第246話 侵攻開始!!
「さあ、突入だ! 攻略作戦開始!!」
ついに羊の塔に突入する作戦が始まった。計三パーティーが編成され、それぞれ別の入口から進行する手はずになっている。あの塔には入口が複数存在するためだ。なおかつ入口も多人数で侵入するには狭すぎたという理由もある。
塔自体はバカでかいクセに入口は小さめ。入れる人数を絞って、的確に排除していくための措置なのかもしれない。奇策を常套手段とする羊の魔王らしい計略と言えた。
「さて、どの入口から入るかを決めねばなるまいな。決定権はロア、キミに与えるとしよう。君の勘を信じたいと思っている者も多いだろうからな。」
「いいのか? 俺が決めてしまうぞ?」
エドは俺に決定権を委ねてきた。本来ならクルセイダーズの作戦だからエドに指揮権があるはずなのだが、”勇者の勘”を頼りにしたいということなのだろう。俺自身が、というより額冠に蓄積された経験則で選出するという意図なのだと理解できた。
「さあ……額冠よ、導いてくれ!」
額冠に意識を集中させ、どの入口が最適かを判断させる。……と同時に額冠から過去の勇者の記憶らしき光景がいくつも脳裏に浮かぶ。中のえげつない罠、例のオニオンズ達の強襲など、基本的には先代達が見た最後の光景が中心だった。それらを見てしまったために少しネガティブな感情が芽生えてきてしまった。
「結構、キツイもんだな。先代達は何人もこの場所で倒れたみたいだな。その時の記憶が俺の中に流れ込んでくる!」
「しっかり気を持って!」
「ああ、大丈夫だ。これくらい耐えてみせる。こんなことで弱音を吐いてたら、先代達に悪いからな。」
エルからの励ましを受け、塔へ侵入するための優位な情報を得るために集中を続けた。すると次第にネガティブな情報以外も徐々に見えるようになってきた。中を順当に進んでいく様が見えてきた。
「ハッ! 入口に入る前に立ち往生かよ! 随分と呑気なヤツらだぜ!」
「ムッ! 貴公らは……。」
俺が集中している中で、それをあざ笑うかのように現れた集団がいた。リーダーのブレンダン、そして配下の処刑隊メンバーを引き連れての登場だった。あの時の舞台に現れた連中に加え、エルの従妹、ヘイゼルもその中にいた。
「悪いな、イグレス。俺らは俺らの方法で攻略させてもらう。手助け無用、気遣い無用、俺らの面倒は俺らだけで見るつもりだから、邪魔してくれるなよ。」
「指揮系統が違うとはいえ、協力したほうが得策ではないのか? 魔王は協力なしに打倒できるほど甘い相手ではないのだぞ?」
「構わんさ。だが命を落とすような無謀な真似はするつもりはない。危険と判断すれば、退却も辞さない。俺はお前が思っているほど猪突猛進じゃないぜ。」
相変わらずふてぶてしい態度を変えるつもりはないようだ。その中でヤツ自身を見てみれば、昨日、戟覇と戦って損傷したはずのバカでかい剣が元通りになっていた。ただ単に予備を持ってきただけなのかもしれないが、真相は不明だ。この前の戦いで義手を壊しても元通りにしているようでもあるから補修する技術自体も持ち合わせているのかもしれない。
「じゃあな、俺らは先に行かせてもらうぜ。」
「待て! 我々は手を組むべきなのだ!」
「ああ……そのまま行っちゃった……。」
エドの制止も聞かず、ブレンダン達は塔へと入って行った。そのメンバーの殆どは俺達に何も見向きせずに俺達の前を通り過ぎていったが、ただ一人、俺達をあざ笑うかのように含み笑いをしている奴がいた。
例のちっちゃいオッサン、ギリーとかいう奴だ! アイツはなんか俺達をバカにするような態度を取ることが多かったが、今回も例外ではなく同じスタンスを取っていたのだ。いつか、アイツにはギャフンと言わせてやりたいものだ。だから……お前らも死ぬなよ!
「チッ! 処刑隊に先を越されたか。」
「なっ!? お、お前は!?」
処刑隊を見送ったのも束の間、また別の勢力が塔の前に現れた。エピオン! それに侍のコタロウもいる! それだけじゃない、氷の魔女邪竜レギンや変態屍術師オプティマまでいた! ヴァルの配下が一斉に俺達の前に現れたということになる!
「学院以来だな。勇者殿。此度は我らも魔王打倒を目指して推参した。」
「ヴァル様も羊の魔王の力には興味を示しておられる。打倒した上で奴の研究資料を全て奪取せよとの命をオレ達は受けている。今回はお前たちに構うつもりはないから安心しろ。」
「だが、先程の処刑隊同様、我らはお主らよりも先に手柄を取るつもりではある。図らずしも奴らやお主達と競い合う形となろう。いや……他にも羊の魔王の首を狙う輩はおるようだ。」
侍の視線は遠くにある塔の入口の一つを見つめていた。俺も釣られて見てみるとその場所には……獣人の集団がいて、今正に塔に入ろうとしているところだった。その中の一人がこちらをしばらく見つめてから、他の仲間の後をそそくさとついて行った。
……タニシだ! 遠くでわかりにくかったが服の色、背格好からするとアイツに間違いなかった。やっぱり、アイツは犬の魔王と行動を共にしているようだ。
「あれはお主の仲間ではないのか? 拙者の友人の子孫のあの男ではないか?」
「そうさ。わけあって、犬の魔王と一緒にいるみたいなんだ。」
「裏切り者め! 今度会ったらとっちめてやる!」
「ん? ミヤコ? お前、参加しないんじゃなかったのか?」
タニシのことについて侍と話していたら、ミヤコがその影からひょっこりと姿を現した。会議中に揉めた後はどこに行ったかわからなかったが、結局、出てきてしまったのだろうか? でも、何か不自然な感じだ。
「裏切り者、それはウチもそうなんだけどね。今回、ウチはこの人たちと一緒に行くから!」
「な、なんだと!?」
「どういうことなんです、お嬢さん!?」
俺だけでなく、皆がそう思い、口々に完走を漏らした! 特にロッヒェンにとってはショックが大きいだろう。敵対している勢力に付いているんだから。とにかく、俺達にとっては計算外の行動をとったのだ!
「コイツはオレらが借りていく。いや、下手をしたら、今後はずっと俺達、ドラゴンズへヴンの一員になるかもしれないな。」
衝撃的な事実がエピオンの口から発せられた。まさかの裏切り? いや、俺らが少し厳しい対処をしてしまった結果が思わぬ事態を招いてしまった。ミヤコの本心は一体……?