第283話 残念だが、あの時とは違う。
「何で? 義手、義足の部分がそのままじゃないのよ! おまけに目まで! 不便なからだねぇ。」
虎はアカ・シャッセの体を乗っ取り我が物とし始めていたが、その中での不都合にも気付きつつあった。アカが敵に奪われたと言っていた部分だけは再生できず、そのままになっているのだ。彼女自身もどれだけ魔物を取り込んでも元に戻らないと言っていた。
「もしかしてこの現象、あのお方の力ではないかしらね?」
「あのお方って誰のことだ?」
「あのお方の名前は口外無用。そうとわかれば、自前で用意するまでよ!」
虎は豪快に義手義足義眼すべてを取り除き再生の段取りを行い始めた。取った部分からは虎本来の四肢が生え始めた。アカ本人の物でなければノーカウントなのか? ソレにしても不可解な現象である。ある意味、あのお方とやらが身内だからこそ呪いを無効化出来るという仕組みなのかもしれない。
「フフ、この女、大胆にもあのお方に戦いを挑んだようね。そして中途半端に力を見せちゃったものだから、三箇所も奪われてしまったのね。愚かなことよ!」
「てことは実力的には無謀ってほどでもなかったんだな、アカは?」
「気に入った部位があったら奪わずにはいられない、ソレがあの方なのよ。強さの秘密は”略奪”の能力にあるのよ。日々更新して永遠の若さも保てる。一石二鳥の能力よ!」
「ペラペラとよくしゃべるこった。おかげであっしらも情報収集が捗る、捗る!」
「ん、んまぁ!? 聞き耳立てるなんてどれだけデリカシーがないのよ!」
アカを取り込みオネエ化したことが災いしたのかやたらおしゃべりな奴になってしまった。おかげでいらん情報をペラペラと……。アカはおしゃべりな性格ではなかったが、虎は女性化の影響をモロに受けてしまっている。慣れないことをするからそんな事になるんだろうなぁ。
「これ以上、おしゃべりしてたら、もっと秘密をバラしてしまいそうだわ! その前に牛ちゃんの敵討ち! お仕置きよ!」
「これで二度目じゃないか、牛の敵討ちとやらは! なんとしてでもアカの体は取り戻してみせる!」
虎は指先の鋭いかぎ爪を伸ばし、オレに格闘戦を挑んできた。体格はアカがベースとなっているので、以前倒した時よりも小さい。小回りが多少効く分、切り返しも早く対処は難しくなっているが、前のような当たったら致命傷という一撃には程遠かった。
「ちくしょー! 体は軽いけど、力が思うように入らないのが歯がゆいわね!」
「ソレだけじゃないぞ! 俺はお前と戦うのは二度目だ! 手の内は全部知ってる。その上、俺はあの後、お前とは非確認らない程の強敵と何度も戦ってきた。お前なんか屁じゃねぇ!」
しかも、あの時みたいに壊れたムラサマで戦っていたときとはわけが違う。自分専用の剣が完成し、腕と馴染ませるために、右腕を義手にして体の一部となっている。コイツがこんな所で暫定的に復活するまでの間に俺は大きく成長していたのだ。下位とはいえ、魔王に引けを取らない技術を身に着けた結果が今の状態を作り出しているのだ!
「く、くそっ!? 人間のクセにどうして強くなるのよ! デタラメにも程があるわ!」
「出鱈目な頻度で災難に見舞われて結果だ。次から次へと魔族だけじゃんくて色んな脅威と戦ってきた。つい一昨日なんて、お前の数倍は強い”鬼”と戦ったんだからな! それより弱いお前に負けろという方が無理があるのさ!」
「なるほど。ソレが旦那の強さの秘密か……。」
あの後は休むまもなく大武会、宗家との決着、蛇の魔王、猿の魔王、学長、鬼やらと戦ってきた。相対的に虎が弱く見えるのは必然的な事実っだった。当然、牛に関しても同じことが言えただろう。
「いくら強くっても、この体はアンタの仲間の体なのよ! アタイを殺すということは、この女も同時に死ぬのよ! アンタなんかにソレが出来るかしらね?」
「忘れたか? 俺が牛の魔王の本体を倒した時の事を? 宿主の女の子には危害を加えずに倒すことに成功したということを!」
「んなことが出来るはず……、」
「出来てしまうのが、この俺だ! 霽月八刃!!!」
(ザンッ!!!!)
虎の攻撃を十分見極めた上で、技を叩き込む隙きを伺っていた。慎重に虎の魂だけを見極めて、斬り捨てる。それが霽月八刃だ。精神生命体を切り分けるにはこの技が必要不可欠だった。今までの死闘の数々が初めて使用した時よりも用意に行える土壌となっていてくれたのだ。
「ぐおああああっ!? 馬鹿な、精神が消えてしまうぅぅ……。」
体内に取り込まれていたデーモン・コアの気配が次第に消えて行った。これでもう復活することはないだろう。この空間の主が再び作り出さない限りは。でも、アカの姿は元に戻らない。取り込んでしまった影響はそのまま残り続けるということなんだろう。
「あ〜あ、そのまま倒してしまいやしたか? これは困ったことになってしまいましたぜ。」
「な、なんだよ? どういう意味なんだ?」
「旦那はよかれと思ってやった行為が返って、妨げになってしまったんでさぁ。」
「は!? お前、何言って……、」
「いくらなんでも鈍いですぜ、旦那? この塔の法則に則らないと先に進めないんでさぁ。」
パッチラーノはやれやれといった調子で、自らの装備を取り出し、戦闘態勢に入ろうとしていた。誰と戦うつもり……? 向き合っているのは、俺一人。まさかとは思うが、血迷ったマネは止めて欲しいところだが……。