てる事が出来てもか?」
「そんなのは問題じゃない。アイツらはいくらでも湧いてくるし、銃で蜂の巣にされるだけだ。」
「トリ野郎ごときを倒すためにもっと厄介な連中の所に忍び込もうとしてる事自体矛盾しているとは思わないのか?」
「そんなのは問題じゃない。倒すことなど出来てない。現にヤツはまだ存在しているじゃないか。」
「……?」
何だこの違和感は? おなじ文言が繰り返されたような? この塔を上り始める前にも似たようなことが……? だいたい、あのトリ様だってそうだ。本来倒されるはずはないとか言ってなかったか? この世界には妙な不文律が働いている様な気がする。まるで誰かの作った筋書きに沿って話が進んでいるような気がする。
「とにかく、正面からではダメだ。裏口から侵入する以外に考えられない。」
「そうじゃないと困るんだな? わかった、わかった。おとなしく従うよ。」
「なんだい、その言いぐさは? アンタ、なんかおかしくなってないかい?」
「アカまでそんな事を……もういいから、早く行くぞ。」
なんだかアカは俺を不審に感じているようだ。真正面から行くなんて馬鹿な話をしたからかもしれない。どんな相手でも真正面から決死の勢いで戦う狂戦士ぶりからは考えられないくらい、普段のコイツは現実的で手堅い方法を取りたがるのも事実だ。俺のやり口に不満を感じているのだろう。
「そこの皆さん、コッチにどうぞ。ここからなら安心して先に進めますよ。」
地下道の入口から手招きしている男がいた。物陰に身を隠しているので全貌は見えないが、見張りの連中みたいに全身鎧を着ている様だ。外観は見える部分だけでも違うように見えるので、ヤツらとは別勢力なのかもしれない。何者だ? 信じていいんだろうか?