第295話 屍の後に続いているのは地獄さ。
「その破壊兵器とやらで、あのトリ様は倒せないの?」
「バカ言っちゃいけない! そんな物使えるわけがないだろ!」
「なんで?」
それだけ優れた技術があるんなら、アイツにぶつけてやればいい。それだけ規格外の破壊をもたらすなら、あんなの何匹いようと物の数ではないはずだ。倒しても倒しても出てくるなら、一辺に掃討してしまえばいいのに?
「出来るわけ無いだろう! アレは、あの兵器は深刻な汚染をもたらすんだ! 人や動物なら、その毒素に侵されていずれは死んでいく。植物だって育たない不毛の大地になるんだ!」
「な、なんだと!?」
「都合のいいものってのはこの世に存在しないってのは、共通の概念みたいだね。ここの連中もアタイらも。」
破壊兵器を使っただけで汚染される? 全てが焼き尽くされて元の姿に戻るのに長い年月を必要とする…というのならわかる。汚染されるってことは毒が含まれていると? なんだか、俺らのよく知るアレみたいじゃないか。デーモン関連、闇の力に関する話と似ているところがある。
「それにな、汚染の影響はモノによって何十年、何百年と続くんだ。汚れたから洗えばいいとかそんなレベルじゃないんだ。」
「え? じゃあ、今もまだ汚染されているのか?」
「ゼロではないからまだ残っている。ようやく近年収まったばかりだ。」
「……ってことはつまり?」
「最終戦争ってのは、俺が子供の時に起きた。」
「マジかよ……。」
ここの人たちはずっと地下で生活していた? ようやく近年って言葉の意味から察するとそういうことなんだろう。それで外に出られたと思ったら、あのトリ様がいたってことか。それはたまらんな。
「アンタ達が異世界から来たって言うなら、俺達がそこへ行くっていう考えもできるな。汚染されていない世界があるんなら、移住を検討しても良いかもしれない……。」
「しかし、どうなるかな? アタイらが来たあの塔の中には魔物がうじゃうじゃいる。ここの人たちは見るからに先頭経験がなさそうなのばっかりだ。これじゃあっさり野垂れ死ぬか、魔物のエサになっちまうよ。」
「オイオイ、この人らの希望を潰すような言動はやめろよ。」
「本当のことを言ったまでさ。現実的に考えないと被害が大きくなる。第一、あのトリ野郎がいるのにどうやってたどり着くって言うんだい? まずはそこからだね。」
「まあ、アンタの言う通りだな。目が醒めたよ。」
「夢も希望もあったもんじゃねえな。」
活路を見いだせたんなら、そうさせてやればいいのに。とことん現実的な奴だな、アカは。復讐のために生きてきたという背景があるから、心がすさんでしまったのかもしれない。環境がそうさせているのかもしれない。不幸としか言いようがない。最もそいうのを払拭させるのが勇者としての役割かもしれない。
「お先がまっ暗闇でも、幸い俺達の目的は一致している。あのトリ様を駆除すれば希望が見いだせるかもしれない。」
「トリ野郎の屍の後に続いているのは地獄さ。それはアタイ達もアキラ達も同じさ。」
「揚げ足を取るなよ。まずはトリ様を倒すことに専念するんだ。後のことは終わってから考えるんだ。」
「いいよ。確かに今はアンタの意見の方が正しいね。」
「ハハ、言えてる。俺達の憂いは目の前の障害を乗り越えた先にあるってことか。流石に勇者の格好をしているだけのことはあるな。本物みたいだ。」
「お、おう……。」
ていうか、本当に勇者なんだが? この世界では架空の人物になっている説が濃厚になってきた。俺やアカ、あのトリ様はこの世界にとっては浮世離れした存在として認識されているようだ。
「でも、どうするんだい? アイツには何も攻撃が通じない。無理矢理倒しても、すぐに復活する。アレをどうやって対処するつもりなんだい?」
「対処法自体は俺も試行錯誤していたところだったんだ。そこでアンタが食らわせた攻撃を見た。あれでいいアイデアが浮かびそうなんだ。あの結界を無力化出来るかもしれないんだ!」
「本当か? アレをどうにか出来るって言うんだな?」
アレを八刃以外でどうにかする方法があるんだろうか? まあ、でも世界を破壊し尽くせる兵器が作れるくらいなんだ。なにか方法があるんだろう。いや、あると思いたい。簡単にはいかないかもしれんけど。
「アイツをデジタル情報として取り込んで、電算機上で編集して結界を除去すればいいんだ。そのための機材を手に入れないといけないけどな。」
「取り込む? でじたる? 除去? 意味がわからん!」
「とにかく、技術を使えばアレをなんとか出来そうなんだね?」
「だけど、取りに行かないといけない。しかも厄介な場所にね。」
やっぱ困難が待ち構えているようだ。ただではいかないよな。なんでもかんでも無効化する結界を消し去るからには特殊な物が必要になるんだろう。世界戦争で滅ぶ前ならある程度は簡単に手に入ったのかもしれない。この荒廃した世界では貴重品になってしまったのかもな。必要なものはわかっているが、手元にないってことはそういうことだろう。
「厄介な連中を相手にしないといけない。でも、アンタらなら強そうだからなんとかなるかもしれない。」
「護衛になれってことかい? まあ、いいさ。ただでというわけにはいかないだろうしね。」
「ヤツらの名はクルセイダーズ。軍隊崩れの暴力集団だ! 手強いぞ!」
「……!?」
今、クルセイダーズって言ったか? 嘘だろ、オイ! まさかの名前が出てきたな。でもここは異世界。俺の知る組織とは名前が一緒なだけで別物かもしれない。でも、同じ名前なのはちょっと気が引けるな……。