第274話 もんすたー・さぷらいずど・ゆう!?
「ここからが俺の真骨頂だぜ! この道中でお前に地獄を見せてやる!」
「じゃあ、さっきまでは本気じゃなかったのかよ!」
「本気に決まってんだろ! 今はそれ以上の超絶必殺本気モードなんだよ!!」
超絶……、そして必殺……? なんかムキになった子供の言い訳みたいに聞こえる。なんか精神性が小物過ぎて呆れてしまう。魔王だったら、なんかこう、あるだろう? 現時点では今後の牛の魔王先生にご期待下さいとしか言いようがない。敵にフォローされるとはどういう事態なんだろう?
「では遁走地獄めぐりNo.1! コイツを喰らいな!」
牛は逃走しつつ一枚の札を投げ捨てた。それは以外にもくっきりと見えた。というか、まわりの風景は輪郭の線しか見えない空間だが、俺や魔王自身はしっかりと普通に見えるのである。なので少し遠巻きに見ても何をしているかくらいは分かるのである。そんななこんなで見ている内にお札が光を放ち、床に散らばるなにかに変貌した。金属片? 丸い形をしているのでコインかもしれない。
「ゆけ! クリーピング・コイン! ヤツを一網打尽にするのだ!!」
「え? くりーにんぐ?」
牛はこちらを向いて落ちている物体…コインに呼びかけた。そんなもんで何を……と思っていたら、コインが弾けて俺の方に飛んできた! すごい勢いだ! それが何枚か時間差で飛んでくる!
「痛って!?」
「コインの雨あられで苦しむがいい! 一枚のコインを笑うものは、複数のコインに泣く羽目になる! 地理も積もれば山となるぅ!!」
ひっきりなしにコインは飛んでくる。一度やり過ごして地面に落ちたコインも再び飛んでくる。キリがない。だが多分コレは魔法生物なので、あの技が効果大だと思う。
「絶空八刃!!」
(ズオアッ!!!)
標的が小さいので、一つ一つ斬っていれば時間がかかる。少々大げさだが、操られている魔力の根源を断ち切ることにした。本体はおそらくさっきのお札だろうと思ったからだ。予想通り、コインは一枚のお札に戻り、真っ二つになった残骸が床に残された。
「馬鹿な! クリーピング・コインが!? 俺のトラップカードが!?」
「こんな子供だましで俺を倒せると思うなよ!」
「おのれちくしょう! 許さんぞ!」
悔しがりつつ、牛は再び逃走を始めた。ただ走るのではなく前かがみになりながらせかせかと何か手を動かしている。さっきのお札のような物をまだ何枚か所有しているのかもしれない。No.1と言っていたくらいだ。続きがあるのだろう。逃げながらそれを選んでいるに違いない。
「ええい! 二つ飛んで迷宮地獄めぐりNo.4、”モンスター・サプライズド・ユー”だ!!」
(どどーーん!!!)
なんか通路を埋め尽くさん限りの大きさの何かが出現した! 狭い場所に押しくるめられた様な巨大な半裸のオッサン。いわゆる巨人という魔物か? デカイ割にはダンジョンにもよく出没するという話をタニシから聞いたことはあるが……。
「ちょっと! 邪魔なんだけど!!」
「邪魔と言われましても、私はここから動けないのです。困っているのです。」
「困っているのです、じゃねえよ! 困るんだよ、そこに居られたら! 牛野郎が逃げてしまうだろうが!」
「そう言われましても、動けないんですよ、ハイ。」
何だコイツは! あからさまな罠とは言えるが、なんか傷付けたり、殺す気満々なわなとは違って調子が狂う。ここまで消極的な罠は見たことがない。悪気はないのに罠として機能してしまっている事に巨人は困っているようだ。
「どいてもらわないと先に薦めない。どけないって言うんなら倒すしかないな。」
「ひいぃ!? パンパンするのだけは止めて下さい! ガチンコなのは勘弁して下さい!!」
「なんなんこいつ……。」
なんか本気で怯えている。魔王が出してきたトラップとは思えないくらい、ヘタレな存在だった。こんな態度を取られたら、手を出すのも躊躇ってしまう。どうすればいいのか?
「しょうがない。壁を削るか。」
「削るって、乱暴なマネはよして下さい! ガチンコンなのは止めて下さいって言ったじゃないですか!」
「お前は攻撃しないから黙っててくれ。」
嫌がる相手を倒さずに進むしかない。道を塞いでいるんなら、道を確保するしかない。別に怒られるわけじゃないだろうから、堂々とやらせてもらう。早速、破竹撃で壁を壊しにかかった。
(ズガーーーン!!!!)
「こ、コラ! ダンジョンを攻撃するな! 壊すのは反則だぞ!」
「だって、しょうがないじゃないか。」
(ズガーーーン!!!!)
「あああ!? 様式美が一人の破戒者によって壊されてゆく!」
そんななことを言うんなら、こんな罠を使わなければ良かったんじゃないか? 徐々に壁を破壊して通過できるだけの隙間を作っていく。壁は輪郭しか見えないが凹んでいってるのはわかるので、気にせず作業を続けた。
「よし、通るぞ。お前も達者でな、巨人さんよ。」
「通過されっちゃったら、私の面目台無しじゃないですかぁ!」
「でも、闘いたくないんでしょ?」
「そうなんですけど……。」
相変わらず、罠の巨人は消極的だった。俺が隙間を通っている時に体重をかければプチッといけるはずなのに、それをしてこなかった。どんだけ消極的なんだ? それはともかく牛の後を追わないといけない。
「おのれー、おのれー! こんな裏技的な方法で突破されるとは思わなかった! しかし、この間に次の準備が出来てよかった! お次はNo.5だ!!」
突破したと思ったら、お次はNo.5らしい。お札は地面に落ちて消滅したものの、目に見える変化は何もなかった。というか、何も起きてなくない? と思ったら、視界が……回っている? その場で回転している! 足は動かしていないのに!