第247話 あの時に言ったこと。
「剣の修復能力、変質及び強化能力、それらはあまりにも特異で唯一無二の能力だった。その事実はヴァル様の興味を引くには十分な特色だと言える。」
「つまりはヤツがミヤコの能力を欲しているというわけか?」
「その通り。優れた能力を持つ者は世界を救う救世主たるヴァル様の元に集うべきなのだ。」
ヴァルがミヤコの能力に興味を示しているとは! ヤツだって最初からミヤコに注目していたワケではないだろう。そもそも、勇者の剣を守り、その保守を担当していた一族なのだ。当然のことながら、それ以外の役割は今までなかったと言われている。
「もしかして、キッカケはそれか? お前の剣、ミヤコに改良してもらったんだよな?」
学院での騒動の際、エピオンはゲイリーと交戦していたと聞いた。その戦闘でエピオンは武器を破壊され、窮地に陥った。だが、その場に居合わせたミヤコの力によって剣は修復され、ゲイリーを絶命させたと聞いた。
その出来事をキッカケにミヤコの能力に興味を持ったのだろう。その場の修復だけで戦いが優勢に傾いたのだから、ヤツとしては手元に置きたいと考えたに違いない。
「コイツに聞いたんだな? なら、話は早い。コレを修復、強化した手管をヴァル様は高く評価したのだ。もちろん、お前のその義手、その多機能ぶりにも一定の評価をしているとも申されていた。」
俺の義手もか……。確かにコレは直接見ていただろうから、コレを見た後にエピオンの剣の話を聞けば、ヤツも心を動かしたのだろう。そういう意味では俺達は最悪のタイミングでミヤコを突き放してしまったのである。
「お前たちにとっては痛手だろう。唯一無二の能力を持った仲間を失ったんだからな。いくら勇者といえども、取り返しの着かないミスを犯した。この事実は覆せないだろう。」
エピオンはハハハ、と勝利を確信したような高笑いをした。俺らの失態自体をあざ笑うというよりも、誰よりも人間社会を深く憎む男だからこそ、その愚かな習性を嘲笑しているのだろう。人間などこの世に存在する価値などないと言いたげな感じだ。
「良いのか、ミヤコ? そなたがそやつらに付いていくというのであれば、これからは犯罪者、罪人と同じ目で見られてしまうのじゃぞ? 覚悟はしておろうな?」
「うっさいよ、サヨちん! ウチは決めたんだ! アンタらを見返させてやるって。そのためなら手段は選ばない。ウチらが勝てば立場はひっくり返るはず。勝てば官軍って言うじゃない? 要はそれを実現させるんだよ!」
「そなたという奴は……。」
サヨちゃんは奴らに付くことのデメリットを説き、説得を試みたが、判断を取り消すことはできなかった。アイツなりに固い決意を持って、ヴァル達の元へ行く決心を固めているみたいだ。生半可な説得では呼び戻せないだろう。ここまで来たら、本人の意思を尊重してやるしかない。
「別にいいさ。お前が決心した事なら、止めやしないよ。」
「そなた、本気で申しておるのか? あやつを悪の手に染めさせるつもりか?」
「別に言うほど、ヴァルは極悪な奴じゃないさ。特に俺と戦った後は、アイツだって変わったのさ。なんどか再会して、そのふるまいを見ただけでもわかった。力への執着、世界征服の野望は昔に比べたらおとなしくなったと思う。」
「何を血迷ったことを……。」
「血迷ってなんかないさ。それにな……、」
ヴァルが初めて会った頃と比べて別人みたいになった事は見ただけでもわかった。あの時の俺の無我夢中で放った一撃は、奴の邪気を切り払い消し去ったかのように思える。その効果は”天破陽烈八刃斬”の片鱗だったのだと思う。
現在の俺はその技を自在に操れるようにもなった。あの時に死にものぐるいで繰り出していなければ、極めることも出来なかっただろう。俺とヴァルはあの戦いを通して互いに成長したのだと思う。
「俺はミヤコと剣の里で会った時、言ったんだよ。『自分の思うように好きに生きろ』ってな。青の時はそう言ったが、俺が不甲斐なかったから付いてきてくれてたんだと思う。俺もいつまでもミヤコに甘えているわけにはいかないからな。」
「アンタ、あの時の事を憶えて……。」
「だから、行ってこい! お前はずっと一箇所に留まっているような器じゃないんだ。もっと色んな所で色んな物を見て経験を積むべきだ。きっといつか戻ってきた時も裏切り者だなんて突き放したりしない。他の誰かがそんな事を言ったとしても、俺だけは絶対にそんな事を言わないと約束する! お前にぶん殴られたとしてもな!」
「なにさ、勝手なこと言っちゃって! アンタはウチの保護者か! アホのクセにウチの保護者ヅラすんな! 立場が逆なんだよ!」
思った通り、反発された。アイツよりも大分年上だからついつい、親とか保護者みたいな目線で見てしまう。でもそれが俺の本心だ。下手にゴマカシても見透かされるのが予測できるから。
「でも、気をつけろよ。特にそこにいる、邪竜の魔女と変態魔術師には近寄るな、そして、気を許すな。」
「あーら、よくわかっているわね。私ならこのお城ちゃんを隙あらば食べてしまうかもしれないしね?」
「失礼ナ! 私のヨうな、紳士はどコにモいま〜セんよ!」
「というより、この変態は死体にしか興味がないのよ。私はあの死体の女と如何わしいことをしているのを知っているから。」
「人ノぷらいべーとを暴露スるなんテ、失礼にモ程がアりまース!!」
俺は注意をしろと警告しただけなのに、本人たちがその性格、価値観が異常であることを明けっ広げにしてしまった。こんな簡単に異常性が漏れ出してしまうのだから関わり合いにならないことは必須だろう。しっかりと守らないと、発狂してしまうかもしれない。
「フフ、それではいいんだな? コイツは俺達の勢力に肩入れをするということで?」
「本人が決断した結果だ。俺は文句は言わない。言わないことにする。」
「じゃあな。俺達は魔王を倒しに行く。お前たちは魔王以外の連中に負けたりするんじゃないぞ。ヴァル様が失望されるからな。」
エピオン、そしてミヤコ達は俺達に別れを告げ、塔へと入って行った。その間にも、後ろにいる仲間達からどよめきが起きている。俺の判断が賛否両論になっているようだ。確かにそうだろうな。どう考えたって非難されるような事をしでかしたんだから。
でもいい。その罪は俺が全て被る。間違ってもアイツに罪を背負わせるような事になってはいけない。俺の判断がしでかしたことなんだから……。