第277話 お前のような牛がいるか!!
「最後の一枚の効果が出ていると言いたいのか?」
「No.6の効果、それは”魔術ゼッタイ禁止”なのだ! だから解除禁止なんだ! それは俺自身が使ったものも含まれる! なぜなら解除も魔術扱いだからだぁ!!」
「ああそう……。それは大変だね……。」
「これでは見えないままではないかぁ!!!」
とにかく解除できないらしい。ここではそういうことになっているようだ。さっきの泉空間では別の場所扱いになっていたっぽいので大丈夫だったのだろう。泉の場所のままなら3対1で戦えたのに無闇解除するから……。まあいいや。コレを口実に真っ暗なままで止めを刺してやるとするか。
「ううう! 図ったな! 卑怯者め!!」
「それはお前のことだろう? ぜーんぶ自業自得。俺は何も罠など仕掛けていない。お前のテリトリー内だろ。ていうか、人ん家で罠仕掛けるような奴がドコにいるんだ。」
自分に不都合があると、すぐ人のせいにする。自分が罠の扱いを怠った結果、こんな珍事にまで発展してしまったのだ。罠の性質を熟知していなかった故に自分が巻き込まれたのである。取り扱い注意、説明書は熟読しましょう、だな。
「残念だが、このまま決着をつけさせてもらう。」
「よく言うぜ! 何も見えないのに何が出来る!」
「目で見えなくても、お前の位置は丸わかりだ。だってお前、気配がだだ漏れだからわかり易すぎる。気配だけでもお前をぶった斬ってやる!」
「や、止めて! 俺とお前の仲だろう? な? な?」
俺とお前って……。今日会ったばっかりじゃないか! 会ったばかりなのに時間の経過と共に俺へのヘイト行為だけが蓄積されていく一方だった。しかも始まる前からエルの件もあるし、どこに許せる、見逃せる要素があるのか? どんな聖人でも助走をつけて殴り飛ばす様な行為しかしてない。悪即斬!
「俺とお前の間柄だからなんだが? それにお前は絶対に許せないんでな!」
「じゃあ、魔王辞めます! 今から精錬潔白な牛になります!!」
「お前のような牛がいるか!! くらえ、天破陽烈……八刃斬!!!」
「ぎゃあああああああっ!!!!!!!!」
技が炸裂すると共に真っ黒な気配が小さくなり消えていく。魔王特有の濃厚で嫌な感じのする気配は本来の物よりは多少弱めな感じはしたが、所詮、羊の魔王が作り出した幻だからだろう。本物はもう少しまともでエゲツナイ奴だったんだろうなとは思う。そうであってほしい。魔王がこれじゃあなぁ……。
「おっ、旦那、戻ってきやしたね?」
「ん? ああ、戻ってこれたみたいだ。」
ずっと暗転していた景色も牛が死んだことで解消し、元いた場所に強制送還されたようだ。牛の次は虎……と思ったら、すでに死んでいる。ていうかアカ・シャッセに喰われている。そう、喰われているのである!
「倒したのか? そいつ、落ちぶれたとはいえ、魔王の端くれだったんだぞ? やるじゃないか。」
「ええ、おかげさまで、あっしはほぼ棒立ちで事が運んだもんで、楽でしたわ。」
「じゃあ、実質、アカだけで倒したと?」
「そういうこってす。」
毎度よろしく、アカだけで片が付いた模様。本物よりは弱くなっているみたいなので一人でも倒せたのだろう。でも倒した所でコアを破壊しない限りは復活する。喰ってしまえばどうなるのかはわからない。体はなくなるので復活は難しくなるだろうが、取り込んだアカにどういう影響が現れるのかはまだ未知数だ。乗っ取られたりしなけりゃいいが……。
「これで次の場所に行けるんだな? 封印を守っていた奴は倒したんだし。」
「そうでしょうぜ。これで先に……、」
言いかけた所でパッチラーノは動きを止めた。アカの方を見て何らかの異変を感じたようだ。確かにアカの様子がおかしい。虎を全部取り込んだ所で何か唸り声を上げている。人ではなく、虎の声そのものだった。
「うぐ、ううう!!」
「どうした? しっかりしろ!」
「どうやら手遅れかもしれやせんぜ!」
アカの気配の気質が変わっていく! どんどん真っ黒な気配を帯びていっているのだ。魔族特有の闇のオーラで満たされていった。見た目も虎の魔王に変貌していった。だが、義手義足の部分はそのままになっている。凄いアンバランスな見た目になってしまっているが、虎に体を乗っ取られたのは間違いなさそうだ。
「フフン、女にやられたから屈辱的だったが、乗っ取ってやったわよ。まさか俺を食べるとは思わなかったけど、それが返って逆転の機会になってくれたようだわね!」
なんか虎の口調がオネエみたいになってしまっている。乗っ取ったアカの人格の影響が出ているのかもしれない。そのせいで虎自身が女装しているような感じになってしまったのだろう。何だこれは?
「んまあ! 勇者じゃないのよ! ちょっと、牛ちゃん、ゴズちゃんはどうしちゃったのよ? まさか、倒したとか言わないでよ!」
「いや、倒したとしか言えないんだが? お前と違って完全に消滅させてやった結果がコレだ。塵一つ残っちゃいないぜ。」
「むきぃ! 許さんぜよ! アタイのマブダチの敵はとらせてもらうわよ!!」
「なんだか、奴さんのキャラが変わりすぎておかしなことになってますぜ。」
パッチラーノは薄笑いで事態を見ているが、俺達にとってはやり辛い状況になっている事を忘れてはいけない。珍事とも取れるが、ある意味人質を取られているようなものだ。さて、どうやって対処するべきか?