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【第3部】勇者参上!!~究極奥義で異次元移動まで出来るようになった俺は色んな勢力から狙われる!!~  作者: Bonzaebon
第4章 はぐれ梁山泊極端派Ⅱ【沈黙の魔王と白い巨塔】 第1幕 異界塔士Ro・Ar
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第286話 犠牲は必ず生じる……?


「結局、借りは返して貰えないままだったなぁ!!!!」



 パッチラーノがいた場所に辿り着いたときにはすでに遅かった。窓の外側には何もない。陸地なんて一つも見えない空に真っ逆さまに落ちていったのだ。落ちていく際の断末魔の叫びのみが耳に残る。



(チーン、チーン、チーン、チーン!!)



 まただ。落ちていくアイツをただ見ている事しか出来なかった俺を責め立てる様に例の音が鳴る。今ではもう鳴る理由は理解できた。同時に手の甲に浮かび上がる数字の意味も。ただわかったところで何も嬉しくはないし、何かが出来るというワケでもない。



「終わったのかい?」


「気がついたか。ということは元のお前に戻ったんだな?」


「姿はそのままだけどね。」



 虎の魔王に体を乗っ取られたアカだったが、俺が魔王のみを斬り捨てた事で支配権を取り戻した様だ。だが変質した体は元に戻らないようで見た目は虎の魔王女性バージョンといった外見のままである。


 体自体も奴に切り替わっていたのだろう。だとしたら逆にアカがアイツの体を乗っ取ったのだとも言える。狙ってやったわけではないが、なんとも皮肉な現実を引き起こしてしまった。



「すまんな。もっと早くに気付いて奴を倒しておけば良かった。」


「構わないよ。こうなったおかげで憎いアイツの呪いからは開放されたんだ。生まれ変わった気分だよ。」



 ちょっと変わった能力のある人間から、獣人というか魔王の体に変わった事に公開はないようだ。女性なら外見の変化に敏感なはずなんだが、気にする人間ではないのだろう。見も心も戦士、いや復讐の鬼となっているからこそなのかもしれないが……。



「すまん。お前を助けることは出来たが、アイツが犠牲になる結果になった。」


「どうして謝るんだい?」


「仲間を失う結果になったからだ。」



 仲間を助けた結果、別の仲間を失う結果になった。俺はこの塔のルールを知らずに起こした行動の結果ではあるが、空気の読めない事をしてしまった。そのフォローとして奴は俺と戦う道を選んだ。何もかも俺のやらかしがこの結果を引き起こしたんだ。だから、彼女に謝らないといけない。



「止めときな。謝るのは。謝るってことは、アイツへの侮辱に他ならない。こうでもしないと先へは進めないのさ。」


「なんでそのおかしなルールに疑問を持たないんだ? おかしいだろう? なんで犠牲を出さないと先に進めないんだ!」


「何をするにしても犠牲というものは付き物なのさ。アタイも強くなるために、魔物を喰らう。敵とはいえ命を奪い糧とする。物事は犠牲の上に成り立っているのさ。」


「そんなこと……、」


「アタイとは違うだろうけど、アンタだってメシくらいは喰うだろう? それも動物、植物が犠牲となった結果だ。多かれ少なかれ、そういう物の積み重ねで世の中は成り立ってるんだ。後悔したって仕方のないことだよ。」


「でもよ……、」



 その先の言葉が続かなかった。犠牲を出すという事に納得はいかない。でも、アカの言うように多かれ少なかれ犠牲というものを自分の知らないうちに、あるいは見てみぬふりをして、今の俺が成り立っているという事に気付かされた。パッチラーノだけじゃない。俺が勇者になる過程で犠牲になったのは誰だ? カレルの事を忘れたわけじゃないよな?



「納得がいかない? 困った男だね、アンタは。今までしてきたことに、不意に気付かされたくらいで足を止めるっていうのかい? 情けない。」


「俺は間違っている……? じゃあ、この先進むべきじゃない。進めば、これ以上に犠牲を生むことになる。」


「逃げれば一つ、進めば二つ。」


「何だそれは? なにかの格言か?」


「逃げるよりも、先に進んだほうが得られるものは多い。アタイの人生のモットーさ。」


「何だよそれ? 俺には理解出来ない理屈だな。」


「いいんだよ、理解しなくても。オツムだけで考えてたら、そのうち行き詰まるのさ。今のアンタみたいにね!」



 オツムだけじゃないやい。俺はそんな理屈めいた考えだけで動いてるワケなじゃない。大して考えずに行動を起こすこともあるし、たまには考えることもある。野生の勘もオツムの方もどっちも頼りにならない俺だから、両方を駆使しないと生きていけない。それなのに目の前にいる女は勘違いをしている!



「うるさいよ! 俺のことなんか、お前に分かってたまるかよ!」


「逆ギレかい? しょうがない男だね! 全く男って奴はすぐに追い詰められるとガキみたいに駄々をこねる!」


「ああ、そうさ! 俺なんて所詮、ガキだよ! それをわかった上でお前に宣戦布告する!」


「あぁ? 何言ってんだい? ブチ切れたついでに頭がおかしくなったのか?」


「なにが『逃げれば一つ、進めば二つ。』だ!! お前の理屈なんか否定してやる!! 俺が違うってことを意地でも証明してやる!!!!」



 俺はダン、っと足を踏みしめ、アカに指を突きつけ挑戦状を叩きつけた。犠牲を強いる世界はもっぱらゴメンだ! 気に入らないなら否定してやるしかない! 真っ向勝負だ。そもそもここは魔王が作り出した世界なんだ。負けるわけにはいかないのだ!


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