第255話 イート・The・ミート!
「しかし、アイツはどこに行ってしまったんだろうな?」
突然、俺一人だけ、妙な世界に転送されてしまい、成り行きで4人パーティーを組まされ、謎の塔に挑む羽目になった。候補は4人いたが、そのうち一人は必然的に選ばれないわけで、なんか後ろ向きな発言を繰り返す男、ソード・ダンを加えないと選択をした。その選択に気を動転させた奴は一人で先に塔に入って行った。一人では入れないとかいう話だったはずなんだが……。
「旦那、あんなヤツぁ、気にしても仕方ないですぜ。どうせ、どこかでのたれ死んでいまさぁ。」
「それじゃ、後味悪いだろ……。」
当然、塔の中は安全じゃない。複数人で突入することが推奨されているくらいだ。湯水のごとく、どこからともなく魔物が現れる魔境だった。でっかい芋虫とか、ドロドロのゲロみたいなヤツとか、ゾンビ、スケルトンの類が出てくるのだ。アンデッドモンスターは塔に挑戦した人の成れの果てかもしれないが、見覚えのある男ソード・ダンの姿はなかった。多分。
「しかし、この塔は何のために存在しているんだ? なんでみんな、登ろうとするんだ?」
「塔の先に素晴らしい海が存在していると聞いた。」
「言ったはず。アタイの倒したい敵がいるのさ!」
「だそうだぜ、旦那? むしろ目的を知らない旦那の方がイレギュラーなんでさぁ。」
「うう、そう言われると心苦しいな……。」
奴らの目的は仲間にする時にそれぞれアピールしていたから知っている。敵討ちや金儲けってのはわかるが、海が存在するとはなんなのか? 塔の下とかならありえるが、この先の上にあるとはなんなのか?
「でも、塔の上に海ってのはありえるの?」
「ところがありえるかもしれないんでさぁ。元々、この塔の頂上には楽園があるっていう伝説が広がってるんで。海があったり、時空のねじれがあったりして異世界に通じてたりなんでもありらしいですぜ。常識でさぁ。」
「常識とか言われても、なんか、俺の知ってる世界とは違うんだが……。」
色々とおかしい。俺は羊の魔王の白い巨塔に挑んでいたはずだ。気がついたら別の細長い塔のある空間にいた。しかも、なんだか所々おかしさの感じる世界で別の塔に挑む羽目になっている。これは罠なんだろうけど、俺をどうしたいのか、目的がよくわからない。魔王の狙いはどこにあるんだろう。
「あのさ、俺は別の塔に挑もうとしていたなんて言ったら、信じるか?」
「別の塔って、何の話でさぁ?」
「まあ、普通そういう答えになるよね。いいよ、コレは聞かなかったことにしておいてくれ。」
「別に事情は人それぞれでさぁ。中に海とか地底とか、塔とか城だって存在してる可能性もあるはずですぜ。」
なんだか、ペラペラとよくしゃべる男だ。他の二人は黙々と戦闘を熟して魔物を打ち倒しているというのに。まあ、俺もコイツと延々、世間話をしているだけなんだが。戦闘に関しては俺達の出る幕はない。
「はあはあ、まだだ。こんなくらいで苦戦していてはダメなんだ。憎いアイツを倒すには、アタイはもっと強くならないといけないんだ!」
「無理はするなよ。その途上で死んだら意味がなくなってしまうんだからな。」
戦闘は特に女戦士アカ・シャッセが率先して死にものぐるいで戦っているのだ。大洋騎士は彼女が討ち漏らしたヤツを倒すという形でサポートしている。殆どは彼女が倒している。死にものぐるいで戦っているもんだから、返り血とかでドロドロになっている。ある意味狂気染みている。彼女をここまで駆り立てる敵とは一体何者なんだろうか?
「強くなるには敵さえ喰らわないといけない! 強くなるために! 憎いアイツを倒すために!」
アカ・シャッセは何を思ったのか、倒した魔物、デカイ芋虫の破片を手に取り食べ始めた! 死にもの狂いにも程がある。コレは流石に引くわ。見ている内にどんどん食べていく。そして、彼女の体にも異変が現れ始めた。
「なんだ? どういうことだ? アカ・シャッセの傷が治り始めているぞ!?」
これだけ猛然と戦いを繰り広げていたんだ。無傷では済んでいない。彼女の体のあちこちには切り傷、擦り傷、刺し傷等が出来ていた。とはいえ、それくらいで済んでいるのも奇跡的とも言える。その傷も倒した魔物を食べることで治していっているのだ。これはどういう原理なんだろう? 魔法とは違うような気がするし、よくわからない能力だ。
「旦那、知らないんですかい? あの女はモン・ハンター族なんですぜ。」
「何その種族? 聞いたことないんだけど?」
「モン・ハンター族ってのは魔物を狩ることを生きがいとする戦闘民族で、倒した魔物を喰らうことで身体能力を高めることが出来るんでさぁ。だから、傷の治るスピードも早くなるし、戦闘能力も上がる。」
戦闘民族だから狂気的な戦い方をするというのか? しかも相手を食べて能力を高めるなんて、聞いたことのない話だ。しかも、食べてすぐに影響が出てくるなんて、あまりにも強力過ぎやしないか?
「しかもそれだけではないんですぜ。食べた相手の能力を得ることも出来るんでさぁ。」
「えぇ……。」
俺の口は空いたまま塞がらなかった。彼女の体には食べた相手、芋虫の緑色の体色が付き始めていた。見ているだけでも気味が悪い光景だった。じゃあ、あのドロドロしたヤツを食べたらどうなるんだろうか? ろくでもないことを想像してしまった。ウォエッ!